百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

文字の大きさ
上 下
450 / 498

蜘蛛の糸

しおりを挟む
「さすがは聡明と名高いベレゼッセス侯爵様! 全てを見通した行動に、感服するばかりです。エクスルージュは安泰ですね、ベレゼッセス侯爵様がおられるのですから。いや幸運だったと言えるでしょうか。そんなベレゼッセス侯爵様に目をかけられている商人がいるとすれば、この上ない果報者ですよ。そういえば私にも、後ろ盾になってくださっている方がいるのですが、その方は今回のことをご存知なんでしょうか?」

 ベレゼッセスの自尊心をくすぐりながら、冨岡は話を進める。言葉の中に罠を仕掛けつつ、だ。
 するとベレゼッセスは、自分の能力を誇るように気持ちよさそうな笑みを浮かべる。

「ふっ、知っておるぞ。貴様の後ろにいるのは、キュルケース公爵だろう? 奴もこのことを知っているはずだ。身をもってな」

 冨岡が仕掛けた罠。それはベレゼッセスの頭脳を褒め、能力を示したくなっている時に『その方』と、曖昧な言い方をする。そうすることでベレゼッセスは『知っているぞ』とキュルケース公爵の名前を出した。さらに追加情報を話したくなるのは、能力をひけらかしたい人間にありがちなことである。

「身をもって?」
「貴様は仕えるべき相手を間違えたようだな。船員は船が沈めば死ぬ」

 冨岡の問いかけに対してベレゼッセスは、答えることなく嫌味ったらしい言葉を吐くだけだ。
 今わかっていることは、冨岡の『学園づくり』を全面的に禁ずる王命が出ていること。そして、冨岡を様々な形で支援してくれているキュルケース公爵の身にも何か起きているということだ。
 しかし、これだけでは情報が足りない。
 現状、下手に動くことはできないが、動けたとしても何をしていいかわからない。
 もう少し、ベレゼッセスから情報を引き出す必要があるのだった。
 動揺は拳の中に握り込み、怒りは奥歯で噛み締める。冷や汗なら服の中でかけばいい。冨岡は冷静を装い、軽薄そうな笑みを見せた。

「自分の乗っている船が沈んでも、生き残る方法はございますよ。ベレゼッセス公爵様」
「ほう、どうすると?」

 聞き返された冨岡は、ゆっくりと屋台に近づく。
 その行動を不審に思った兵士の一人が、声を上げた。

「動くな!」

 行動を警戒し、指摘されるのは想定内。冨岡は敵意のない笑みのまま首を横に振る。

「ちょっと待ってください、何も怪しいことはありませんよ。どうしてもベレゼッセス侯爵様に受け取っていただきたいものがありまして」

 言いながら冨岡は、屋台のカウンターから中へ慎重に手を伸ばした。
 その瞬間、アメリアとレボルは心臓が跳ねる。二人とも冨岡が手を伸ばした先にある物が、何なのかを知っている。屋台のカウンター、その下にあるのはトラブル対処用の『スタンガン』だ。
 レボルは心の中で叫ぶ。ダメだ、と。
 これだけ兵士に囲まれている中、少しでも敵意を見せれば一瞬で殺されてしまう。一見して武器だとわからない物でも、一人に向けた時点で相手は敵意を察するだろう。
 だが、そんなことを声に出すわけにはいかない。
 ただ冨岡の行動を見守るしかなかった。

「こちらです、どうしてもこれをベレゼッセス侯爵様に納めていただきたくて」

 そう言いながら冨岡はベレゼッセスに歩み寄り、手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...