Reactor Heart -原子炉心臓の天使-

独楽 悠

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本編

第1話_拒否権無き指令-4

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「…」

ホログラム通信が終わると、ミヤジマ博士は息を吐き出しながら、革張りのデスクチェアへ背を深く預けた。

「参ったなー」

今回納入分はあくまで"期限付き"との一応の条件は取り付けたものの、指令を完遂できる見通しは立っていなかった。
最新型のアンドロイドは非公式に開発中だったが、今件を想定してのことではないので、完成予定は試運転期間を含めて1年後で、機体の組み上げどころか必要なパーツすら全て揃っていない。
手元にある未完成体のパーツを寄せ集めて造り上げたとしても、護衛型アンドロイド機に必須の動力である超小型原子炉が研究所に確保されておらず、今から発注をかけても即日調達など到底出来ない。

24時間という限られた猶予では、何をするにも絶望的に時間が足りなかった。

目を瞑ったまま沈黙を続ける博士を見、ソウヤは焦った風に視線を漂わせると、取り繕うように笑顔を向けた。

「コーヒー、淹れてきますね」
「…ああ、うんと濃くな」
「! はい」

かろうじて返事をくれた博士にソウヤは目を輝かせ、早足でドリップセットのある別室へ消えていく。
その後ろ姿を目だけで追っていた博士は、視線を固定したまま身体をデスクへと戻していく。

「……」

…今この研究所ラボに、動いてる原子炉はひとつだけ・・・・・、ある。

「お待たせしました」

デスクに置かれたコーヒーへ視線をくれてから、銀トレーを胸に抱くソウヤへと見上げた博士は、ぼそりと言葉を紡ぎ始める。

「…お前、生まれてから何箇月経ったっけ?」
「今月で丁度1年です。この前、誕生会やってくれたばかりじゃないですか」
「そっか。…そうだったな」

コーヒーを一口啜ると、黒茶色の水面へ目を落としながら続ける。

「最近、身体の調子は?」
「問題ありません。先月やって頂いた定期診断でも、特に異常は見られませんでした」
「…そっか」

カップをソーサーへ戻し、ミヤジマ博士はソウヤを再び見上げた。

「――『S-Y』」
「!」

にわかに"型式"で呼ばれ、ソウヤは藍色の瞳を見張る。

「『S-Y』――『SoYaソウヤ』。王族付き護衛アンドロイドとして、王宮に入ってくれ」

動揺で瞳を震わす目の前の小さな側役へ、ミヤジマ博士は真摯な視線を送りながら、苛烈な命令を下した。
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