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男のモットー
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ダルクからの紹介状は紛れもない本物だ。
キュルケース公爵という重い重い名前を掲げ、ベルソード家当主との面会を求めている。
それは一介の守衛が勝手に判断していいものではなかった。
もちろん冨岡はそれを分かっていて、このタイミングでキュルケース家の名前を出した。性格の悪いやり方だと自分でも思うが、あれほどの対応をされたのだから許されるだろう。
紹介状を読んだ長身の鎧は、面白いほどに青ざめた表情で硬直し始める。
「ほ、本物? いや、この羊皮紙を手に入れられるのは貴族・・・・・・それにこの紋章印はキュルケース公爵家の、うわぁ、やったか俺。やっちまったか・・・・・・どうしよう」
聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で呟く鎧。衝撃によって心の声が漏れている、という感じだった。
先程まで自分の立場を振りかざして調子に乗っていた鎧が、連続でメールが届いたスマホのように震えている様は、スッキリするを通り越して可哀想になってくる。
「わぁ・・・・・・わぁ・・・・・・厳罰かな、斬首かな」
言語を失いかけている上に想像が怖すぎる。
だが、貴族制の社会ではそれもあり得なくはないのだろう。
冨岡はため息をついてから鎧に声をかけた。
「分かってもらえればそれでいいですよ。これからは誰相手でも対応に注意してくださいね。偉そうにしていいことなんて、基本的にはありませんから」
「は、はい! あの・・・・・・このことはどうか、ここだけの話に。靴をお舐めさせていただきますので、ぐへへ」
「いらないですよ! これから注意してくれればそれでいいですから」
人はここまで立場によって対応を変えるものか、と少し冨岡は悲しくなる。
「も、もちろんですよ。ぐへへ。最初からキュルケース公爵家の紹介状を掲げて来てくださいよ、旦那ぁ」
「ストーリーが発展しない水戸黄門かよ。こういうのは出すタイミングが大切なんですよ。というわけで、紹介状の通りベルソード家の当主様にお会いしたいのですが」
冨岡が話を進めると長身の鎧は強く頷いた。
「へ、へい! それでは応接室にお通しいたします!」
「そんなにすんなり通していいんですか? 中の人に許可を取るまでは待っていますよ?」
「公爵家の紹介状をお持ちなのに、立ったまま待たせるわけには行きませんぜ。応接室でお茶を出しますので、そちらで。ついでに靴舐めましょうか?」
「靴舐めるのはいらない。じゃあ、お邪魔します」
長身の鎧に連れられ、冨岡はベルソード家の中に入っていく。
庭の真ん中にある道を通り屋敷に入ると、豪華なエントランスが目に入る。キュルケース公爵家と比べれば見劣りするが、貴族ではないと考えると十分なほどの装飾品たちだった。
二階に上がる大階段の脇を通り、応接室に入ると長身の鎧がすぐに茶を運んでくる。
「どうぞ、お口に合えばいいのですが、ぐへへ」
「本当にさっきと同一人物ですか?」
「あ、申し遅れました。モットーは『長いものに巻かれろ。巻かれて巻かれて丸くなれ』ドンスター・ヴィットです」
「どんなモットーだよ。もっとプライド高いのかと思いましたよ」
「男たるもの成り上がってなんぼじゃないですか。そのためなら靴でも地面でも舐めますよ」
「男らしいのか、そうじゃないのかわからないな」
呆れながら出された茶を飲む冨岡。そのままドンスターはしばらく待つように言ってから、紹介状を持って退室する。
キュルケース公爵という重い重い名前を掲げ、ベルソード家当主との面会を求めている。
それは一介の守衛が勝手に判断していいものではなかった。
もちろん冨岡はそれを分かっていて、このタイミングでキュルケース家の名前を出した。性格の悪いやり方だと自分でも思うが、あれほどの対応をされたのだから許されるだろう。
紹介状を読んだ長身の鎧は、面白いほどに青ざめた表情で硬直し始める。
「ほ、本物? いや、この羊皮紙を手に入れられるのは貴族・・・・・・それにこの紋章印はキュルケース公爵家の、うわぁ、やったか俺。やっちまったか・・・・・・どうしよう」
聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で呟く鎧。衝撃によって心の声が漏れている、という感じだった。
先程まで自分の立場を振りかざして調子に乗っていた鎧が、連続でメールが届いたスマホのように震えている様は、スッキリするを通り越して可哀想になってくる。
「わぁ・・・・・・わぁ・・・・・・厳罰かな、斬首かな」
言語を失いかけている上に想像が怖すぎる。
だが、貴族制の社会ではそれもあり得なくはないのだろう。
冨岡はため息をついてから鎧に声をかけた。
「分かってもらえればそれでいいですよ。これからは誰相手でも対応に注意してくださいね。偉そうにしていいことなんて、基本的にはありませんから」
「は、はい! あの・・・・・・このことはどうか、ここだけの話に。靴をお舐めさせていただきますので、ぐへへ」
「いらないですよ! これから注意してくれればそれでいいですから」
人はここまで立場によって対応を変えるものか、と少し冨岡は悲しくなる。
「も、もちろんですよ。ぐへへ。最初からキュルケース公爵家の紹介状を掲げて来てくださいよ、旦那ぁ」
「ストーリーが発展しない水戸黄門かよ。こういうのは出すタイミングが大切なんですよ。というわけで、紹介状の通りベルソード家の当主様にお会いしたいのですが」
冨岡が話を進めると長身の鎧は強く頷いた。
「へ、へい! それでは応接室にお通しいたします!」
「そんなにすんなり通していいんですか? 中の人に許可を取るまでは待っていますよ?」
「公爵家の紹介状をお持ちなのに、立ったまま待たせるわけには行きませんぜ。応接室でお茶を出しますので、そちらで。ついでに靴舐めましょうか?」
「靴舐めるのはいらない。じゃあ、お邪魔します」
長身の鎧に連れられ、冨岡はベルソード家の中に入っていく。
庭の真ん中にある道を通り屋敷に入ると、豪華なエントランスが目に入る。キュルケース公爵家と比べれば見劣りするが、貴族ではないと考えると十分なほどの装飾品たちだった。
二階に上がる大階段の脇を通り、応接室に入ると長身の鎧がすぐに茶を運んでくる。
「どうぞ、お口に合えばいいのですが、ぐへへ」
「本当にさっきと同一人物ですか?」
「あ、申し遅れました。モットーは『長いものに巻かれろ。巻かれて巻かれて丸くなれ』ドンスター・ヴィットです」
「どんなモットーだよ。もっとプライド高いのかと思いましたよ」
「男たるもの成り上がってなんぼじゃないですか。そのためなら靴でも地面でも舐めますよ」
「男らしいのか、そうじゃないのかわからないな」
呆れながら出された茶を飲む冨岡。そのままドンスターはしばらく待つように言ってから、紹介状を持って退室する。
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