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第9話_幾度目かの急襲-3

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なんの言い訳も出来ず、膝をついて頭を垂れる従者に、王子は眉を寄せながら続けた。

「父上は、ソウヤには教えても僕には教えて下さらなかった。…僕が王族としてまだ半人前だから、知らなくてもいいと判断なさったんだ」
「そうではありません。あなたを一番に大切になさっているからこそ、余計なお気を遣わせないようにとお思いになったのです」
「僕が王宮の警備の心配をすることが、"余計"なことになるの?」
「っ…! 失言を致しました、どうかご容赦を――」
「…ううん、君の言う通りだよ。僕は単に王家の血を引いてる人間というだけで、王家や王宮にとってお荷物なんだから」
「…!?」

またしても突然、王族らしからぬ発言を口にする王子に、ソウヤは眉を顰めた。
王子は絹のズボンを硬く握りしめ、全身を震わす。

「父上がお怪我をなさったのは、僕を庇ったから…あれが無ければ、お体が不自由になることも、入院なんてする必要も無かった。…何も出来ない僕が…父上の足を引っ張ることしか出来ない僕が、王宮の秩序を壊してしまったんだ」

そう小さく呟きながら、王子は膝から崩れ落ち、両手で頭を抱えてうずくまった。

「母上の命を奪って産まれたうえに、今度は父上まで…! 僕はひとを呪う子なんだ。僕なんて、この世にいない方がいいんだ…!」
「イツキ…! そのようにご自分を責めては――」

と、震えるその肩にソウヤが手を触れた刹那、辺りは闇に包まれる。

「!!」

ソウヤは目を見開き、瞳を素早く暗視モードに切り替える。
王子の身体を抱き守りながら、辺りを目視する。

…何が起きた…!?

数秒後、周囲に光が戻り、徐々に明度を上げていく。

…予備電源に切り替わったか…完全復旧は出来てないみたいだ。

やや薄暗いままの照明を見てそう判断したソウヤは、イツキ王子にぴたりと寄り添いながら立ち上がる。

「…? 今、暗くなった…?」
「はい。でも、もう大丈夫みたいです」

顔を伏せていて、今起きた一瞬の変化を把握出来なかった王子へ柔らかくそう返しながら、ソウヤは王宮のセキュリティシステムへアクセスする。

…建物の損壊履歴無し。
…セキュリティシステムのネットワーク網に異常無し。

「…!」

ひとつひとつ現状を確認していくソウヤは、ある違和感に気付き顔を凍らせた。

…警備ロボットのシステム認識ユニット数が、足りない。

セキュリティシステムでは、警備ロボットに備えられているGPSを基に、彼らの位置情報をネットワーク管理・把握している。
ソウヤが今アクセスして得られたデータ上では、毎日都度確認している警備ロボットの配置数から2/3ほどに数を減らしていた。

…停電が原因で、ネットワークから認識が外れてしまったのか…?
…元の配置は頭に入ってる。単に外れてしまっただけなら機体の再起動を、機体自体がショートしてしまっていたら、不具合動作を起こす前に確実に電源を落とす必要がある。
…どちらにせよ、見回って問題の起きた機体を確認していかなければ、元の警備システムにまでは回復出来ない。
…でも、警備網が激減している王宮内を、殿下をお連れして無闇に動くのは危険過ぎる…!
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