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本編
第8話_王室教師と-3
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飲み干したカップへおかわりを注ぐソウヤを見、ユン氏は静かに口を開いた。
「ところで…先ほど続きの間へと入っていったあなたの行動。あまり頂けないと私は思うのです」
ワントーンほど落としたその言葉に、顔を上げ目を丸くするに留まったソウヤへ、ユン氏は続ける。
「あなたが続きの間へ行き、いなくなっていた間、ここには王子殿下と私の二人きり。常に殿下のお傍にあるべき護衛機としては手落ちと考えますが?」
「! しかし…長きに渡り王室教師でいらっしゃるユン様が、殿下とお二人になることに、危惧するところは何も――」
「それは先入観的な思考です。宮中に侍る人間は全て、勤める歴が長かろうと仲が深まろうと、所詮は他人…信頼し過ぎると、本来お守りすべき殿下の御身を、あなたご自身で危険に晒すことになりかねませんよ」
ユン氏の言葉にソウヤは大きな瞳を更に見張り、鱗が落ちるような心地になった。
「"大丈夫だろう"と軽く考えるのではなく、"大丈夫じゃないかもしれない"と常に警戒することが肝要。畏れ多くも殿下の護衛であるならば、全てへ疑ってかかるくらいの腹積もりでいるのが宜しいかと」
「…はい…! あなたの仰る通りです。…お恥ずかしい限りです」
ソウヤは思いもよらなかったみずからの手落ちに、拳を握りしめ肩を落とした。
「私は…殿下の護衛機を務めるにあたって、いちから思考を改めたつもりでおりました。でも、何も解っていなかった…お見苦しい醜態を晒しました、どうかご容赦下さい」
「いえいえ、単なる爺の戯言です。頭の片隅にでも留め置いて下さればよいのです…あまり重く受け止めてくれますな」
身体を縮こまらせて恐縮するソウヤへ、ユン氏はふふと笑いながらとりなした。
「いえ…殿下を慮ってのお言葉、感謝致します。今後もなにか私に不手際がありましたら、是非ユン様のご指導を賜りたく存じます」
「私のことは、どうぞ"ユン"とお呼び下さい。王子殿下へ仕える者同士、対等な関係でいましょう」
「では…ユン先生と」
ユン氏は微笑みながら頷き、ソウヤの提案を承知した。
ソウヤはユン氏の自分への言動に、ただただ感動を覚えていた。
王宮へ入ってから、人間と対話する機会を得る度に、ソウヤは胸を締め付けられるような悲しみを募らせていっていた。
目を合わせて会話出来たことはまず無く、まるで物を見るような温度の無い表情と、血の通わない冷たい言葉の数々。
同じく宮中に勤める者でありながら、人間の、人間に対してとアンドロイドに対しての天と地ほどの扱いの差に、ショックを隠せずにいた。
――温室しか知らないあなたには、過酷な世界よ。…環境も、人もね――
着任から数日目にして早くも、サンチェス博士から投げられた忠告を身を持って思い知らされていた。
ソウヤにとって宮中には、王族方――懐いてもらっているイツキ王子と、ほとんどお目見え出来る機会は無いが優しく接してくれるハヅキ国王しか、まともに応対してくれる存在はいなかった。
そんな中、ユン氏もソウヤに対しては、人間相手と変わりなく接してくれていた。
なによりも、自分に対して敬意を払ってくれたり丁寧な口調で話してくれたりするところが、日を追うごとに荒むような心地になるソウヤには大いに救いであった。
…この方は、とてもお心の出来たお方だ…
…さすが、陛下の折から王室教師としてお勤めのことはある…
「ところで…先ほど続きの間へと入っていったあなたの行動。あまり頂けないと私は思うのです」
ワントーンほど落としたその言葉に、顔を上げ目を丸くするに留まったソウヤへ、ユン氏は続ける。
「あなたが続きの間へ行き、いなくなっていた間、ここには王子殿下と私の二人きり。常に殿下のお傍にあるべき護衛機としては手落ちと考えますが?」
「! しかし…長きに渡り王室教師でいらっしゃるユン様が、殿下とお二人になることに、危惧するところは何も――」
「それは先入観的な思考です。宮中に侍る人間は全て、勤める歴が長かろうと仲が深まろうと、所詮は他人…信頼し過ぎると、本来お守りすべき殿下の御身を、あなたご自身で危険に晒すことになりかねませんよ」
ユン氏の言葉にソウヤは大きな瞳を更に見張り、鱗が落ちるような心地になった。
「"大丈夫だろう"と軽く考えるのではなく、"大丈夫じゃないかもしれない"と常に警戒することが肝要。畏れ多くも殿下の護衛であるならば、全てへ疑ってかかるくらいの腹積もりでいるのが宜しいかと」
「…はい…! あなたの仰る通りです。…お恥ずかしい限りです」
ソウヤは思いもよらなかったみずからの手落ちに、拳を握りしめ肩を落とした。
「私は…殿下の護衛機を務めるにあたって、いちから思考を改めたつもりでおりました。でも、何も解っていなかった…お見苦しい醜態を晒しました、どうかご容赦下さい」
「いえいえ、単なる爺の戯言です。頭の片隅にでも留め置いて下さればよいのです…あまり重く受け止めてくれますな」
身体を縮こまらせて恐縮するソウヤへ、ユン氏はふふと笑いながらとりなした。
「いえ…殿下を慮ってのお言葉、感謝致します。今後もなにか私に不手際がありましたら、是非ユン様のご指導を賜りたく存じます」
「私のことは、どうぞ"ユン"とお呼び下さい。王子殿下へ仕える者同士、対等な関係でいましょう」
「では…ユン先生と」
ユン氏は微笑みながら頷き、ソウヤの提案を承知した。
ソウヤはユン氏の自分への言動に、ただただ感動を覚えていた。
王宮へ入ってから、人間と対話する機会を得る度に、ソウヤは胸を締め付けられるような悲しみを募らせていっていた。
目を合わせて会話出来たことはまず無く、まるで物を見るような温度の無い表情と、血の通わない冷たい言葉の数々。
同じく宮中に勤める者でありながら、人間の、人間に対してとアンドロイドに対しての天と地ほどの扱いの差に、ショックを隠せずにいた。
――温室しか知らないあなたには、過酷な世界よ。…環境も、人もね――
着任から数日目にして早くも、サンチェス博士から投げられた忠告を身を持って思い知らされていた。
ソウヤにとって宮中には、王族方――懐いてもらっているイツキ王子と、ほとんどお目見え出来る機会は無いが優しく接してくれるハヅキ国王しか、まともに応対してくれる存在はいなかった。
そんな中、ユン氏もソウヤに対しては、人間相手と変わりなく接してくれていた。
なによりも、自分に対して敬意を払ってくれたり丁寧な口調で話してくれたりするところが、日を追うごとに荒むような心地になるソウヤには大いに救いであった。
…この方は、とてもお心の出来たお方だ…
…さすが、陛下の折から王室教師としてお勤めのことはある…
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