452 / 498
乗り換え
しおりを挟む
「はっはっは、随分と気軽に乗り換えようとするものだな」
「商人ですから。より良い船に乗りたいのは当然じゃないですか」
「船と共に沈むくらいなら船を捨てるか。だが賢い選択ではあるな。もうキュルケース公爵家に先はない。私につきたい気持ちはわからんではないな。まぁ、今後の心がけ次第では考えてやろう。ともかくこれを私に献上したいということなら、断る理由はないな」
ベレゼッセスは冨岡から純金製の指輪を受け取ると、嬉しそうに太陽の光当てた。
金色の反射は見る者を魅了し、心を奪う。
「この輝きは本物だ。間違いなく零れ星であるぞ。ふっ、これはいい」
その時、ベレゼッセスの頭に浮かんだのは、冨岡を利用して自分が成り上がっていく未来だった。貴族社会での侯爵と言えば、かなり高い地位にいる。貴族の序列は上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。
しかし、その力関係は単純な爵位の序列だけでは決まらない。
国への貢献度や領地の広さ、そして財産の量によっても国内での立ち位置が変わるのだ。
ベレゼッセス侯爵家はエクスルージュの南方に広大な領地こそ持っているものの、そこには大した資産がなく、収入が多いとは言えない。また、現ベレゼッセス侯爵はこれまで国に対して、大きな貢献をしたことがなかった。
地位が脅かされるようなことはそうそうないが、これ以上の成長は望めない。そんな状態である。ベレゼッセス侯爵の能力を考えれば、当然のことだ。
彼には人を率いる能力も、商才も、自ら率先して戦場に出る勇気も、何もない。
自らの立場が、先代から受け継いだだけのものであることは、彼自身が一番理解している。
そのような状況にあるベレゼッセスが、他の貴族よりも上に立つには、圧倒的な財力が必要だった。そして今、彼の手には文字通り『金の卵』がある。
このチャンスを逃してなるものか。純金を目にしたベレゼッセスは、これまで抑圧されてきた出世心に取り憑かれた。
「貴様、名前を何と言ったか?」
「トミオカです」
「そうか、トミオカ。零れ星はどれくらいの頻度で手に入る?」
「そうですね、運が良ければ明日にでも追加を」
冨岡は欲に飲まれたベレゼッセスに対し、都合のいい言葉を送る。
こうなるとベレゼッセスの頭からは警戒心が薄れていき、いかにして冨岡を利用するか、ということしか考えられなくなった。
圧倒的優位であることがベレゼッセスの目を曇らせたのである。もしかすると最初から曇っていたのかもしれない。
彼は自分が『騙す側』『搾取する側』だと思い込んでいる。
「明日にでもだと? 嘘ではないな?」
「確約はできませんが、ある程度の量は定期的に入荷できると思います。つまり、その取引によって得られる利益も」
「莫大かつ安定しているというわけか。ふっ、なるほど・・・・・・これまで特定の商人に肩入れをしなかったキュルケース公爵が、後ろ盾になる理由もわかる。存外俗物だったというわけか。その利益をそっくり奪ってやるのも、面白いだろう。あの堅物が悔しがる姿、そうそう見れるものではないわ。それで?」
ベレゼッセスが最後に付け足した『それで』という言葉。冨岡はそれを待っていた。
「それで、と申しますと?」
「みなまで言わせるな。零れ星の売買に私を噛ませるという話はわかった。その見返りとして、貴様は何が欲しい?」
「たいそうな望みはありませんよ。私は、商売を続けたいだけです。安全に、大きな利益を。それ以外は何も」
「ほう、この大層な施設を捨てでもか?」
「命と利益。それに勝るものがあるでしょうか?」
冨岡が答えると、ベレゼッセスは勝ちを確信したかのように笑みを浮かべる。
「懸命だな。私たちは上手く付き合っていけそうだ。いいだろう、貴様の命と商売は私が何とかしてやろう」
「ありがとうございます、ベレゼッセス侯爵様。あの、それでキュルケース家は一体どうなるのでしょうか?」
「どうでもいいだろう、そんなこと。どうしてそんなことを気にする?」
「いえ、零れ星をいくつか預けているもので・・・・・・当然厳重に隠しているでしょうし、私であれば信頼してもらえると思うで、何とか取り返せないかと」
「商人ですから。より良い船に乗りたいのは当然じゃないですか」
「船と共に沈むくらいなら船を捨てるか。だが賢い選択ではあるな。もうキュルケース公爵家に先はない。私につきたい気持ちはわからんではないな。まぁ、今後の心がけ次第では考えてやろう。ともかくこれを私に献上したいということなら、断る理由はないな」
ベレゼッセスは冨岡から純金製の指輪を受け取ると、嬉しそうに太陽の光当てた。
金色の反射は見る者を魅了し、心を奪う。
「この輝きは本物だ。間違いなく零れ星であるぞ。ふっ、これはいい」
その時、ベレゼッセスの頭に浮かんだのは、冨岡を利用して自分が成り上がっていく未来だった。貴族社会での侯爵と言えば、かなり高い地位にいる。貴族の序列は上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。
しかし、その力関係は単純な爵位の序列だけでは決まらない。
国への貢献度や領地の広さ、そして財産の量によっても国内での立ち位置が変わるのだ。
ベレゼッセス侯爵家はエクスルージュの南方に広大な領地こそ持っているものの、そこには大した資産がなく、収入が多いとは言えない。また、現ベレゼッセス侯爵はこれまで国に対して、大きな貢献をしたことがなかった。
地位が脅かされるようなことはそうそうないが、これ以上の成長は望めない。そんな状態である。ベレゼッセス侯爵の能力を考えれば、当然のことだ。
彼には人を率いる能力も、商才も、自ら率先して戦場に出る勇気も、何もない。
自らの立場が、先代から受け継いだだけのものであることは、彼自身が一番理解している。
そのような状況にあるベレゼッセスが、他の貴族よりも上に立つには、圧倒的な財力が必要だった。そして今、彼の手には文字通り『金の卵』がある。
このチャンスを逃してなるものか。純金を目にしたベレゼッセスは、これまで抑圧されてきた出世心に取り憑かれた。
「貴様、名前を何と言ったか?」
「トミオカです」
「そうか、トミオカ。零れ星はどれくらいの頻度で手に入る?」
「そうですね、運が良ければ明日にでも追加を」
冨岡は欲に飲まれたベレゼッセスに対し、都合のいい言葉を送る。
こうなるとベレゼッセスの頭からは警戒心が薄れていき、いかにして冨岡を利用するか、ということしか考えられなくなった。
圧倒的優位であることがベレゼッセスの目を曇らせたのである。もしかすると最初から曇っていたのかもしれない。
彼は自分が『騙す側』『搾取する側』だと思い込んでいる。
「明日にでもだと? 嘘ではないな?」
「確約はできませんが、ある程度の量は定期的に入荷できると思います。つまり、その取引によって得られる利益も」
「莫大かつ安定しているというわけか。ふっ、なるほど・・・・・・これまで特定の商人に肩入れをしなかったキュルケース公爵が、後ろ盾になる理由もわかる。存外俗物だったというわけか。その利益をそっくり奪ってやるのも、面白いだろう。あの堅物が悔しがる姿、そうそう見れるものではないわ。それで?」
ベレゼッセスが最後に付け足した『それで』という言葉。冨岡はそれを待っていた。
「それで、と申しますと?」
「みなまで言わせるな。零れ星の売買に私を噛ませるという話はわかった。その見返りとして、貴様は何が欲しい?」
「たいそうな望みはありませんよ。私は、商売を続けたいだけです。安全に、大きな利益を。それ以外は何も」
「ほう、この大層な施設を捨てでもか?」
「命と利益。それに勝るものがあるでしょうか?」
冨岡が答えると、ベレゼッセスは勝ちを確信したかのように笑みを浮かべる。
「懸命だな。私たちは上手く付き合っていけそうだ。いいだろう、貴様の命と商売は私が何とかしてやろう」
「ありがとうございます、ベレゼッセス侯爵様。あの、それでキュルケース家は一体どうなるのでしょうか?」
「どうでもいいだろう、そんなこと。どうしてそんなことを気にする?」
「いえ、零れ星をいくつか預けているもので・・・・・・当然厳重に隠しているでしょうし、私であれば信頼してもらえると思うで、何とか取り返せないかと」
12
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる