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孫よ

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 積極的かつ希望的観測で冨岡を信じるのではなく、様々な可能性を考え、その中で最も納得できる答えが『信じる』ことであった。
 冨岡としても、ノノノカが信じてくれていることを信じる理由になる。
 だからこそ、安心して話が続けられた。

「今話したように、俺は異世界から来ました。向こうの世界で生まれ育ったんです。つまり俺の母親、シャーナ・ベルソードは」
「異世界転移によって、トミオカが生まれ育った世界に行っていたというわけじゃな。ふっ、随分複雑で荒唐無稽な話だ。だが、腑に落ちる話でもある。それで、シャーナはどうなったのじゃ?」

 シャーナが異世界転移してからのことを尋ねられた冨岡は、一瞬言い淀む。冨岡もシャーナの半生について詳しいわけではない。
 美作から話を聞いている間も、どこか他人事のように感じていたくらいだ。
 どう説明しようか、と考えてみたものの、冨岡は自分が知っていることをそのまま話すことにする。

「えっと、俺もこの話を聞いたばかりでまだ半信半疑だったんです。だから詳しい話を聞いていなくて」
「何を言っておるんじゃ? 半信半疑だからこそ、詳しく聞かんでどうする」
「・・・・・・確かに。いや、でも困惑もあったんですよ。母親の話なんて聞いたことなかったから。それに俺以外の異世界転移の話も相まって」

 ノノノカの言う通り、もっと美作から聞いておくべきだったと反省する冨岡。
 だが、あの状況では何がわからないのかわからない。質問すべきことも浮かばないほど、わからないことだらけだった。
 冨岡の言葉を聞いたノノノカは少し考えてから質問を変える。

「ふむ、過ぎたことの失敗を指摘しても仕方ないか。では、お前が知っているシャーナの情報を聞かせてくれ。何かないか? 冨岡の母シャーナとワシの娘シャーナを繋ぐ何か」
「俺が知っていること・・・・・・えっと確か『魔王の操る魔物の群れを一人で討伐した』って話をしてたそうです」
「あのスタンピードの話か。冒険者ギルドから報告が上がっておったのう。シャーナが偽名で参加したパーティーの話じゃ。魔物の群れ討伐依頼を受けたパーティーが、突然起きた地形変化によって分断され、結局シャーナ一人で討伐に当たったという。その際、偽名を使用していたことからそれがシャーナであると知っているのは、ギルドの幹部クラスとパーティーメンバー、そしてシャーナ本人。可能性は非常に高い・・・・・・か」

 一つのエピソードから情報を繋いだノノノカは、全てを納得したように頷いた。その動きをきっかけにノノノカの目には慈しみが宿る。

「そうか、シャーナは・・・・・・異世界で死んだか。親不孝な娘じゃ」
「あ・・・・・・」

 ここで冨岡は気づいた。自分が話したことによって、失踪していた娘の死を確定させてしまったことを。
 そんな相手に何を言えばいいのだろうか。なんとか振り絞ろうとする冨岡だったが、言葉が出てこない。

「あの、えっと」
「ふっ、気を遣わずとも良い。シャーナはベルソードの庇護下で生きることを窮屈に感じておった。新たな世界でこれまでとは違う人生を歩んだのなら、不幸ではなかったのだろう」
「その、幸せだったかどうかはわからないですけど・・・・・・不幸だったなら、俺は生まれていないと思います」
「そうじゃな。恋を知り、愛を知った・・・・・・それも一つの幸せじゃろう」

 ノノノカはそう言うとソファから立ち上がり、机を迂回して富岡に近づく。

「すまんが、顔を見せてくれんか、トミオカ」
「冨岡は家名で、名前は浩哉です」
「ヒロヤ・・・・・・ふっ、聞き慣れん響きだな。じゃが、優しい音じゃ」

 彼女はそのまま冨岡の頬に触れ、じっと顔を眺めた。

「そう言われれば、目元が似ておるかもしれんな。優しさの奥に力強さを感じる。確定はできんが、ワシは納得してしまった。理論ではない、本能で感じるぞ。お前はシャーナの息子、そしてワシの孫じゃヒロヤ」
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