437 / 498
腑に落ちる
しおりを挟む
再び問いかけてきたノノノカの表情は、若干の険しさを帯びていた。
これはノノノカなりの、相手を逃さない交渉術の一つなのだろうか。本来ならば与えないであろう情報を話すことで、相手に圧力をかける。そうすることで、その情報と同等の何かを渡さなければ、自分が危険だと錯覚してしまうのだ。
先程ガルーダを簡単に制圧したことも、上手く作用している。
冨岡は圧力に飲まれそうになりながらも、言葉を振り絞った。
「会ったことはありません。ただ、ベルソードという名前を聞き、こちらのベルソード家とどのような関係だったのかが知りたくて・・・・・・」
「何故知りたい? シャーナと我が家に関係があっても、トミオカとは関係ない話だろう。一体何が目的だ」
「目的って、俺は・・・・・・別に」
何が知りたい。そう問いかけられた冨岡は、本当に自分の目的が分からず戸惑う。
わざわざベルソード家を訪れ、身の危険を感じながらも疑問を止めない。何かを知ったところで、自分の得にはならないことだ。
自分は何がしたかったのだろう。
様子のおかしい冨岡に対し、ノノノカは警戒心を露わにする。
「答えよ、トミオカ。何年も前に消えたシャーナのことを何故調べておる。それもコソコソではなく、正面突破でワシに聞きにきた。お前の目的は何じゃ?」
「俺は・・・・・・何がしたかったんでしょうか」
「は?」
本音を吐露した冨岡に対してノノノカは、心から驚いた表情で首を傾げた。
突然自分の目の前の男が、目的を見失ったのである。記憶喪失にでもなったのか、と疑いそうになるほどだ。
「何を言っておるんじゃ、お前は。今はワシが問いかけておる」
「でも分からないんです。俺はシャーナ・ベルソードのことを知って、一体何がしたかったのか。どうして知りたかったのか。俺は、今のままでも恵まれていたはずなのに。俺にはちゃんとじいちゃんがいたはずなのに」
「一体何を・・・・・・」
どうしてだか分からない。言語化はできないのだが、冨岡はノノノカに対し一定の怖さを感じながらも、話しやすさを覚えていた。
よく考えてば、ノノノカは『悪事』に対して非常に厳しいが、人に対しては優しい。横暴な立ち振る舞いをしているものの、新人冒険者を守るためのものだった。粗暴な冒険者たちを束ねるために、必要な横暴さもあるのだろう。
またギルドにとって有益な実力者を贔屓することはなく、事実のみをもって善悪を判断していた。
人間として信頼できる相手ではあるだろう。
だが、そんな理由ではない。冨岡にとって何故か話しやすいのだ。
厳しさと優しさを併せ持つ、誰かのようだった。
悩む冨岡に対して、ノノノカが言葉をかける。
「何を言っているんだ、トミオカ。じいちゃん? お前の祖父がどうしたというのじゃ。シャーナと一体何の関係がある」
「シャーナ・ベルソードは・・・・・・」
自分の母親だ、と冨岡が言葉の続きを思い浮かべた瞬間、ノノノカの言葉がフラッシュバックした。『母親』という言葉の印象が強すぎて考えに至らなかったが、ノノノカがシャーナの母親ならば、冨岡にとって祖母ということになる。
そこでようやく冨岡は頭の中が、洗浄されたようにすっきりし腑に落ちた。
「だから、何でも話せるような気がしたんだ・・・・・・ノノノカさん。俺の話を聞いてもらえますか。突拍子もないような話ですが、全てをお話しします」
これはノノノカなりの、相手を逃さない交渉術の一つなのだろうか。本来ならば与えないであろう情報を話すことで、相手に圧力をかける。そうすることで、その情報と同等の何かを渡さなければ、自分が危険だと錯覚してしまうのだ。
先程ガルーダを簡単に制圧したことも、上手く作用している。
冨岡は圧力に飲まれそうになりながらも、言葉を振り絞った。
「会ったことはありません。ただ、ベルソードという名前を聞き、こちらのベルソード家とどのような関係だったのかが知りたくて・・・・・・」
「何故知りたい? シャーナと我が家に関係があっても、トミオカとは関係ない話だろう。一体何が目的だ」
「目的って、俺は・・・・・・別に」
何が知りたい。そう問いかけられた冨岡は、本当に自分の目的が分からず戸惑う。
わざわざベルソード家を訪れ、身の危険を感じながらも疑問を止めない。何かを知ったところで、自分の得にはならないことだ。
自分は何がしたかったのだろう。
様子のおかしい冨岡に対し、ノノノカは警戒心を露わにする。
「答えよ、トミオカ。何年も前に消えたシャーナのことを何故調べておる。それもコソコソではなく、正面突破でワシに聞きにきた。お前の目的は何じゃ?」
「俺は・・・・・・何がしたかったんでしょうか」
「は?」
本音を吐露した冨岡に対してノノノカは、心から驚いた表情で首を傾げた。
突然自分の目の前の男が、目的を見失ったのである。記憶喪失にでもなったのか、と疑いそうになるほどだ。
「何を言っておるんじゃ、お前は。今はワシが問いかけておる」
「でも分からないんです。俺はシャーナ・ベルソードのことを知って、一体何がしたかったのか。どうして知りたかったのか。俺は、今のままでも恵まれていたはずなのに。俺にはちゃんとじいちゃんがいたはずなのに」
「一体何を・・・・・・」
どうしてだか分からない。言語化はできないのだが、冨岡はノノノカに対し一定の怖さを感じながらも、話しやすさを覚えていた。
よく考えてば、ノノノカは『悪事』に対して非常に厳しいが、人に対しては優しい。横暴な立ち振る舞いをしているものの、新人冒険者を守るためのものだった。粗暴な冒険者たちを束ねるために、必要な横暴さもあるのだろう。
またギルドにとって有益な実力者を贔屓することはなく、事実のみをもって善悪を判断していた。
人間として信頼できる相手ではあるだろう。
だが、そんな理由ではない。冨岡にとって何故か話しやすいのだ。
厳しさと優しさを併せ持つ、誰かのようだった。
悩む冨岡に対して、ノノノカが言葉をかける。
「何を言っているんだ、トミオカ。じいちゃん? お前の祖父がどうしたというのじゃ。シャーナと一体何の関係がある」
「シャーナ・ベルソードは・・・・・・」
自分の母親だ、と冨岡が言葉の続きを思い浮かべた瞬間、ノノノカの言葉がフラッシュバックした。『母親』という言葉の印象が強すぎて考えに至らなかったが、ノノノカがシャーナの母親ならば、冨岡にとって祖母ということになる。
そこでようやく冨岡は頭の中が、洗浄されたようにすっきりし腑に落ちた。
「だから、何でも話せるような気がしたんだ・・・・・・ノノノカさん。俺の話を聞いてもらえますか。突拍子もないような話ですが、全てをお話しします」
0
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる