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本編
第7話_新たに宿す忠誠-9
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満足したイツキ王子は、ソウヤを連れて天文台から出、石畳へ座る。
「…僕ね、宇宙飛行士か、君のようなアンドロイドを造る科学技術者になりたいんだ」
「!」
隣に座り、驚いた目を向けてくるソウヤへ、王子は微かに笑ってみせた。
「小さな頃からずっと変わらない、僕の夢」
張り詰めた面差しで黙って聞く従者に、王子は穏やかな調子で続ける。
「こうして星を眺めてると、あの光の灯る元に行ってみたくなる。このどこまでも続く夜空を駆け巡って、星の輝きを少しでも近くに感じていたい」
「…」
「そして…君やハナブサや、王宮で働いてるアンドロイドやロボットたちを見てると、造った人の技術力に感動するんだ。僕もひとの役に立つ機械を作って、国をもっと豊かに、平和にしたい」
「…ですが、それは…」
「うん、わかってる。僕には次の国王っていう、他の誰にも替えられない生まれ持った役目があるって。…解った上で、どうしても諦めきれないんだ。この先、王になる時が来てもきっと、この夢だけは変わらないと思う。叶わない憧れみたいなものかな」
「……」
星空を見上げながらそうぽつぽつと語るイツキ王子の横顔を見、ソウヤは掛けられる言葉が見つからないまま、同じように空へを目を向けた。
…俺は元々役目を持って生み出されたし、役目が変わった今も、指示があるまではこの先も変わることはないだろう。
…産まれた時から次期国王という将来を約束されてる殿下は、ある意味俺と似てるのかもしれない。
…でも、俺は他のことに興味が湧くことはあっても、与えられた役目以外を目指そうとまで思うことはない。
…殿下は俺とは違う。本当は他になさりたいことが沢山ある…けれど、それを諦めなければならない。
…そのような思いを抱えたままここにいらっしゃる殿下は、一体どんなお気持ちでいることだろう…
イツキ王子は、ふと肩を震わせ、小さくくしゃみした。
「! 冷えましたか? イツキ」
「うん…ちょっと。でも大丈夫」
「そろそろお部屋へ…」
人命最優先のAIを持つソウヤは立ち上がり、室内へと導こうとするが、王子は彼を見上げ、眉を寄せてみせる。
「…もう少しだけ、ここに居させて」
ちらりと見せた王子の控え目な我儘と、切望するような眼差しに、ソウヤの思考回路はすぐに切り替わる。
「――でしたら」
ソウヤは腕に吊るしていたストールを広げ、みずからの肩へ掛ける。
そしてイツキ王子の後ろへ密着して座り、ストールで自分と彼を包んだ。
「…!」
するとすぐにストール内が温かくなり、冷え切っていた王子の頬に血色が少しずつ戻っていく。
ソウヤは自分の動力出力を少しだけ上げて発熱し、まるで懐炉のようにイツキ王子の身体を温めた。
「あったかい…! ソウヤ、君凄いよ!」
「お役に立てて光栄です」
興奮の面持ちで振り返る王子へ、ソウヤはにこりと笑ってみせた。
「…? ソウヤ、少し発光してない?」
「平常時より出力を上げてるせいかもしれません。夜間は目立ってしまいますね」
「本当だ。今ここで誰かに狙われてたら、大変なことだね。いい的になっちゃう」
「ご安心下さい。イツキへは指の一本、弾の一個も触れさせません」
小さくくすくすと笑いながら、ふたりはしばらく一緒に夜空を眺め続けた。
「…僕ね、宇宙飛行士か、君のようなアンドロイドを造る科学技術者になりたいんだ」
「!」
隣に座り、驚いた目を向けてくるソウヤへ、王子は微かに笑ってみせた。
「小さな頃からずっと変わらない、僕の夢」
張り詰めた面差しで黙って聞く従者に、王子は穏やかな調子で続ける。
「こうして星を眺めてると、あの光の灯る元に行ってみたくなる。このどこまでも続く夜空を駆け巡って、星の輝きを少しでも近くに感じていたい」
「…」
「そして…君やハナブサや、王宮で働いてるアンドロイドやロボットたちを見てると、造った人の技術力に感動するんだ。僕もひとの役に立つ機械を作って、国をもっと豊かに、平和にしたい」
「…ですが、それは…」
「うん、わかってる。僕には次の国王っていう、他の誰にも替えられない生まれ持った役目があるって。…解った上で、どうしても諦めきれないんだ。この先、王になる時が来てもきっと、この夢だけは変わらないと思う。叶わない憧れみたいなものかな」
「……」
星空を見上げながらそうぽつぽつと語るイツキ王子の横顔を見、ソウヤは掛けられる言葉が見つからないまま、同じように空へを目を向けた。
…俺は元々役目を持って生み出されたし、役目が変わった今も、指示があるまではこの先も変わることはないだろう。
…産まれた時から次期国王という将来を約束されてる殿下は、ある意味俺と似てるのかもしれない。
…でも、俺は他のことに興味が湧くことはあっても、与えられた役目以外を目指そうとまで思うことはない。
…殿下は俺とは違う。本当は他になさりたいことが沢山ある…けれど、それを諦めなければならない。
…そのような思いを抱えたままここにいらっしゃる殿下は、一体どんなお気持ちでいることだろう…
イツキ王子は、ふと肩を震わせ、小さくくしゃみした。
「! 冷えましたか? イツキ」
「うん…ちょっと。でも大丈夫」
「そろそろお部屋へ…」
人命最優先のAIを持つソウヤは立ち上がり、室内へと導こうとするが、王子は彼を見上げ、眉を寄せてみせる。
「…もう少しだけ、ここに居させて」
ちらりと見せた王子の控え目な我儘と、切望するような眼差しに、ソウヤの思考回路はすぐに切り替わる。
「――でしたら」
ソウヤは腕に吊るしていたストールを広げ、みずからの肩へ掛ける。
そしてイツキ王子の後ろへ密着して座り、ストールで自分と彼を包んだ。
「…!」
するとすぐにストール内が温かくなり、冷え切っていた王子の頬に血色が少しずつ戻っていく。
ソウヤは自分の動力出力を少しだけ上げて発熱し、まるで懐炉のようにイツキ王子の身体を温めた。
「あったかい…! ソウヤ、君凄いよ!」
「お役に立てて光栄です」
興奮の面持ちで振り返る王子へ、ソウヤはにこりと笑ってみせた。
「…? ソウヤ、少し発光してない?」
「平常時より出力を上げてるせいかもしれません。夜間は目立ってしまいますね」
「本当だ。今ここで誰かに狙われてたら、大変なことだね。いい的になっちゃう」
「ご安心下さい。イツキへは指の一本、弾の一個も触れさせません」
小さくくすくすと笑いながら、ふたりはしばらく一緒に夜空を眺め続けた。
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