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「じゃあ、中垣さん……中垣が言っていた『始末』って何だよ」
「俺がお前を殺して、全てを抱えて木っ端微塵になることだ。わかるだろ……もう時間がねぇ、さっさと離れろ」
そう言い終えると佐藤は窓から離れた。
それを最後の言葉にしようとしているのだろうと察した堀江はドアを開けようとするがドアには鍵がかかっている。
「おい、開けろよ佐藤!」
「うるせぇ、さっさと離れろ」
「ふざけんな! 相棒を見殺しにして生き残れるわけねぇだろ」
「だったら二人で死ぬってのかよ。意味ねぇだろうが」
堀江の意思も佐藤の意思も固い。
どちらも折れる様子はなく、このままでは堀江を巻き込み佐藤は埋め込まれた爆弾によって木っ端微塵になる。
そう察した佐藤は観念したように口を開いた。
「なぁ、俺たちは相棒だよな」
突然の問いかけに戸惑いながらも堀江が答える。
「当たり前だろ」
「じゃあ、俺が背負うべきものを一緒に背負ってくれるか?」
「だから、ここを開けて俺を」
そこまで堀江が言いかけると佐藤が窓側に戻ってきて顔を見せた。
その表情は実に清々しいものである。
「佐藤?」
表情に違和感を覚えた堀江が名前を呼ぶと佐藤は脈絡もなく住所を言い始めた。
それは二人が都会に出て来るまでを過ごした街である。
「な、何の住所だよ、それ。捨ててきた地元だろ」
「ああ、俺も最近までは完全に捨てたつもりでいた。けど繋がりってものは捨てきれねぇらしい。真美って覚えてるか?」
「何年か前にお前が付き合ってた女だろ? 昔の話なんてらしくねぇ」
堀江がそう言い返すと佐藤は照れ臭そうに笑った。
「ふっ、俺もそう思うよ。最近まで顔を思い出すこともなかった」
「じゃあ、何でこんな時にそんな話をしだすんだ」
「こんな時だからするんだ」
そう語る佐藤の表情に嘘はないように見える。彼は真剣にこの話をしているのだと堀江は察した。
「女の話をか?」
「……ガキだよ」
佐藤は感傷的な表情でそう答える。言葉の意味がわからず堀江が首を傾げると佐藤が言葉を続けた。
「俺と別れてから真美が子どもを産んだらしい。真美から直接は聞いたわけじゃねぇが俺の子どもだそうだ」
「お前の子ども?」
「笑っちまうよな。家族なんていなかった俺に子どもだぜ? 俺には堀江しかいなかったってのにさ。背負うべきものはそれだよ……せめてガキには苦労させたくねぇ。少しでもいい俺たちが『仕事』で稼いだ金を届けてほしいんだ」
佐藤はそう懇願する。
てっきり一緒に死ぬことを認められたと思っていた堀江は呆気にとられ言葉を失った。
そんな堀江に佐藤が微笑みかける。
「背負ってくれるんじゃなかったのかよ。今更、覆すのはナシだぜ相棒」
「何言ってんだよ。子どもがいるんだったら」
そこまで言ってから堀江は佐藤の胸に埋め込まれた小型爆弾を思い出した。
どう足掻いても佐藤が生き残ることはできない。
だからこそ自分に託されているのだ。
「俺が死ねば良かったじゃねぇかよ」
「そう言うな、相棒。結局俺は守りたいものを全部守れるんだ。分かったら離れてくれ、もう時間がない」
そう告げられた堀江は小さく頷き、廃屋に背中を向ける。
足の痛みなどもう気にならない。ただ動かない右足を引き摺りながら廃屋から離れていった。
「じゃあな、相棒」
少し離れた場所で堀江がそう呟いた直後、大きな爆発音が響き全てを消し去ってしまう。
堀江は足を引き摺ったままその街から姿を消してしまった。
「俺がお前を殺して、全てを抱えて木っ端微塵になることだ。わかるだろ……もう時間がねぇ、さっさと離れろ」
そう言い終えると佐藤は窓から離れた。
それを最後の言葉にしようとしているのだろうと察した堀江はドアを開けようとするがドアには鍵がかかっている。
「おい、開けろよ佐藤!」
「うるせぇ、さっさと離れろ」
「ふざけんな! 相棒を見殺しにして生き残れるわけねぇだろ」
「だったら二人で死ぬってのかよ。意味ねぇだろうが」
堀江の意思も佐藤の意思も固い。
どちらも折れる様子はなく、このままでは堀江を巻き込み佐藤は埋め込まれた爆弾によって木っ端微塵になる。
そう察した佐藤は観念したように口を開いた。
「なぁ、俺たちは相棒だよな」
突然の問いかけに戸惑いながらも堀江が答える。
「当たり前だろ」
「じゃあ、俺が背負うべきものを一緒に背負ってくれるか?」
「だから、ここを開けて俺を」
そこまで堀江が言いかけると佐藤が窓側に戻ってきて顔を見せた。
その表情は実に清々しいものである。
「佐藤?」
表情に違和感を覚えた堀江が名前を呼ぶと佐藤は脈絡もなく住所を言い始めた。
それは二人が都会に出て来るまでを過ごした街である。
「な、何の住所だよ、それ。捨ててきた地元だろ」
「ああ、俺も最近までは完全に捨てたつもりでいた。けど繋がりってものは捨てきれねぇらしい。真美って覚えてるか?」
「何年か前にお前が付き合ってた女だろ? 昔の話なんてらしくねぇ」
堀江がそう言い返すと佐藤は照れ臭そうに笑った。
「ふっ、俺もそう思うよ。最近まで顔を思い出すこともなかった」
「じゃあ、何でこんな時にそんな話をしだすんだ」
「こんな時だからするんだ」
そう語る佐藤の表情に嘘はないように見える。彼は真剣にこの話をしているのだと堀江は察した。
「女の話をか?」
「……ガキだよ」
佐藤は感傷的な表情でそう答える。言葉の意味がわからず堀江が首を傾げると佐藤が言葉を続けた。
「俺と別れてから真美が子どもを産んだらしい。真美から直接は聞いたわけじゃねぇが俺の子どもだそうだ」
「お前の子ども?」
「笑っちまうよな。家族なんていなかった俺に子どもだぜ? 俺には堀江しかいなかったってのにさ。背負うべきものはそれだよ……せめてガキには苦労させたくねぇ。少しでもいい俺たちが『仕事』で稼いだ金を届けてほしいんだ」
佐藤はそう懇願する。
てっきり一緒に死ぬことを認められたと思っていた堀江は呆気にとられ言葉を失った。
そんな堀江に佐藤が微笑みかける。
「背負ってくれるんじゃなかったのかよ。今更、覆すのはナシだぜ相棒」
「何言ってんだよ。子どもがいるんだったら」
そこまで言ってから堀江は佐藤の胸に埋め込まれた小型爆弾を思い出した。
どう足掻いても佐藤が生き残ることはできない。
だからこそ自分に託されているのだ。
「俺が死ねば良かったじゃねぇかよ」
「そう言うな、相棒。結局俺は守りたいものを全部守れるんだ。分かったら離れてくれ、もう時間がない」
そう告げられた堀江は小さく頷き、廃屋に背中を向ける。
足の痛みなどもう気にならない。ただ動かない右足を引き摺りながら廃屋から離れていった。
「じゃあな、相棒」
少し離れた場所で堀江がそう呟いた直後、大きな爆発音が響き全てを消し去ってしまう。
堀江は足を引き摺ったままその街から姿を消してしまった。
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