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本編
第1話_拒否権無き指令-3
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不満気な博士をデスクへ座らせると、ソウヤは身体の前に両腕を広げ、ホログラムスクリーンを映し出す。
映像が繋がり、空間の中にスーツ姿の男性の胸像が現れた。
「…随分と待たせてくれたな、ミヤジマ博士」
「いやぁ、失礼。新型機の開発に根詰めておりまして」
画面越しの博士の大きく開いた胸元をちらりと見、ホログラムに映った男はため息をついた。
「こちらの望む成果をあげているから良いが、あまりに奔放だと私もフォローしきれないぞ。君を買っている私の体面も少しは考えてくれ」
「解ってますよ、トクラ国家防衛隊統合幕僚長殿」
そう仰々しい肩書付きで呼ばれた壮年の男・トクラ氏は、軽いトーンで済ます博士の切り返しに、眉間の皴を増やした。
「…で、何の御用ですか? 珍しいじゃないですか、こんな午前様に繋げてくるなんて」
「君に是非頼まれて欲しいことがある。…先日、王宮がサイバー攻撃およびテロ侵攻を受けたことは知ってるな?」
「あぁ、そのようですね。ニュース観ました。人づてに聞いた話だと、その件で王子付きの護衛アンドロイドが被害に遭い、修復不可能になったとか」
「そうだ。ついては、君に替えのアンドロイドを手配して貰いたい」
国防トップからの突然の指令に、博士は目を見開き、一時言葉を失った。
「……しかし、不測の事態によるAI機の入替は、先代機の製造元が補填する決まりでは…」
「それについて昨夜、臨時閣議で話し合われてな。今回の被害は先代機の判断ミスに依るところがひとつとしてあるが、当該機は元々不具合が多く、メンテナンスの回数も他社製の比ではなかったのだ。入札額に釣られて新参と契約してしまったんだろうが、護衛対象が王家となると、何を置いても安定性が不可欠…製造元としては今後不適格と」
「それで俺ですか」
「私が全責任を負って推挙した」
「しかし、俺も王家へとなると実績は無いですよ?」
「君の技術力の高さは、私への護衛機や国防隊司令局、各地基地の警備システムで充分証明されている。若くして国内外から注目を集める君のことを疎ましく思っている政治家や役人連中も、その点については認めざるを得ないだろう」
みずからへ高い信頼を寄せるトクラ氏の言葉を受け止め、ミヤジマ博士はそらへ視線を漂わせた後、息をついた。
「…承りました。で、納品期限はいつです?」
「明日だ」
「……は?」
またしても目を点にする博士へ、トクラ氏は軽く頷いてみせた。
「今から24時間以内に、王子殿下付き護衛アンドロイドを王家へ納品してくれ」
「…トクラさん、無茶振りしてるって解ってますよね?」
「ああ、承知の上だ。しかし無理を通して貰う。…護衛機を失った今、陛下の護衛機が王子殿下とお二人分の警備を兼ねている。王家としては、空いてしまった警備の穴を一分一秒でも早く塞ぎ、ひとまず護衛機の配置が従前並に整うことを望んでいるのだ」
「…」
「他の技術者ではやり遂げられない。君にしか成し得ない案件だ」
画面越しのトクラ氏は、二の句が継げなくなり唖然とするミヤジマ博士の表情をあえて無視し、淡々と指令を下した。
「これは依頼ではない、下命だ。必ずやり遂げてくれ」
映像が繋がり、空間の中にスーツ姿の男性の胸像が現れた。
「…随分と待たせてくれたな、ミヤジマ博士」
「いやぁ、失礼。新型機の開発に根詰めておりまして」
画面越しの博士の大きく開いた胸元をちらりと見、ホログラムに映った男はため息をついた。
「こちらの望む成果をあげているから良いが、あまりに奔放だと私もフォローしきれないぞ。君を買っている私の体面も少しは考えてくれ」
「解ってますよ、トクラ国家防衛隊統合幕僚長殿」
そう仰々しい肩書付きで呼ばれた壮年の男・トクラ氏は、軽いトーンで済ます博士の切り返しに、眉間の皴を増やした。
「…で、何の御用ですか? 珍しいじゃないですか、こんな午前様に繋げてくるなんて」
「君に是非頼まれて欲しいことがある。…先日、王宮がサイバー攻撃およびテロ侵攻を受けたことは知ってるな?」
「あぁ、そのようですね。ニュース観ました。人づてに聞いた話だと、その件で王子付きの護衛アンドロイドが被害に遭い、修復不可能になったとか」
「そうだ。ついては、君に替えのアンドロイドを手配して貰いたい」
国防トップからの突然の指令に、博士は目を見開き、一時言葉を失った。
「……しかし、不測の事態によるAI機の入替は、先代機の製造元が補填する決まりでは…」
「それについて昨夜、臨時閣議で話し合われてな。今回の被害は先代機の判断ミスに依るところがひとつとしてあるが、当該機は元々不具合が多く、メンテナンスの回数も他社製の比ではなかったのだ。入札額に釣られて新参と契約してしまったんだろうが、護衛対象が王家となると、何を置いても安定性が不可欠…製造元としては今後不適格と」
「それで俺ですか」
「私が全責任を負って推挙した」
「しかし、俺も王家へとなると実績は無いですよ?」
「君の技術力の高さは、私への護衛機や国防隊司令局、各地基地の警備システムで充分証明されている。若くして国内外から注目を集める君のことを疎ましく思っている政治家や役人連中も、その点については認めざるを得ないだろう」
みずからへ高い信頼を寄せるトクラ氏の言葉を受け止め、ミヤジマ博士はそらへ視線を漂わせた後、息をついた。
「…承りました。で、納品期限はいつです?」
「明日だ」
「……は?」
またしても目を点にする博士へ、トクラ氏は軽く頷いてみせた。
「今から24時間以内に、王子殿下付き護衛アンドロイドを王家へ納品してくれ」
「…トクラさん、無茶振りしてるって解ってますよね?」
「ああ、承知の上だ。しかし無理を通して貰う。…護衛機を失った今、陛下の護衛機が王子殿下とお二人分の警備を兼ねている。王家としては、空いてしまった警備の穴を一分一秒でも早く塞ぎ、ひとまず護衛機の配置が従前並に整うことを望んでいるのだ」
「…」
「他の技術者ではやり遂げられない。君にしか成し得ない案件だ」
画面越しのトクラ氏は、二の句が継げなくなり唖然とするミヤジマ博士の表情をあえて無視し、淡々と指令を下した。
「これは依頼ではない、下命だ。必ずやり遂げてくれ」
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