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弁えるべき礼節
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豪華というよりも堅牢。ベルソード家の屋敷はそんな印象を受ける建物だった。
様式は全く違うが、中学校の修学旅行で見た武家屋敷を思い出す冨岡。
佇まいそのものが、威圧感を放っている。
装飾の少ないレンガの壁を辿り、鉄製の門の前まで来ると、鎧を身に纏った長身の男が冨岡を睨んだ。
「何の用だ」
随分高圧的な物言いをするんだな、と心の中では呆れつつも冨岡は低姿勢な応対を心がける。
「あの、こちらはベルソード家で間違いないですか?」
「だったなんだ? 見たところ冒険者や傭兵ではなさそうだ。おおかた、成金商人からの使いか何かだろう」
長身の鎧は品定めをするような視線を冨岡に向け、ぶっきらぼうに言う。
どうしてそんな高圧的な態度に出るのか、冨岡には理解ができない。冒険者ギルドを統括していると言っても、依頼がなければ利益を上げることはできないはずだ。
現状、充分なほどの利益を上げているとしても、同じ位置で停滞し続ければ廃れていく。停滞は緩やかな衰退なのだから。
一定の権力を得た者が勘違いをしているのだろう。
そもそも金銭と商品、もしくはサービスを交換する際、互いの立場は対等なはずだ。相手を必要以上に下に見る行為に意味はない。
なんて不満を持っていても話は進まないので、冨岡は喉の奥で堪え、事情を説明する。
「えっと俺は・・・・・・じゃなくて私は、この街で屋台を二つ運営している冨岡という者です。
ベルソード家の方にお話があって、突然ながら訪問させていただいたのですが」
冨岡の言葉を聞いた長身の鎧は、明らかに侮蔑の笑みを浮かべた。
「屋台を二つ? ははっ、その規模でこのベルソード家を訪れたと言うのか? 馬鹿馬鹿しい。いいか、ベルソード家が直接相手をするのは、選ばれし商人だけだ。小金持ち程度が来て良い場所ではない。護衛を雇いたければ、冒険者ギルドで依頼をすればいい。分かったらさっさと立ち去れ」
そんな鎧の態度に、通常時は穏やかな冨岡も頬を痙攣させる。
なんだ、こいつは。なんだ、この態度は。こっちは低姿勢で話しているというのに、どうしてそんな言い方をされなければならない。
そっちがその気なら。
冨岡は心の中でそう呟いてから、内心とは正反対の穏やかな微笑みを浮かべた。
「申し訳ありません。突然の訪問は失礼でしたよね。しかも私みたいな、商売を始めたばかりの若造が来る場所じゃありませんでした。そうですよね、そうですよね」
「分かったならさっさと立ち去れ。邪魔だ」
「ええ、邪魔ですよね。あー、そっかそっか。紹介状をくれた方に『こんなものは邪魔だ、立ち去れ』と怒られました、って伝えにいかないとなぁ。せっかく書いてもらったのに申し訳ありませんって」
冨岡が言いながら紹介状を掲げると、鎧の表情が固まる。
「紹介状?」
「紹介状です。でも、こんなものあったって意味ないですよね。『キュルケース公爵家』の紹介状程度じゃあ、ベルソード様は追い返しますよね。わっかりました、失礼します」
「ちょ、ちょっと待った!」
鎧が止めようとするが、冨岡は踵を返して背中を向けた。
そのまま立ち去ろうとするものだから、鎧は慌てて冨岡の前に立ち塞がる。
「待て待て待て、キュルケース公爵家だと? ほ、本当だろうな」
「本当ですよ。でも『邪魔』なんですもんね。それじゃあ」
「な、中身を見せてくれ」
「え、何ですか?」
「中身を見せてくれ」
「え?」
「中身を・・・・・・見せてください」
鎧が自分の高く積み上げた矜持を崩して頭を下げた。そこでようやく冨岡は紹介状を手渡し、笑顔を固定したまま鎧を見上げる。
誰に対しても一定の礼節を弁えるんだぞ、と伝えるように。
様式は全く違うが、中学校の修学旅行で見た武家屋敷を思い出す冨岡。
佇まいそのものが、威圧感を放っている。
装飾の少ないレンガの壁を辿り、鉄製の門の前まで来ると、鎧を身に纏った長身の男が冨岡を睨んだ。
「何の用だ」
随分高圧的な物言いをするんだな、と心の中では呆れつつも冨岡は低姿勢な応対を心がける。
「あの、こちらはベルソード家で間違いないですか?」
「だったなんだ? 見たところ冒険者や傭兵ではなさそうだ。おおかた、成金商人からの使いか何かだろう」
長身の鎧は品定めをするような視線を冨岡に向け、ぶっきらぼうに言う。
どうしてそんな高圧的な態度に出るのか、冨岡には理解ができない。冒険者ギルドを統括していると言っても、依頼がなければ利益を上げることはできないはずだ。
現状、充分なほどの利益を上げているとしても、同じ位置で停滞し続ければ廃れていく。停滞は緩やかな衰退なのだから。
一定の権力を得た者が勘違いをしているのだろう。
そもそも金銭と商品、もしくはサービスを交換する際、互いの立場は対等なはずだ。相手を必要以上に下に見る行為に意味はない。
なんて不満を持っていても話は進まないので、冨岡は喉の奥で堪え、事情を説明する。
「えっと俺は・・・・・・じゃなくて私は、この街で屋台を二つ運営している冨岡という者です。
ベルソード家の方にお話があって、突然ながら訪問させていただいたのですが」
冨岡の言葉を聞いた長身の鎧は、明らかに侮蔑の笑みを浮かべた。
「屋台を二つ? ははっ、その規模でこのベルソード家を訪れたと言うのか? 馬鹿馬鹿しい。いいか、ベルソード家が直接相手をするのは、選ばれし商人だけだ。小金持ち程度が来て良い場所ではない。護衛を雇いたければ、冒険者ギルドで依頼をすればいい。分かったらさっさと立ち去れ」
そんな鎧の態度に、通常時は穏やかな冨岡も頬を痙攣させる。
なんだ、こいつは。なんだ、この態度は。こっちは低姿勢で話しているというのに、どうしてそんな言い方をされなければならない。
そっちがその気なら。
冨岡は心の中でそう呟いてから、内心とは正反対の穏やかな微笑みを浮かべた。
「申し訳ありません。突然の訪問は失礼でしたよね。しかも私みたいな、商売を始めたばかりの若造が来る場所じゃありませんでした。そうですよね、そうですよね」
「分かったならさっさと立ち去れ。邪魔だ」
「ええ、邪魔ですよね。あー、そっかそっか。紹介状をくれた方に『こんなものは邪魔だ、立ち去れ』と怒られました、って伝えにいかないとなぁ。せっかく書いてもらったのに申し訳ありませんって」
冨岡が言いながら紹介状を掲げると、鎧の表情が固まる。
「紹介状?」
「紹介状です。でも、こんなものあったって意味ないですよね。『キュルケース公爵家』の紹介状程度じゃあ、ベルソード様は追い返しますよね。わっかりました、失礼します」
「ちょ、ちょっと待った!」
鎧が止めようとするが、冨岡は踵を返して背中を向けた。
そのまま立ち去ろうとするものだから、鎧は慌てて冨岡の前に立ち塞がる。
「待て待て待て、キュルケース公爵家だと? ほ、本当だろうな」
「本当ですよ。でも『邪魔』なんですもんね。それじゃあ」
「な、中身を見せてくれ」
「え、何ですか?」
「中身を見せてくれ」
「え?」
「中身を・・・・・・見せてください」
鎧が自分の高く積み上げた矜持を崩して頭を下げた。そこでようやく冨岡は紹介状を手渡し、笑顔を固定したまま鎧を見上げる。
誰に対しても一定の礼節を弁えるんだぞ、と伝えるように。
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