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思いあがり
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自分がどれくらい走れるか、など気にせず必死に走り続けた冨岡は、貴族の屋敷が並ぶ貴族街に入ったところで息が吸えなくなり、立ち止まる。
「はぁ、はぁ、はぁ、くそっもう少し運動して体力をつけておけばよかった。にしても遠いな」
荒れる息を整えながら、冨岡は歩く。何度か通った道だが、いつもとは違い気持ち悪いほどに静かだ。腫れ物に触れるような居心地の悪い空気が、どうにも肌に馴染まない。
「やっぱり、こっちにも・・・・・・屋敷に行ったところで、入れないかもしれないな」
状況を考えれば、冨岡が彼に会える可能性は低いだろう。それでも、歩みを止めるわけにはいかなかった。
冨岡が向かった先、それは当然キュルケース公爵家である。
ベレゼッセスから聞いた話を一度鵜呑みにするとして、この騒動の中心にいるのはキュルケース公爵だ。公爵が『何かしらの法案』を通そうとし、他貴族の恨みを買って窮地に追い込まれている。『何かしら』の内容、公爵が陥っている窮地、そして他貴族たちの目的。わからないことはいくらでもあったが、他で情報を仕入れるよりも先に公爵の口から話を聞きたい。
そう考え、冨岡は公爵邸に急いだ。
間違いなく全速力だった。これ以上の速度は出せなかっただろう。必要以上に休んだり、走れるのに歩いたりはしていない。それでも冨岡は間に合わなかった。
キュルケース公爵邸の前に到着した時、やけに目立つフォンガ車が数台、離れていくのが見える。
土煙を巻き上げ、埃っぽさだけを残して去っていったのだ。
そして冨岡は自分が遅かったことを自覚しながら、屋敷の門で執事ダルクの膝に寄りかかる令嬢ローズを見つける。
おそらく、先ほどのフォンガ車にはキュルケース公爵が乗っていたのだ。
「ダルクさん! ローズ!」
冨岡は慌てて、二人の近くに駆け寄った。
そんな冨岡を見つけるや否や、ローズは自分の目元を拭い、自分の足で立つ。
「トミー、どうしたのよ。こんなに朝早く、そんなに急いで。汗だくじゃないの」
「えっと、先ほど俺たちのところにベレゼッセス侯爵と名乗る人が来て、その、王命によって全ての活動を禁ずる、と」
冨岡が事情を説明すると、ダルクが悲しそうに顔を伏せた。
「そうですか、こんなに早くトミオカさんのところまで・・・・・・・申し訳ございません」
「ど、どうしてダルクさんが謝るんですか。いや、何がどうなっているのか、本当にわかっていないですけど、むしろ俺のせいなんじゃないか、と思って来たのです。俺が学園の計画を公爵様に持ちかけたから」
ベレゼッセスの話を聞いてから、冨岡が抱えていた不安。自分が現れたせいで、キュルケース公爵の気持ちを焚きつけ、このような結果になってしまったのではないか。そう考えていた。
だがそんな不安を蹴り飛ばすように、ローズが力強く言う。
「何言ってるのよ、トミー。お父様は自分の正義のために行動しているわ。トミーのせいだなんて・・・・・・そんなの、思い上がりよ。そう、思い上がらないで。トミーのせいじゃないわ」
「ローズ・・・・・・」
冨岡は必死に自分を励ましてくれる幼いローズの顔を見た。
目も目元も鼻も赤い。先ほどまで涙を流していたのだろう。そんな彼女に慰められる自分を情けなく思い、冨岡は自分を納得させるように頷いた。
「ありがとうございます、ローズ。今は、誰のせいだなんて話をしてる場合じゃないですね。すみません、ダルクさん。大変な時だと思いますが、俺に話を聞かせてもらえませんか。俺にできることがあるかもしれない」
「はぁ、はぁ、はぁ、くそっもう少し運動して体力をつけておけばよかった。にしても遠いな」
荒れる息を整えながら、冨岡は歩く。何度か通った道だが、いつもとは違い気持ち悪いほどに静かだ。腫れ物に触れるような居心地の悪い空気が、どうにも肌に馴染まない。
「やっぱり、こっちにも・・・・・・屋敷に行ったところで、入れないかもしれないな」
状況を考えれば、冨岡が彼に会える可能性は低いだろう。それでも、歩みを止めるわけにはいかなかった。
冨岡が向かった先、それは当然キュルケース公爵家である。
ベレゼッセスから聞いた話を一度鵜呑みにするとして、この騒動の中心にいるのはキュルケース公爵だ。公爵が『何かしらの法案』を通そうとし、他貴族の恨みを買って窮地に追い込まれている。『何かしら』の内容、公爵が陥っている窮地、そして他貴族たちの目的。わからないことはいくらでもあったが、他で情報を仕入れるよりも先に公爵の口から話を聞きたい。
そう考え、冨岡は公爵邸に急いだ。
間違いなく全速力だった。これ以上の速度は出せなかっただろう。必要以上に休んだり、走れるのに歩いたりはしていない。それでも冨岡は間に合わなかった。
キュルケース公爵邸の前に到着した時、やけに目立つフォンガ車が数台、離れていくのが見える。
土煙を巻き上げ、埃っぽさだけを残して去っていったのだ。
そして冨岡は自分が遅かったことを自覚しながら、屋敷の門で執事ダルクの膝に寄りかかる令嬢ローズを見つける。
おそらく、先ほどのフォンガ車にはキュルケース公爵が乗っていたのだ。
「ダルクさん! ローズ!」
冨岡は慌てて、二人の近くに駆け寄った。
そんな冨岡を見つけるや否や、ローズは自分の目元を拭い、自分の足で立つ。
「トミー、どうしたのよ。こんなに朝早く、そんなに急いで。汗だくじゃないの」
「えっと、先ほど俺たちのところにベレゼッセス侯爵と名乗る人が来て、その、王命によって全ての活動を禁ずる、と」
冨岡が事情を説明すると、ダルクが悲しそうに顔を伏せた。
「そうですか、こんなに早くトミオカさんのところまで・・・・・・・申し訳ございません」
「ど、どうしてダルクさんが謝るんですか。いや、何がどうなっているのか、本当にわかっていないですけど、むしろ俺のせいなんじゃないか、と思って来たのです。俺が学園の計画を公爵様に持ちかけたから」
ベレゼッセスの話を聞いてから、冨岡が抱えていた不安。自分が現れたせいで、キュルケース公爵の気持ちを焚きつけ、このような結果になってしまったのではないか。そう考えていた。
だがそんな不安を蹴り飛ばすように、ローズが力強く言う。
「何言ってるのよ、トミー。お父様は自分の正義のために行動しているわ。トミーのせいだなんて・・・・・・そんなの、思い上がりよ。そう、思い上がらないで。トミーのせいじゃないわ」
「ローズ・・・・・・」
冨岡は必死に自分を励ましてくれる幼いローズの顔を見た。
目も目元も鼻も赤い。先ほどまで涙を流していたのだろう。そんな彼女に慰められる自分を情けなく思い、冨岡は自分を納得させるように頷いた。
「ありがとうございます、ローズ。今は、誰のせいだなんて話をしてる場合じゃないですね。すみません、ダルクさん。大変な時だと思いますが、俺に話を聞かせてもらえませんか。俺にできることがあるかもしれない」
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