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ニコチニアの葉と一服

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 疑問が消えては現れる。本当にわからないことばかりだ、と冨岡は自分の無知に呆れた。
 何も知らずに、こんな未来など想像もせず異世界で生きてきた。自分が希望に胸を躍らせている裏では、至る所で欲望と策略が滲んでいくインクのように広がり、誰かが笑い誰かが泣いている。数字上でしか確認できないほどの人数が、同じ星に、同じ大陸に、同じ国に住んでいると必ず生まれる笑いと涙だ。
 そんなことは人間が言語を得た時から変わらない。今更、自分の無知と人間の愚かさに絶望している暇などないはずだ。
 冨岡はノノノカに問いを投げ、真剣な眼差しで耳を澄ませる。

「話は貴族たちの中で終わるようなものではない」

 そうノノノカは言ってから、自分の服を探った。話の途中で何を探しているのか、と冨岡は首を傾げる。
 するとノノノカはため息をついて肩を落とした。探していたものが見つからなかったのだろう。
 普段から子どもたちの行動に目を配っているアメリアは、ノノノカが何かを求めているのだろう、と判断し声をかける。

「ノノノカ様、何かご所望ですか? 貧民街を含む街の地図なら、確か屋台の中に・・・・・・移動販売『ピース』の移動用に積んでいたはずです。えっと」

 そう言って立ちあがろうとしたアメリアに、手のひらを向けるノノノカ。

「大丈夫じゃ、アメリア。地図を欲したわけではないぞ。話には関係ないがの、こうも長話になるなら一服をしようと『ニコチニアの葉』をな。じゃが、慌てて出てきたために忘れてしまったらしい。しまったのう」
「そうだったんですね。嗜好品の代わりになるかはわかりませんが、トミオカさんおすすめの紅茶を淹れましょうか。適度な休憩を挟めば、効率が上がる。そうでしたよね、トミオカさん」

 優しい微笑みを浮かべながら、アメリアは立ち上がってティーポットを準備し始める。
 重くなった空気を和らげる彼女の気配りに感謝をしつつ、冨岡は頷いた。彼は、本当にアメリアには救われてばかりだ、と常々思っている。自分なんかよりも強く、たくましい。最初こそ自分がアメリアを救いたい、なんて気持ちでいたが、彼女を救うという気持ちに救われていたのだ。祖父を亡くしたばかりの冨岡にとって、精力的に動くことがどれほどの救いだっただろうか。
 頬を緩ませた冨岡に対し、ノノノカが微笑む。

「ヒロヤには人を見る目があるようじゃの。アメリアはいい女じゃ。大切にせんとな」
「あ、えっと、はい」
「何じゃ、煮え切らんのう。これほどまでに好意を向けてくれる女に、恥をかかすもんではないぞ。自ら気持ちを伝えねばならん」

 祖母に恋愛の話をされると、胸の奥がむず痒くて仕方ない。冨岡は無理やり話題を変える。

「そ、そういえば、ニコチニアの葉って何ですか? 嗜好品って言ってましたけど・・・・・・ん? ニコチニア、葉っぱ・・・・・・あ、もしかしてタバコ?」

 知らない言葉だったが、何となく音の響きとイメージから答えを導き出す。
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