4 / 112
プロローグ-3
しおりを挟む
「―― 御一同様、お待たせ致しました」
歓談に沸く大ホールに通る声が響き、一旦話し声が収まっていく。
王族の側近や王宮仕えの給仕長らが早足で入室し、一同の前に立つ。
「これより、王子殿下の新たな護衛アンドロイドを披露致します。なお、開発者のミヤジマ殿は別の公的な都合によりこの場は欠席となりましたので、博士からお渡し頂きました資料にて、簡単にではありますが我々よりご説明させて頂きます」
主たる要人の護衛の中でも、最上位クラスの重要ポジションとなる王子付き護衛の披露の場でありながら、生みの親たる開発者の不在と聞き、ホール内はどよめいた。
そして進行役の側近から、更に前置きは続いた。
「ええ…、ミヤジマ博士からの言伝によりますと、今回新たに配置される護衛についてはあくまで"繋ぎ"である、と。急な要請にて、本来納めるところだった開発中のものが間に合わず、期間を限っての配置になる予定とのことです。…この件に関しましては、国王陛下より特別なご高配を賜っていますので、皆様におかれましてもご承知おき下さい」
注目する要人たちの顔色を窺いながら述べられた補足事項に、会場は一層ざわつき出す。
「なんだ? "繋ぎ"とは。王家一族への護衛として前代未聞ではないのか…?」
「陛下も、よくぞお許しに…王子殿下の御身を真に案じてのご容赦であったのか? 宮中の者たちにいいように言いくるめられてしまわれたのではないか?」
「直近であのようなことが起きた上での措置とは思えん。"本命の代わり"とは…性能に不備不足があると公言しているようなものだぞ?」
「公的な都合なぞ、およそ建前であろう。己の不始末にこの場で恥をかきたくなかっただけだ」
などと、大ホールに集った者たちが宮中や開発者への不満を口々に囁き始めたところで、場を一旦収めるべく進行役が軽く咳払いした。
「ではこれより、顔見せとなります。――入れ」
呼び掛けと共にホールの正面側前の入り口が開き、スーツ姿の人物が中へ進む。
腕を背で組み、要人たちの座る側を向いて中央へ立つその姿を見た誰しもが、最初に注ごうとした視線の高さを一時惑わせ、やや下方へとピントを合わせた。
「……!?」
サンチェス博士もまた同じように視線を注いだが、今に至るまで真顔で事の次第を受け止めていた博士の眉が初めて動き、僅かに顰められる。
ホール内に居た者の誰も、言葉を発することはおろか息も吐き出せないままに、進行は続く。
「こちらが、ミヤジマ技研より納品されました、王子殿下付きの護衛アンドロイドです。製造年月は21XX年2月、完成より丁度1年が経過しております。…最新型ではありませんが、AIレベルや装甲は、先日破損しましたものとほぼ同等の性能を備えております」
説明が続くにつれ、呼吸をすることを思い出した要人たちの口が開き、ざわめきが次第に大きくなっていく。
「あれは…どういうことなのだ…?」
「あれが護衛機だと…!? ミヤジマは何を考えておるのだ、正気の沙汰とは思えぬ」
「民間人が急ごしらえで付ける生身のSPの方が遥かにまともぞ。あの見た目で何が出来るというのだ…王子殿下をお守りすることなど、到底出来ようもない…!」
顔色を失い呆然自失となる者、悲嘆し声を荒げる者、怒りに打ち震える者、様々な負の感情が場に蔓延する中、進行役はそれらを置いて、淡々と自らの役目を果たしていった。
「ええ、こちらのアンドロイドですが…ミヤジマ技研における型式は『S-Y』型。ナンバリングはありません。個体識別名称は――」
歓談に沸く大ホールに通る声が響き、一旦話し声が収まっていく。
王族の側近や王宮仕えの給仕長らが早足で入室し、一同の前に立つ。
「これより、王子殿下の新たな護衛アンドロイドを披露致します。なお、開発者のミヤジマ殿は別の公的な都合によりこの場は欠席となりましたので、博士からお渡し頂きました資料にて、簡単にではありますが我々よりご説明させて頂きます」
主たる要人の護衛の中でも、最上位クラスの重要ポジションとなる王子付き護衛の披露の場でありながら、生みの親たる開発者の不在と聞き、ホール内はどよめいた。
そして進行役の側近から、更に前置きは続いた。
「ええ…、ミヤジマ博士からの言伝によりますと、今回新たに配置される護衛についてはあくまで"繋ぎ"である、と。急な要請にて、本来納めるところだった開発中のものが間に合わず、期間を限っての配置になる予定とのことです。…この件に関しましては、国王陛下より特別なご高配を賜っていますので、皆様におかれましてもご承知おき下さい」
注目する要人たちの顔色を窺いながら述べられた補足事項に、会場は一層ざわつき出す。
「なんだ? "繋ぎ"とは。王家一族への護衛として前代未聞ではないのか…?」
「陛下も、よくぞお許しに…王子殿下の御身を真に案じてのご容赦であったのか? 宮中の者たちにいいように言いくるめられてしまわれたのではないか?」
「直近であのようなことが起きた上での措置とは思えん。"本命の代わり"とは…性能に不備不足があると公言しているようなものだぞ?」
「公的な都合なぞ、およそ建前であろう。己の不始末にこの場で恥をかきたくなかっただけだ」
などと、大ホールに集った者たちが宮中や開発者への不満を口々に囁き始めたところで、場を一旦収めるべく進行役が軽く咳払いした。
「ではこれより、顔見せとなります。――入れ」
呼び掛けと共にホールの正面側前の入り口が開き、スーツ姿の人物が中へ進む。
腕を背で組み、要人たちの座る側を向いて中央へ立つその姿を見た誰しもが、最初に注ごうとした視線の高さを一時惑わせ、やや下方へとピントを合わせた。
「……!?」
サンチェス博士もまた同じように視線を注いだが、今に至るまで真顔で事の次第を受け止めていた博士の眉が初めて動き、僅かに顰められる。
ホール内に居た者の誰も、言葉を発することはおろか息も吐き出せないままに、進行は続く。
「こちらが、ミヤジマ技研より納品されました、王子殿下付きの護衛アンドロイドです。製造年月は21XX年2月、完成より丁度1年が経過しております。…最新型ではありませんが、AIレベルや装甲は、先日破損しましたものとほぼ同等の性能を備えております」
説明が続くにつれ、呼吸をすることを思い出した要人たちの口が開き、ざわめきが次第に大きくなっていく。
「あれは…どういうことなのだ…?」
「あれが護衛機だと…!? ミヤジマは何を考えておるのだ、正気の沙汰とは思えぬ」
「民間人が急ごしらえで付ける生身のSPの方が遥かにまともぞ。あの見た目で何が出来るというのだ…王子殿下をお守りすることなど、到底出来ようもない…!」
顔色を失い呆然自失となる者、悲嘆し声を荒げる者、怒りに打ち震える者、様々な負の感情が場に蔓延する中、進行役はそれらを置いて、淡々と自らの役目を果たしていった。
「ええ、こちらのアンドロイドですが…ミヤジマ技研における型式は『S-Y』型。ナンバリングはありません。個体識別名称は――」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる