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蜘蛛の糸
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「さすがは聡明と名高いベレゼッセス侯爵様! 全てを見通した行動に、感服するばかりです。エクスルージュは安泰ですね、ベレゼッセス侯爵様がおられるのですから。いや幸運だったと言えるでしょうか。そんなベレゼッセス侯爵様に目をかけられている商人がいるとすれば、この上ない果報者ですよ。そういえば私にも、後ろ盾になってくださっている方がいるのですが、その方は今回のことをご存知なんでしょうか?」
ベレゼッセスの自尊心をくすぐりながら、冨岡は話を進める。言葉の中に罠を仕掛けつつ、だ。
するとベレゼッセスは、自分の能力を誇るように気持ちよさそうな笑みを浮かべる。
「ふっ、知っておるぞ。貴様の後ろにいるのは、キュルケース公爵だろう? 奴もこのことを知っているはずだ。身をもってな」
冨岡が仕掛けた罠。それはベレゼッセスの頭脳を褒め、能力を示したくなっている時に『その方』と、曖昧な言い方をする。そうすることでベレゼッセスは『知っているぞ』とキュルケース公爵の名前を出した。さらに追加情報を話したくなるのは、能力をひけらかしたい人間にありがちなことである。
「身をもって?」
「貴様は仕えるべき相手を間違えたようだな。船員は船が沈めば死ぬ」
冨岡の問いかけに対してベレゼッセスは、答えることなく嫌味ったらしい言葉を吐くだけだ。
今わかっていることは、冨岡の『学園づくり』を全面的に禁ずる王命が出ていること。そして、冨岡を様々な形で支援してくれているキュルケース公爵の身にも何か起きているということだ。
しかし、これだけでは情報が足りない。
現状、下手に動くことはできないが、動けたとしても何をしていいかわからない。
もう少し、ベレゼッセスから情報を引き出す必要があるのだった。
動揺は拳の中に握り込み、怒りは奥歯で噛み締める。冷や汗なら服の中でかけばいい。冨岡は冷静を装い、軽薄そうな笑みを見せた。
「自分の乗っている船が沈んでも、生き残る方法はございますよ。ベレゼッセス公爵様」
「ほう、どうすると?」
聞き返された冨岡は、ゆっくりと屋台に近づく。
その行動を不審に思った兵士の一人が、声を上げた。
「動くな!」
行動を警戒し、指摘されるのは想定内。冨岡は敵意のない笑みのまま首を横に振る。
「ちょっと待ってください、何も怪しいことはありませんよ。どうしてもベレゼッセス侯爵様に受け取っていただきたいものがありまして」
言いながら冨岡は、屋台のカウンターから中へ慎重に手を伸ばした。
その瞬間、アメリアとレボルは心臓が跳ねる。二人とも冨岡が手を伸ばした先にある物が、何なのかを知っている。屋台のカウンター、その下にあるのはトラブル対処用の『スタンガン』だ。
レボルは心の中で叫ぶ。ダメだ、と。
これだけ兵士に囲まれている中、少しでも敵意を見せれば一瞬で殺されてしまう。一見して武器だとわからない物でも、一人に向けた時点で相手は敵意を察するだろう。
だが、そんなことを声に出すわけにはいかない。
ただ冨岡の行動を見守るしかなかった。
「こちらです、どうしてもこれをベレゼッセス侯爵様に納めていただきたくて」
そう言いながら冨岡はベレゼッセスに歩み寄り、手を伸ばした。
ベレゼッセスの自尊心をくすぐりながら、冨岡は話を進める。言葉の中に罠を仕掛けつつ、だ。
するとベレゼッセスは、自分の能力を誇るように気持ちよさそうな笑みを浮かべる。
「ふっ、知っておるぞ。貴様の後ろにいるのは、キュルケース公爵だろう? 奴もこのことを知っているはずだ。身をもってな」
冨岡が仕掛けた罠。それはベレゼッセスの頭脳を褒め、能力を示したくなっている時に『その方』と、曖昧な言い方をする。そうすることでベレゼッセスは『知っているぞ』とキュルケース公爵の名前を出した。さらに追加情報を話したくなるのは、能力をひけらかしたい人間にありがちなことである。
「身をもって?」
「貴様は仕えるべき相手を間違えたようだな。船員は船が沈めば死ぬ」
冨岡の問いかけに対してベレゼッセスは、答えることなく嫌味ったらしい言葉を吐くだけだ。
今わかっていることは、冨岡の『学園づくり』を全面的に禁ずる王命が出ていること。そして、冨岡を様々な形で支援してくれているキュルケース公爵の身にも何か起きているということだ。
しかし、これだけでは情報が足りない。
現状、下手に動くことはできないが、動けたとしても何をしていいかわからない。
もう少し、ベレゼッセスから情報を引き出す必要があるのだった。
動揺は拳の中に握り込み、怒りは奥歯で噛み締める。冷や汗なら服の中でかけばいい。冨岡は冷静を装い、軽薄そうな笑みを見せた。
「自分の乗っている船が沈んでも、生き残る方法はございますよ。ベレゼッセス公爵様」
「ほう、どうすると?」
聞き返された冨岡は、ゆっくりと屋台に近づく。
その行動を不審に思った兵士の一人が、声を上げた。
「動くな!」
行動を警戒し、指摘されるのは想定内。冨岡は敵意のない笑みのまま首を横に振る。
「ちょっと待ってください、何も怪しいことはありませんよ。どうしてもベレゼッセス侯爵様に受け取っていただきたいものがありまして」
言いながら冨岡は、屋台のカウンターから中へ慎重に手を伸ばした。
その瞬間、アメリアとレボルは心臓が跳ねる。二人とも冨岡が手を伸ばした先にある物が、何なのかを知っている。屋台のカウンター、その下にあるのはトラブル対処用の『スタンガン』だ。
レボルは心の中で叫ぶ。ダメだ、と。
これだけ兵士に囲まれている中、少しでも敵意を見せれば一瞬で殺されてしまう。一見して武器だとわからない物でも、一人に向けた時点で相手は敵意を察するだろう。
だが、そんなことを声に出すわけにはいかない。
ただ冨岡の行動を見守るしかなかった。
「こちらです、どうしてもこれをベレゼッセス侯爵様に納めていただきたくて」
そう言いながら冨岡はベレゼッセスに歩み寄り、手を伸ばした。
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