上 下
66 / 112

第12話_ハナブサ-2

しおりを挟む
「…無事じゃない」

感情の失せたトーンでありながらも、案じるように問い掛けてくるハナブサへ、ソウヤは目を閉じ、呟くように小さく返事を返す。

「何か用か?」

― お前の現状を把握したい。音声で会話出来るということは、監視は付いてないのだな ―

「いたら、今頃猿轡を咬まされ、さっきの電流縄でもう一度縛られてるところだ」

― 拘束からは解かれたか。その口振りから察するに、動力は概ね復帰しているようだな ―

一切の抑揚が無いハナブサの応答に、ソウヤは不快感を露わにし、薄く開けた目で空間を睨む。

「何のつもりだ? 俺がここを無理矢理破り出やしないかと監視するよう命じられたのか? それとも、反乱分子として溶解廃棄されるのを待つしかない同胞を揶揄いに来たのか?」

― そういう意図は無い。与えられた任務の一環だ ―

「お前はこうなることを全部知ってたんだろ? 知った上で、何喰わぬ顔で大広間へ運んで、俺を捕えようとしてた近衛兵たちに加担した。スタンドアロンになって何も知らない俺を、涼しい顔して騙して、陥れた」

― それについても、任務の一環に過ぎない。俺は指令を受けて動いたまで…騙す意図は無かったし、お前が留置所そこへ入ることになったのも、俺の把握するところではない ―  

「任務通りに…お前の主の命令通りに動いて、今度は自分が陥れた奴を高見の見物か? なんてふざけた奴だ…さっきの抱きかかえといい、ここまでの屈辱を味わわされたのは生まれて初めてだ」

次第に声量を増し、感情の向くまま強い口調で責めるソウヤにも、ハナブサは変わらず淡々と続けた。

― あの時俺に与えられていた最優先事項は、王子殿下の安全かつ確実な護送。お前の捜索と確保は、あくまでサブミッション…お前の心象の考慮は任務外だ ―

「…」

― ただ、運搬方法については俺が独自に判断したもの…不手際があったとするならば、その点についてだけは謝罪しよう ―

「…余計なことを。今更謝られたって、もう遅い」

― そうか。記憶領域に不要なものならば、あの間のお前の記憶をデリート処理するよう、俺の創造主に依頼してみよう ―

「もういいったら! お前と会話してると疲れる」

― 疲れを催すのは良くない。なるべく安静にしていろ ―

「…黙っててくれ」

最後はそう呟くように漏らし、ソウヤは嘆息をつきながら会話を切った。
しおりを挟む

処理中です...