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零れ星の交渉
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アメリアとレボルが冷や汗をかく。もしも冨岡の行動が『ベレゼッセス侯爵を人質にとり、この場を逃れる』という作戦だった場合、自分たちも素早く行動する必要がある。
わかりきっていることだが、その『もしも』には何の勝算もない。この場を乗り切ったとしても、王命が下されている以上、エクスルージュ国内に逃げ場はないのだ。
それどころか国家反逆罪か何かで手配され、全員が最悪の結末を迎えることすら考えられる。
しかし、冨岡が何を考え、何をするかわからない以上『もしも』に備えるしかなかった。
「どうぞ、これを」
冨岡はわかりやすく右手を開き、ベレゼッセスに『物』を見せる。
空気の刺々しさが最高潮に達した瞬間、冨岡は優しく微笑んだ。その顔に敵意など全くなく、むしろ媚びへつらっているようにも見える。
「おい、まさかこれは」
ベレゼッセスは目を丸くして冨岡の右手に視線を奪われた。
開かれた手のひらの上には、小さな輝きが鎮座していたのである。人の心を惑わすような輝きと、見るだけでわかる重量感。それはスタンガンなどではなく、純金製の指輪であった。
ベレゼッセスの心を揺さぶって作り出した隙を逃さないよう、冨岡が畳み掛ける。
「零れ星でございます。ベレゼッセス侯爵様ほどの方であれば、ご存知でしょうし、そう珍しい物でもないかもしれませんね」
「き、貴様、これをどこで!」
明らかに狼狽えるベレゼッセス。
当然である。こちらの世界において金は特別な存在。零れ星と呼ばれ、富の象徴とされている。どれだけ時間が経過しても錆びない性質から、神々が生み出した鉄とされており、その価値は小さな指輪でも大金貨百枚ほどだ。
大金貨一枚は日本円でおよそ十万円程度の価値がある。つまり、冨岡は手のひらの上に一千万円をのせていた。
純金がそれほどの価値を持っていることを冨岡は、ビエンナという老婆が営んでいる店で学んでいる。武力で立ち向かえない相手用に、純金製の指輪を用意してあったのだ。
「申し訳ありません。私自身、どこで手に入れた物なのかはわからないのです」
冨岡がそう答えると、ベレゼッセスは一歩詰め寄って睨みを効かせた。
「どこでかはわからないだと? だが、ここに現物があるではないか」
「ええ、独自のルートがありまして、少量ですがこうして回してもらっているんですよ。もしかするとこれから先、定期的に入荷できるかもしれません。零れ星の価値はもはや語るまでもないでしょう。買い手ならいくらでもいるはずです」
「当たり前だろう! 零れ星に関しては金を払えば手に入るという物でもない。求めても手に入らない、特別な存在だ。侯爵である私でも、そう易々とは・・・・・・そんなものを定期的に手に入れられるだと?」
「はい、私なら。そしてこれによって莫大な利益を得ることができます。全ては『商売を続けられれば』の話ですが」
冨岡はそう言いながら、意識的に口角を上げた。できる限りいやらしく、できる限りわかりやすく。イメージするのは時代劇の代官と越後屋である。
想定通り、ベレゼッセスは強く食いついた。
「つまり、私を後ろ盾にしようと? そのためにこの零れ星を渡すというのか」
「損して得とれ、それが商人のやり方です。ベレゼッセス侯爵様のお力添えをいただければ、この零れ星よりも大きな利益を得られるものと存じます」
「ほう、利益のためにキュルケース公爵家を切る、と?」
「船が沈むなら、料金を払って乗り換えればいいではないですか、ベレゼッセス侯爵様」
冨岡がそう言い切ると、ベレゼッセスは声高らかに笑い始める。
わかりきっていることだが、その『もしも』には何の勝算もない。この場を乗り切ったとしても、王命が下されている以上、エクスルージュ国内に逃げ場はないのだ。
それどころか国家反逆罪か何かで手配され、全員が最悪の結末を迎えることすら考えられる。
しかし、冨岡が何を考え、何をするかわからない以上『もしも』に備えるしかなかった。
「どうぞ、これを」
冨岡はわかりやすく右手を開き、ベレゼッセスに『物』を見せる。
空気の刺々しさが最高潮に達した瞬間、冨岡は優しく微笑んだ。その顔に敵意など全くなく、むしろ媚びへつらっているようにも見える。
「おい、まさかこれは」
ベレゼッセスは目を丸くして冨岡の右手に視線を奪われた。
開かれた手のひらの上には、小さな輝きが鎮座していたのである。人の心を惑わすような輝きと、見るだけでわかる重量感。それはスタンガンなどではなく、純金製の指輪であった。
ベレゼッセスの心を揺さぶって作り出した隙を逃さないよう、冨岡が畳み掛ける。
「零れ星でございます。ベレゼッセス侯爵様ほどの方であれば、ご存知でしょうし、そう珍しい物でもないかもしれませんね」
「き、貴様、これをどこで!」
明らかに狼狽えるベレゼッセス。
当然である。こちらの世界において金は特別な存在。零れ星と呼ばれ、富の象徴とされている。どれだけ時間が経過しても錆びない性質から、神々が生み出した鉄とされており、その価値は小さな指輪でも大金貨百枚ほどだ。
大金貨一枚は日本円でおよそ十万円程度の価値がある。つまり、冨岡は手のひらの上に一千万円をのせていた。
純金がそれほどの価値を持っていることを冨岡は、ビエンナという老婆が営んでいる店で学んでいる。武力で立ち向かえない相手用に、純金製の指輪を用意してあったのだ。
「申し訳ありません。私自身、どこで手に入れた物なのかはわからないのです」
冨岡がそう答えると、ベレゼッセスは一歩詰め寄って睨みを効かせた。
「どこでかはわからないだと? だが、ここに現物があるではないか」
「ええ、独自のルートがありまして、少量ですがこうして回してもらっているんですよ。もしかするとこれから先、定期的に入荷できるかもしれません。零れ星の価値はもはや語るまでもないでしょう。買い手ならいくらでもいるはずです」
「当たり前だろう! 零れ星に関しては金を払えば手に入るという物でもない。求めても手に入らない、特別な存在だ。侯爵である私でも、そう易々とは・・・・・・そんなものを定期的に手に入れられるだと?」
「はい、私なら。そしてこれによって莫大な利益を得ることができます。全ては『商売を続けられれば』の話ですが」
冨岡はそう言いながら、意識的に口角を上げた。できる限りいやらしく、できる限りわかりやすく。イメージするのは時代劇の代官と越後屋である。
想定通り、ベレゼッセスは強く食いついた。
「つまり、私を後ろ盾にしようと? そのためにこの零れ星を渡すというのか」
「損して得とれ、それが商人のやり方です。ベレゼッセス侯爵様のお力添えをいただければ、この零れ星よりも大きな利益を得られるものと存じます」
「ほう、利益のためにキュルケース公爵家を切る、と?」
「船が沈むなら、料金を払って乗り換えればいいではないですか、ベレゼッセス侯爵様」
冨岡がそう言い切ると、ベレゼッセスは声高らかに笑い始める。
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