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第12話_ハナブサ-4
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「…ありがとう、俺の代わりに殿下をお護りしてくれて。お前にとっては陛下の御身も案じられて堪らないだろうに、苦労をかける」
― 俺は命令に従って動いているまで、礼には及ばん。陛下にあらせられても、病室とオペ室を兼ねたシェルター内にて処置が進んでいる他、特別な警護体制にて安全性確保は盤石だ。お前が案じる必要は無いぞ ―
「…そうか、わかった。…さっきは悪かった、当たり散らすような言葉を並べて。ここから動けない不満を…殿下をこの手でお護り出来ない自分の情けなさを、お前に理不尽にぶつけてしまった」
― 気にするな。使命感に駆られる者ならば、主の身を案じるが故に思考回路が不安定になって当然。言葉を吐いて楽になれるのならば、好きなだけ俺に当たるといい。お前の意に添えるかわからないが、全て受け止めよう ―
抑揚の無い調子は相変わらずだが、指令にのみ従う受動的意思とは別に、思考して言葉を選んでいる能動的意思が僅かに窺えるハナブサの返答に、ソウヤは少し笑みを浮かべた。
― 殿下は変わられた ―
「!」
ぽつりと漏れたハナブサの言葉に、ソウヤは表情を戻す。
― 以前は、あのように感情を荒げて何かを訴えたり、言われることに異を唱えるようなことは無かった。心根がお優しく、何事も黙って受け容れる物静かなお方だった ―
「…」
― 今は…お前が護衛に着任して以降は、お優しさは変わらないが、よく感情を露わにするようになった。俺は、あのお方は御自身の意思を以てすべてを享受しているものと思っていたが、お心内には常に取捨選択があったのかもしれない ―
「…そうか…」
― アンドロイドらしからず、感情の起伏が激しいお前が供にいることで、殿下も感情表現が豊かになったのだろうな ―
「それは…良いことなんだろうか?」
― さてな。少なくとも、以前の殿下であれば、従者に手をあげられることは考えられなかっただろう。それをポジティブに受け止めるべきかは、現時点では判断出来ん ―
「うーん…」
― ただ、今までご自分の感情を上手く表出せずに内へ溜め込んでいたのだとすれば、いかなる形であれ捌け口を得られるようになったと言える。精神衛生上は良い傾向なのではないか ー
「…だと良いな」
ハナブサは、陛下付き護衛として着任して10年が経つベテラン機だった。
それこそ王子が物心つく前から傍にいて、陛下と共に成長を見守ってきていた。
人間ほどの思考力や共感能力は無いにしても、王子の人となりはだいたい把握しているつもり、との思考回路も窺えた。
そんなイツキ王子の変化を、まるで新たな知識を得たように興味深げに語り、どこか嬉しそうにも感じられる彼に、ソウヤは少し微笑ましさを感じた。
ソウヤは、謎めいていたこの陛下付き護衛機『ハナブサ』の持つ個性に、今初めて触れたような気がした。
そして彼とならば、この先も共に協力して護衛任務を果たしていけそうだと感じた。
― 俺は命令に従って動いているまで、礼には及ばん。陛下にあらせられても、病室とオペ室を兼ねたシェルター内にて処置が進んでいる他、特別な警護体制にて安全性確保は盤石だ。お前が案じる必要は無いぞ ―
「…そうか、わかった。…さっきは悪かった、当たり散らすような言葉を並べて。ここから動けない不満を…殿下をこの手でお護り出来ない自分の情けなさを、お前に理不尽にぶつけてしまった」
― 気にするな。使命感に駆られる者ならば、主の身を案じるが故に思考回路が不安定になって当然。言葉を吐いて楽になれるのならば、好きなだけ俺に当たるといい。お前の意に添えるかわからないが、全て受け止めよう ―
抑揚の無い調子は相変わらずだが、指令にのみ従う受動的意思とは別に、思考して言葉を選んでいる能動的意思が僅かに窺えるハナブサの返答に、ソウヤは少し笑みを浮かべた。
― 殿下は変わられた ―
「!」
ぽつりと漏れたハナブサの言葉に、ソウヤは表情を戻す。
― 以前は、あのように感情を荒げて何かを訴えたり、言われることに異を唱えるようなことは無かった。心根がお優しく、何事も黙って受け容れる物静かなお方だった ―
「…」
― 今は…お前が護衛に着任して以降は、お優しさは変わらないが、よく感情を露わにするようになった。俺は、あのお方は御自身の意思を以てすべてを享受しているものと思っていたが、お心内には常に取捨選択があったのかもしれない ―
「…そうか…」
― アンドロイドらしからず、感情の起伏が激しいお前が供にいることで、殿下も感情表現が豊かになったのだろうな ―
「それは…良いことなんだろうか?」
― さてな。少なくとも、以前の殿下であれば、従者に手をあげられることは考えられなかっただろう。それをポジティブに受け止めるべきかは、現時点では判断出来ん ―
「うーん…」
― ただ、今までご自分の感情を上手く表出せずに内へ溜め込んでいたのだとすれば、いかなる形であれ捌け口を得られるようになったと言える。精神衛生上は良い傾向なのではないか ー
「…だと良いな」
ハナブサは、陛下付き護衛として着任して10年が経つベテラン機だった。
それこそ王子が物心つく前から傍にいて、陛下と共に成長を見守ってきていた。
人間ほどの思考力や共感能力は無いにしても、王子の人となりはだいたい把握しているつもり、との思考回路も窺えた。
そんなイツキ王子の変化を、まるで新たな知識を得たように興味深げに語り、どこか嬉しそうにも感じられる彼に、ソウヤは少し微笑ましさを感じた。
ソウヤは、謎めいていたこの陛下付き護衛機『ハナブサ』の持つ個性に、今初めて触れたような気がした。
そして彼とならば、この先も共に協力して護衛任務を果たしていけそうだと感じた。
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