百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

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優しい母ではない

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 冨岡は話の続きよりも、ノノノカが何をきっかけとして怒り出すのか聞いておきたい。
 本人にそんなことを聞くわけにもいかないので、話を続ける。
 ガルーダの来襲によって中断された言葉の続きを口にする冨岡。

「その、実は冒険者を紹介してほしいわけじゃないんです、俺」

 そう言うとノノノカは表情を変えずに頬杖をつく。

「そうじゃろうな。小鼠一匹を駆除するために高価な鎧を着るやつはおらんじゃろう」

 聞き覚えなのない例えに首を捻る冨岡。話ぶりから推測するに、必要以上の防御力に大金を払うのは馬鹿馬鹿しいということだろうか。
 うっすら意味を理解した冨岡は、話に戻る。

「それでもわざわざ、ベルソード家当主ノノノカさんに会いたかったのは『ある人』についてお聞きしたかったからなんです」
「情報を買いたいということか? それなら、わざわざワシに会わずとも冒険者ギルドで相談すれば良い。情報収集の依頼も請け負っておるぞ」
「いや、それじゃあダメなんです。どうしてもノノノカさんでなければ」
「ほう? 中々興味深い話じゃな。ワシに直接聞きたいことがある、と。良いぞ、話してみよ」

 ノノノカに促された冨岡は、ダメで元々という気持ちを握って本題に入った。

「シャーナ・ベルソード、という名前に聞き覚えはありますか?」

 そう切り出した瞬間、ノノノカの表情が固まる。ガルーダ拘束後、穏やかだった空気がひどく乾燥し始めた。乾いた唇がひび割れそうなほどである。
 その名前はノノノカにとって禁句だったのか、と冨岡は緊張感を覚えた。

「あ、あの」

 重い空気に耐えられなくなり、冨岡が言葉を加える。するとノノノカは体を前に出して冨岡に問いかけた。

「その名前をどこで聞いた、トミオカ」
「いや、えっと」

 美作から聞いた話では、シャーナは冒険者と名乗っていた。その名前を知っている者がいても不思議ではない。冒険者ギルドを統べるベルソード家の者でもある。名前を出しただけで、何かを勘ぐられるはずはないと思っていた。
 冨岡がどう答えようかと思案していると、ノノノカが口を開く。

「シャーナはベルソード姓を名乗っておらんかったはずじゃ。冒険者として、自らの腕を試したいと言い、家を出た。シャーナが冒険者として生きていたことを知っているのはごく少数の身内のみ・・・・・・それなりに名前を上げてはいたが、それでも家の名前に頼ることはせんかったはず」

 しまった、と冨岡は硬直する。ベルソードと名乗らなくなっていたなんて知らなかった。
 そして、それは普通の商人が知るはずもないことである。
 その間にもノノノカは話し続けていた。

「ベルソード家の者というだけで特別扱いされる、良くも悪くもな。自らの腕を試したいというシャーナの気持ちはわからんでもない。そしてシャーナはそのまま消えた・・・・・・依頼に失敗したのか、ベルソードの名前を完全に捨てるため他国へ逃げたのか・・・・・・まぁ、少なくともベルソードを良く思ってなかったのじゃろう。ワシは優しい母ではなかったからな」
「え、母!? ノノノカさんが?」
「そうじゃが、何か言いたいのか、トミオカ」
「い、いえ!」
「というわけで、トミオカ。もう一度聞こう。そんなシャーナの名前をどこで知った? そういえば他国出身の商人じゃったな。本人に会ったか?」
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