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吠える男と幼女
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「ドラゴン程度?」
信じられない言葉を聞いた冨岡は、ただその場で硬直するしかなかった。
まるで草原に咲いている綺麗な花を見つけ、そっと手に取るかのように楽しそうな笑顔を浮かべながら剣を抜くノノノカ。銀色の刀身は鏡のように磨かれ、怪しく光を反射していた。
背丈の小さいノノノカが持つと、太刀と見間違えそうになるが、一般的な長さの剣である。
そんな一連の動きを冨岡が目で追いかけていると、勢いよく扉が開いた。いや、開いたというには乱暴すぎるだろう。正しくは扉が爆ぜるように破壊され、扉としての役目を果たさなくなった。
「ひっ」
呆れるほど間抜けな声を出す冨岡。
対照的にノノノカは落ち着き払っていた。不自然なほどの冷静さは、内側で燃える戦いへの喜びを隠すようでもある。
「お前の家では、随分激しいノックを教えているんだな。扉が何枚あっても足りんぞ? 木材が高騰していることも考えろよ。壊れん程度にせんと粗暴なママが泣くぞ、小僧」
「ノノノカ・ベルソード! ふざけるなよ!」
壊れた扉から飛び込んできたのは、冨岡の身長よりも大きい斧を持った筋骨隆々の男だった。
男の背後では、ベルソード家の警備らしき者たちが一定の距離を保って剣を構えている。ノノノカの言いつけ通り、このガルーダという男を誘導してきたのだろう。
唾液を撒き散らしながら敵意を露わにするガルーダに対し、ノノノカは剣の先を向けながらはを見せる。
「敬称が抜けておるぞ、小僧。それと、お前はこの国から出ていくように命じたはずじゃ。なぜここにおる」
そう言われたガルーダは、その場で斧を振り下ろし床板に穴を開けた。
弾けた木材が、冨岡の足元で音を立てて転がる。分厚い床板が一撃で粉々だ。
「ふっざけんな! 俺はこの冒険者ギルドに何度も貢献してきた! 他の誰も手がつけられない魔物も、街を襲おうとした賊も俺がいなきゃとんでもない被害を出していたはずだ! そんな俺を追放だと?」
怒りのままに言葉を吐き、ノノノカを睨みつけるガルーダ。
しかし、ノノノカは臆せずに言い返す。
「小僧、お前は掟を破り、冒険者ギルドの名を汚した。それだけで追放に足る」
「名前を汚した? 俺はただあの新人を!」
「新人? 彼女には名前がある。ミルティー・ブフカ。誇り高い冒険者に憧れ、ギルドに登録した若い可能性じゃ。お前はミルティーを、自らの権力と腕力で脅し、その体を弄ばんとした」
「俺がこれまで貢献してきたことを考えれば、女の一人や二人どうしたっていいだろうが! たかがそれだけで、追放なんてされてたまるか!」
吠えるガルーダ。
ここでようやく冨岡は話の全容を理解する。
この国の冒険者の中で最上位に立つガルーダが、自らの立場と暴力を利用して新人冒険者ミルティーを襲った。それに対してノノノカは『国外追放』という罰を課したのである。
ガルーダの主張は、これまで冒険者ギルドのためにしてきたことを考えれば追放は不当であるというもの。
おそらくは何度か陳情したはずだ。しかし取り合わないノノノカに対し、怒りを燃やし、実力行使を考えて乗り込んできたのである。
だが、ガルーダの言い分はあまりにも自分勝手でふざけたものだ。冨岡は理解できずに怪訝な表情を浮かべる。
ノノノカも冨岡と同じく、ガルーダの主張に対して嫌悪を示した。
「女の一人や二人? ミルティー・フブカだと言っておる。良いか小僧、お前が万の善行を積もうが、誰かを傷つけることは許さん。男ならば、体を抱く前に心を抱け。相手に求められる男であれ。そして冒険者ギルドに所属している限り、新人であろうがワシの所有物じゃ。お前はワシの物に手を出した・・・・・・ワシの所有物を傷つけたお前が、追放されるのは当然じゃろう」
「たかが女一人だろうが! 大した依頼もこなせねぇような」
「関係ない。全てワシの物じゃ。そしてお前もな、小僧。周囲を傷つけるような所有物を処分するのも、持ち主の務め。ほら、そのバトルアックスは飾りか? 文句があるならかかってこい。お前がワシに勝てれば、全てをやろう。ベルソードの全てをな」
信じられない言葉を聞いた冨岡は、ただその場で硬直するしかなかった。
まるで草原に咲いている綺麗な花を見つけ、そっと手に取るかのように楽しそうな笑顔を浮かべながら剣を抜くノノノカ。銀色の刀身は鏡のように磨かれ、怪しく光を反射していた。
背丈の小さいノノノカが持つと、太刀と見間違えそうになるが、一般的な長さの剣である。
そんな一連の動きを冨岡が目で追いかけていると、勢いよく扉が開いた。いや、開いたというには乱暴すぎるだろう。正しくは扉が爆ぜるように破壊され、扉としての役目を果たさなくなった。
「ひっ」
呆れるほど間抜けな声を出す冨岡。
対照的にノノノカは落ち着き払っていた。不自然なほどの冷静さは、内側で燃える戦いへの喜びを隠すようでもある。
「お前の家では、随分激しいノックを教えているんだな。扉が何枚あっても足りんぞ? 木材が高騰していることも考えろよ。壊れん程度にせんと粗暴なママが泣くぞ、小僧」
「ノノノカ・ベルソード! ふざけるなよ!」
壊れた扉から飛び込んできたのは、冨岡の身長よりも大きい斧を持った筋骨隆々の男だった。
男の背後では、ベルソード家の警備らしき者たちが一定の距離を保って剣を構えている。ノノノカの言いつけ通り、このガルーダという男を誘導してきたのだろう。
唾液を撒き散らしながら敵意を露わにするガルーダに対し、ノノノカは剣の先を向けながらはを見せる。
「敬称が抜けておるぞ、小僧。それと、お前はこの国から出ていくように命じたはずじゃ。なぜここにおる」
そう言われたガルーダは、その場で斧を振り下ろし床板に穴を開けた。
弾けた木材が、冨岡の足元で音を立てて転がる。分厚い床板が一撃で粉々だ。
「ふっざけんな! 俺はこの冒険者ギルドに何度も貢献してきた! 他の誰も手がつけられない魔物も、街を襲おうとした賊も俺がいなきゃとんでもない被害を出していたはずだ! そんな俺を追放だと?」
怒りのままに言葉を吐き、ノノノカを睨みつけるガルーダ。
しかし、ノノノカは臆せずに言い返す。
「小僧、お前は掟を破り、冒険者ギルドの名を汚した。それだけで追放に足る」
「名前を汚した? 俺はただあの新人を!」
「新人? 彼女には名前がある。ミルティー・ブフカ。誇り高い冒険者に憧れ、ギルドに登録した若い可能性じゃ。お前はミルティーを、自らの権力と腕力で脅し、その体を弄ばんとした」
「俺がこれまで貢献してきたことを考えれば、女の一人や二人どうしたっていいだろうが! たかがそれだけで、追放なんてされてたまるか!」
吠えるガルーダ。
ここでようやく冨岡は話の全容を理解する。
この国の冒険者の中で最上位に立つガルーダが、自らの立場と暴力を利用して新人冒険者ミルティーを襲った。それに対してノノノカは『国外追放』という罰を課したのである。
ガルーダの主張は、これまで冒険者ギルドのためにしてきたことを考えれば追放は不当であるというもの。
おそらくは何度か陳情したはずだ。しかし取り合わないノノノカに対し、怒りを燃やし、実力行使を考えて乗り込んできたのである。
だが、ガルーダの言い分はあまりにも自分勝手でふざけたものだ。冨岡は理解できずに怪訝な表情を浮かべる。
ノノノカも冨岡と同じく、ガルーダの主張に対して嫌悪を示した。
「女の一人や二人? ミルティー・フブカだと言っておる。良いか小僧、お前が万の善行を積もうが、誰かを傷つけることは許さん。男ならば、体を抱く前に心を抱け。相手に求められる男であれ。そして冒険者ギルドに所属している限り、新人であろうがワシの所有物じゃ。お前はワシの物に手を出した・・・・・・ワシの所有物を傷つけたお前が、追放されるのは当然じゃろう」
「たかが女一人だろうが! 大した依頼もこなせねぇような」
「関係ない。全てワシの物じゃ。そしてお前もな、小僧。周囲を傷つけるような所有物を処分するのも、持ち主の務め。ほら、そのバトルアックスは飾りか? 文句があるならかかってこい。お前がワシに勝てれば、全てをやろう。ベルソードの全てをな」
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