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下げた頭の重み
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待っていた。言いたくない言葉を吐き、浮かべたくもない軽薄な笑みを浮かべ、冨岡はこの時を待っていたのである。
極力、嘘などつかないように生きてきた彼が、目的のために安っぽい正義感を捨てた。これは大切なものを守るための戦いである。大切な場所を守るための抵抗である。
キュルケース家に零れ星、つまり純金を預けていると言えば、欲に取り憑かれたベレゼッセスは目の色を変えた。
冨岡に情報を与えることは自分にとって利益につながる、とベレゼッセスは思い込んだのだった。
「そういうことであれば・・・・・・キュルケースに余計な財産を残しておけば、今後の不安になり得るからな。いいだろう、話してやる」
ベレゼッセスは自分を大物に見せようと、間を作ってから話し始める。
「簡単に言えば、キュルケース家は他貴族を敵に回してしまった、ということだ。とある法案によってな」
「法案ですか?」
「まぁ、その内容などどうでも良い。既に潰された話だからな。いくら公爵だと言っても、他貴族の多くを敵に回せばどうなるか、考えなくてもわかるというのに。馬鹿な男よ」
言いながらベレゼッセスは、長年の夢でも叶えたかのような笑み見せた。
簡単に整理するとキュルケース公爵は、他貴族の多くに反対されるような法を提案したということだろう。それによって、立場が危うくなっている。いや、危うい程度では済まない。下手をすれば爵位を失うかもしれない状況であるということだ。
もう少し詳しく聞きたい冨岡だったが、これ以上踏み込めば流石に怪しまれる。
心の奥から湧いてくる怒りとも軽蔑ともわからない感情を飲み込んで、話を切り上げることにした。
「なるほど、そういうことですか。私のような者にお話しいただき、感謝いたします。それで、これからですが・・・・・・」
「ああ、とにかく王命に従うことだ。その先のことは私に任せるがいい。大人しくしておけば、悪いようにはならないだろう。有望な商人を守るのも貴族の役目だからな」
「重ねて感謝いたします」
言いたいことはいくらでもあった。それでも冨岡は頭を下げて、話を終わらせる。
どうやらベレゼッセスは本当に王命を持ってきただけらしく、冨岡が従うことを確認した後に兵を連れて引き上げていった。
ベレゼッセス一行の背中が見えなくなったところで、冨岡は振り返りアメリアに声をかけた。
「アメリアさん、大丈夫ですか? 子供たちも!」
慌てる冨岡の心中を察し、アメリアは柔らかな表情で頷く。
「私は大丈夫です。フィーネやリオもレボルさんが守ってくださいましたから、ほら」
「フィーネ平気だよ!」
「うん」
飛び跳ねるようにして無事を示すフィーネと、冷静なリオ。子どもながらに冨岡を心配させまいとしているのだろう。
そうして全員の無事を確認しあったところで、レボルが冨岡に話しかけた。
「トミオカさん、話を聞く限り私たちよりもキュルケース公爵様が・・・・・・いえ、もちろん学園や店のことも大切ですが、今は王命に従うほかありません。あくまでも『今は』です。学園を諦めるという話ではありませんよ。しかし、何か動き出すためには情報が圧倒的に足りません。どうでしょう、ここはそれぞれ情報収集に動くというのは」
わざわざ『それぞれ』と言ったレボル。冨岡が黙って待ってはいないと予想し、自分も動くと主張しているのだ。
だが、冨岡はその主張をすんなりと受け入れるわけにはいかない。
「それぞれって・・・・・・王命ですよ、レボルさん。妙な動きをすれば貴族に目をつけられるかもしれません」
「でも、トミオカさんは動くでしょう? キュルケース公爵様も心配ですし、あのお嬢様も。だったら、私が動かないわけにはいきません」
「でも!」
「トミオカさん、あなたがこの学園に命をかけているのと同じように、私はトミオカさんに命と未来、そして未練をかけています。いえ、この際堅苦しい言葉はやめましょう。私はもう、失いたくないんです。自分の大切なものが失われるのを黙って見ていられない。それだけですよ」
極力、嘘などつかないように生きてきた彼が、目的のために安っぽい正義感を捨てた。これは大切なものを守るための戦いである。大切な場所を守るための抵抗である。
キュルケース家に零れ星、つまり純金を預けていると言えば、欲に取り憑かれたベレゼッセスは目の色を変えた。
冨岡に情報を与えることは自分にとって利益につながる、とベレゼッセスは思い込んだのだった。
「そういうことであれば・・・・・・キュルケースに余計な財産を残しておけば、今後の不安になり得るからな。いいだろう、話してやる」
ベレゼッセスは自分を大物に見せようと、間を作ってから話し始める。
「簡単に言えば、キュルケース家は他貴族を敵に回してしまった、ということだ。とある法案によってな」
「法案ですか?」
「まぁ、その内容などどうでも良い。既に潰された話だからな。いくら公爵だと言っても、他貴族の多くを敵に回せばどうなるか、考えなくてもわかるというのに。馬鹿な男よ」
言いながらベレゼッセスは、長年の夢でも叶えたかのような笑み見せた。
簡単に整理するとキュルケース公爵は、他貴族の多くに反対されるような法を提案したということだろう。それによって、立場が危うくなっている。いや、危うい程度では済まない。下手をすれば爵位を失うかもしれない状況であるということだ。
もう少し詳しく聞きたい冨岡だったが、これ以上踏み込めば流石に怪しまれる。
心の奥から湧いてくる怒りとも軽蔑ともわからない感情を飲み込んで、話を切り上げることにした。
「なるほど、そういうことですか。私のような者にお話しいただき、感謝いたします。それで、これからですが・・・・・・」
「ああ、とにかく王命に従うことだ。その先のことは私に任せるがいい。大人しくしておけば、悪いようにはならないだろう。有望な商人を守るのも貴族の役目だからな」
「重ねて感謝いたします」
言いたいことはいくらでもあった。それでも冨岡は頭を下げて、話を終わらせる。
どうやらベレゼッセスは本当に王命を持ってきただけらしく、冨岡が従うことを確認した後に兵を連れて引き上げていった。
ベレゼッセス一行の背中が見えなくなったところで、冨岡は振り返りアメリアに声をかけた。
「アメリアさん、大丈夫ですか? 子供たちも!」
慌てる冨岡の心中を察し、アメリアは柔らかな表情で頷く。
「私は大丈夫です。フィーネやリオもレボルさんが守ってくださいましたから、ほら」
「フィーネ平気だよ!」
「うん」
飛び跳ねるようにして無事を示すフィーネと、冷静なリオ。子どもながらに冨岡を心配させまいとしているのだろう。
そうして全員の無事を確認しあったところで、レボルが冨岡に話しかけた。
「トミオカさん、話を聞く限り私たちよりもキュルケース公爵様が・・・・・・いえ、もちろん学園や店のことも大切ですが、今は王命に従うほかありません。あくまでも『今は』です。学園を諦めるという話ではありませんよ。しかし、何か動き出すためには情報が圧倒的に足りません。どうでしょう、ここはそれぞれ情報収集に動くというのは」
わざわざ『それぞれ』と言ったレボル。冨岡が黙って待ってはいないと予想し、自分も動くと主張しているのだ。
だが、冨岡はその主張をすんなりと受け入れるわけにはいかない。
「それぞれって・・・・・・王命ですよ、レボルさん。妙な動きをすれば貴族に目をつけられるかもしれません」
「でも、トミオカさんは動くでしょう? キュルケース公爵様も心配ですし、あのお嬢様も。だったら、私が動かないわけにはいきません」
「でも!」
「トミオカさん、あなたがこの学園に命をかけているのと同じように、私はトミオカさんに命と未来、そして未練をかけています。いえ、この際堅苦しい言葉はやめましょう。私はもう、失いたくないんです。自分の大切なものが失われるのを黙って見ていられない。それだけですよ」
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