百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

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有耶無耶

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 どちらがどちらに言葉を伝えているのか、もうわからなくなっていた。それも酒の場ではよくあること。
 冨岡とホース公爵は互いに微笑み合うと、黙ったままグラスをぶつけ合う。
 何度目かの乾杯を経て、ホース公爵は再び口を開いた。

「先ほどの言葉のことだがね」

 そう言われても、どの言葉のことだかわからないほど、会話を続けている。
 冨岡が考える素振りを見せると、公爵は「トミオカ殿が優しすぎる、という話さ」と説明した。

「えっと、決断する時に優しすぎるとダメだって話ですよね。そうならないためには自分の『芯』が必要だって」
「ああ、そう言ったね。そして、守らなければならない者が『芯』になる、と」
「それなら大丈夫ですよ、確かに俺には守りたい人がいますから」

 答えながら冨岡は、フィーネとリオに肉を取り分けるアメリアに視線を送る。
 改めて見るとやはり綺麗だ。夜の暗さの中、バーベキューと篝火の明るさに照らされたアメリアの顔は光を増幅させているのではないか、と思うほど輝いていた。
 ホース公爵は冨岡の視線から、何を考えているのか察すると、小さく笑う。

「ふっ、そうだな。だが、私はこうも言ったよ。『有耶無耶にしていないか』ってね」
「有耶無耶?」
「一方的な想いが無意味だなんて言うつもりはないけれどね、単純な話、一人よりも二人の方が想いは強くなる。確認し合うことは重要だよ。トミオカ殿の理想は、この国のために人生を賭けるようなものだ。この国に根を張る意味でも、相手に想いを伝え、手を取り合って生きていくべきじゃないかな?」

 ホース公爵が何を言っているのか、冨岡はすぐにわかったのだが、即答できるような話ではなかった。
 有耶無耶にしていないか、とは中途半端な状態にいないか、ということ。冨岡自身、覚悟を持って全ての行動をしているつもりだったが、アメリアに想いを伝えてはいない。それは、この状況で告白をしてしまうと、アメリアが断れるはずもないと考えているからだ。
 現実問題、冨岡を失えば学園どころか教会も存続できなくなってしまう。
 それでは借金を盾に、いや武器にしてアメリアに迫っていたジルホークと一緒だ。
 そういう言い訳。
 
「けど、ホース公爵」

 冨岡が自分の考えを言葉にしようとすると、ホース公爵がそれを遮った。

「アメリア殿は強い女性だ。それはトミオカ殿の方が知ってるはずだよ? それにどうしても気になるなら、こうしよう。何があってもキュルケース家はこの学園を全面的にバックアップする。トミオカ殿がいようといまいとね」
「・・・・・・どうしてそこまで、俺に」
「ははっ、このままトミオカ殿が独り身だとね、ローズを持っていきかねない。これは私の打算だよ」

 言いながらホース公爵はワインを飲み干す。
 打算という言葉をこんなことで使うのか、と冨岡は笑いそうになった。

「大した親バカですね、ほんと。あー、でも情けないですよ。ここまで言ってもらわないと、言い訳しちゃう自分に」
「優しすぎるんだよ、トミオカ殿は」
「ホース公爵様が言いますか? 公爵様も相当ですよ」
「弱点を武器に変えるのが、男の器だよ」
「ずるっ」
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