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本編
プロローグ-3
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「―― 御一同様、お待たせ致しました」
歓談に沸く大ホールに通る声が響き、一旦話し声が収まっていく。
王族の側近や王宮仕えの給仕長らが早足で入室し、一同の前に立つ。
「これより、王子殿下の新たな護衛アンドロイドを披露致します。なお、開発者のミヤジマ殿は別の公的な都合によりこの場は欠席となりましたので、博士からお渡し頂きました資料にて、簡単にではありますが我々よりご説明させて頂きます」
主たる要人の護衛の中でも、最上位クラスの重要ポジションとなる王子付き護衛の披露の場でありながら、生みの親たる開発者の不在と聞き、ホール内はどよめいた。
そして進行役の側近から、更に前置きは続いた。
「ええ…、ミヤジマ博士からの言伝によりますと、今回新たに配置される護衛についてはあくまで"繋ぎ"である、と。急な要請にて、本来納めるところだった開発中のものが間に合わず、期間を限っての配置になる予定とのことです。…この件に関しましては、国王陛下より特別なご高配を賜っていますので、皆様におかれましてもご承知おき下さい」
注目する要人たちの顔色を窺いながら述べられた補足事項に、会場は一層ざわつき出す。
「なんだ? "繋ぎ"とは。王家一族への護衛として前代未聞ではないのか…?」
「陛下も、よくぞお許しに…王子殿下の御身を真に案じてのご容赦であったのか? 宮中の者たちにいいように言いくるめられてしまわれたのではないか?」
「直近であのようなことが起きた上での措置とは思えん。"本命の代わり"とは…性能に不備不足があると公言しているようなものだぞ?」
「公的な都合なぞ、およそ建前であろう。己の不始末にこの場で恥をかきたくなかっただけだ」
などと、大ホールに集った者たちが宮中や開発者への不満を口々に囁き始めたところで、場を一旦収めるべく進行役が軽く咳払いした。
「ではこれより、顔見せとなります。――入れ」
呼び掛けと共にホールの正面側前の入り口が開き、スーツ姿の人物が中へ進む。
腕を背で組み、要人たちの座る側を向いて中央へ立つその姿を見た誰しもが、最初に注ごうとした視線の高さを一時惑わせ、やや下方へとピントを合わせた。
「……!?」
サンチェス博士もまた同じように視線を注いだが、今に至るまで真顔で事の次第を受け止めていた博士の眉が初めて動き、僅かに顰められる。
ホール内に居た者の誰も、言葉を発することはおろか息も吐き出せないままに、進行は続く。
「こちらが、ミヤジマ技研より納品されました、王子殿下付きの護衛アンドロイドです。製造年月は21XX年2月、完成より丁度1年が経過しております。…最新型ではありませんが、AIレベルや装甲は、先日破損しましたものとほぼ同等の性能を備えております」
説明が続くにつれ、呼吸をすることを思い出した要人たちの口が開き、ざわめきが次第に大きくなっていく。
「あれは…どういうことなのだ…?」
「あれが護衛機だと…!? ミヤジマは何を考えておるのだ、正気の沙汰とは思えぬ」
「民間人が急ごしらえで付ける生身のSPの方が遥かにまともぞ。あの見た目で何が出来るというのだ…王子殿下をお守りすることなど、到底出来ようもない…!」
顔色を失い呆然自失となる者、悲嘆し声を荒げる者、怒りに打ち震える者、様々な負の感情が場に蔓延する中、進行役はそれらを置いて、淡々と自らの役目を果たしていった。
「ええ、こちらのアンドロイドですが…ミヤジマ技研における型式は『S-Y』型。ナンバリングはありません。個体識別名称は――」
歓談に沸く大ホールに通る声が響き、一旦話し声が収まっていく。
王族の側近や王宮仕えの給仕長らが早足で入室し、一同の前に立つ。
「これより、王子殿下の新たな護衛アンドロイドを披露致します。なお、開発者のミヤジマ殿は別の公的な都合によりこの場は欠席となりましたので、博士からお渡し頂きました資料にて、簡単にではありますが我々よりご説明させて頂きます」
主たる要人の護衛の中でも、最上位クラスの重要ポジションとなる王子付き護衛の披露の場でありながら、生みの親たる開発者の不在と聞き、ホール内はどよめいた。
そして進行役の側近から、更に前置きは続いた。
「ええ…、ミヤジマ博士からの言伝によりますと、今回新たに配置される護衛についてはあくまで"繋ぎ"である、と。急な要請にて、本来納めるところだった開発中のものが間に合わず、期間を限っての配置になる予定とのことです。…この件に関しましては、国王陛下より特別なご高配を賜っていますので、皆様におかれましてもご承知おき下さい」
注目する要人たちの顔色を窺いながら述べられた補足事項に、会場は一層ざわつき出す。
「なんだ? "繋ぎ"とは。王家一族への護衛として前代未聞ではないのか…?」
「陛下も、よくぞお許しに…王子殿下の御身を真に案じてのご容赦であったのか? 宮中の者たちにいいように言いくるめられてしまわれたのではないか?」
「直近であのようなことが起きた上での措置とは思えん。"本命の代わり"とは…性能に不備不足があると公言しているようなものだぞ?」
「公的な都合なぞ、およそ建前であろう。己の不始末にこの場で恥をかきたくなかっただけだ」
などと、大ホールに集った者たちが宮中や開発者への不満を口々に囁き始めたところで、場を一旦収めるべく進行役が軽く咳払いした。
「ではこれより、顔見せとなります。――入れ」
呼び掛けと共にホールの正面側前の入り口が開き、スーツ姿の人物が中へ進む。
腕を背で組み、要人たちの座る側を向いて中央へ立つその姿を見た誰しもが、最初に注ごうとした視線の高さを一時惑わせ、やや下方へとピントを合わせた。
「……!?」
サンチェス博士もまた同じように視線を注いだが、今に至るまで真顔で事の次第を受け止めていた博士の眉が初めて動き、僅かに顰められる。
ホール内に居た者の誰も、言葉を発することはおろか息も吐き出せないままに、進行は続く。
「こちらが、ミヤジマ技研より納品されました、王子殿下付きの護衛アンドロイドです。製造年月は21XX年2月、完成より丁度1年が経過しております。…最新型ではありませんが、AIレベルや装甲は、先日破損しましたものとほぼ同等の性能を備えております」
説明が続くにつれ、呼吸をすることを思い出した要人たちの口が開き、ざわめきが次第に大きくなっていく。
「あれは…どういうことなのだ…?」
「あれが護衛機だと…!? ミヤジマは何を考えておるのだ、正気の沙汰とは思えぬ」
「民間人が急ごしらえで付ける生身のSPの方が遥かにまともぞ。あの見た目で何が出来るというのだ…王子殿下をお守りすることなど、到底出来ようもない…!」
顔色を失い呆然自失となる者、悲嘆し声を荒げる者、怒りに打ち震える者、様々な負の感情が場に蔓延する中、進行役はそれらを置いて、淡々と自らの役目を果たしていった。
「ええ、こちらのアンドロイドですが…ミヤジマ技研における型式は『S-Y』型。ナンバリングはありません。個体識別名称は――」
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