百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

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乗り換え

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「はっはっは、随分と気軽に乗り換えようとするものだな」
「商人ですから。より良い船に乗りたいのは当然じゃないですか」
「船と共に沈むくらいなら船を捨てるか。だが賢い選択ではあるな。もうキュルケース公爵家に先はない。私につきたい気持ちはわからんではないな。まぁ、今後の心がけ次第では考えてやろう。ともかくこれを私に献上したいということなら、断る理由はないな」

 ベレゼッセスは冨岡から純金製の指輪を受け取ると、嬉しそうに太陽の光当てた。
 金色の反射は見る者を魅了し、心を奪う。

「この輝きは本物だ。間違いなく零れ星であるぞ。ふっ、これはいい」

 その時、ベレゼッセスの頭に浮かんだのは、冨岡を利用して自分が成り上がっていく未来だった。貴族社会での侯爵と言えば、かなり高い地位にいる。貴族の序列は上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。
 しかし、その力関係は単純な爵位の序列だけでは決まらない。
 国への貢献度や領地の広さ、そして財産の量によっても国内での立ち位置が変わるのだ。
 ベレゼッセス侯爵家はエクスルージュの南方に広大な領地こそ持っているものの、そこには大した資産がなく、収入が多いとは言えない。また、現ベレゼッセス侯爵はこれまで国に対して、大きな貢献をしたことがなかった。
 地位が脅かされるようなことはそうそうないが、これ以上の成長は望めない。そんな状態である。ベレゼッセス侯爵の能力を考えれば、当然のことだ。
 彼には人を率いる能力も、商才も、自ら率先して戦場に出る勇気も、何もない。
 自らの立場が、先代から受け継いだだけのものであることは、彼自身が一番理解している。
 そのような状況にあるベレゼッセスが、他の貴族よりも上に立つには、圧倒的な財力が必要だった。そして今、彼の手には文字通り『金の卵』がある。
 このチャンスを逃してなるものか。純金を目にしたベレゼッセスは、これまで抑圧されてきた出世心に取り憑かれた。

「貴様、名前を何と言ったか?」
「トミオカです」
「そうか、トミオカ。零れ星はどれくらいの頻度で手に入る?」
「そうですね、運が良ければ明日にでも追加を」

 冨岡は欲に飲まれたベレゼッセスに対し、都合のいい言葉を送る。
 こうなるとベレゼッセスの頭からは警戒心が薄れていき、いかにして冨岡を利用するか、ということしか考えられなくなった。
 圧倒的優位であることがベレゼッセスの目を曇らせたのである。もしかすると最初から曇っていたのかもしれない。
 彼は自分が『騙す側』『搾取する側』だと思い込んでいる。

「明日にでもだと? 嘘ではないな?」
「確約はできませんが、ある程度の量は定期的に入荷できると思います。つまり、その取引によって得られる利益も」
「莫大かつ安定しているというわけか。ふっ、なるほど・・・・・・これまで特定の商人に肩入れをしなかったキュルケース公爵が、後ろ盾になる理由もわかる。存外俗物だったというわけか。その利益をそっくり奪ってやるのも、面白いだろう。あの堅物が悔しがる姿、そうそう見れるものではないわ。それで?」

 ベレゼッセスが最後に付け足した『それで』という言葉。冨岡はそれを待っていた。

「それで、と申しますと?」
「みなまで言わせるな。零れ星の売買に私を噛ませるという話はわかった。その見返りとして、貴様は何が欲しい?」
「たいそうな望みはありませんよ。私は、商売を続けたいだけです。安全に、大きな利益を。それ以外は何も」
「ほう、この大層な施設を捨てでもか?」
「命と利益。それに勝るものがあるでしょうか?」

 冨岡が答えると、ベレゼッセスは勝ちを確信したかのように笑みを浮かべる。

「懸命だな。私たちは上手く付き合っていけそうだ。いいだろう、貴様の命と商売は私が何とかしてやろう」
「ありがとうございます、ベレゼッセス侯爵様。あの、それでキュルケース家は一体どうなるのでしょうか?」
「どうでもいいだろう、そんなこと。どうしてそんなことを気にする?」
「いえ、零れ星をいくつか預けているもので・・・・・・当然厳重に隠しているでしょうし、私であれば信頼してもらえると思うで、何とか取り返せないかと」
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