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第11話_濡れ衣-3

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ふいに現れたサンチェス博士は、ソウヤのすぐ目の前でしゃがみ、感情の読めない面差しで見下ろした。

「状況から見て、一番疑わしいのはあなたよ。停電を引き起こすと同時にログアウトし、あらかじめウイルスをばら撒いておいた警備ロボットをシステムから外れさせた。そしてみずからのネットワークと繋ぎ、連れていた王子殿下を誘拐目的で運ばせようとした。そんなところかしら」
「…違います…っ」
「今回のテロによる被害…死傷者は相当数、建物の損壊も甚大よ。護衛着任間も無くで周到に準備までして、なかなか大それたことをやってのけたものね」
「違います! …私は…やっておりません…、…信じて下さい…っ…」

ソウヤは無慈悲な電撃に全身を震わせながらも、懸命に訴えかける。

「そうね。今のあなたは、自分の中にしか残っていない記録を我々に信じて貰う他ないわね。…残念だけど、認証から外れたあなたの言葉が真のものか証明する材料は、何も無い。現状残されたものが全てよ」

しかし、サンチェス博士はそうにべもなく言い切ると立ち上がり、ソウヤの眼差しからさっさと視線を外した。
応酬を見守っていた近衛隊長が、背後からサンチェス博士へ声を掛ける。

「博士…今回洗い出したデータログ…ハッキングによる整合性の乱れの他停電による空白部分もあり、信頼性に欠けると思われますが…王家へ提出しても差し支えありませんでしょうか?」

近衛隊長からの問い掛けに、サンチェス博士は一時黙し、小さく口を開く。

「…確かに、ハッキングされたセキュリティシステムのログは、証拠とするには弱いですね。殿下がお目覚めになったら改めてお話も伺えるでしょうし、この場は一旦処分保留とすべきかもしれませんわ」
「了解致しました。当該護衛機は嫌疑不十分として、ひとまず拘留させることにします」

電撃に動力を削がれ、横たわったまま弱々しく呼吸を繰り返すソウヤを、近衛兵数人で抱え起こす。
抵抗する力も言葉も失ったソウヤは、そのまま引きずられるように大広間から外へと連行されていった。
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