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愛娘のように
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想いを伝えられたローズは「お父様!」と恥ずかしそうに手で顔を覆った。
それ以外の者にも声は届いており、酔っ払いたちは一気に盛り上がる。
「いいぞー、公爵様!」
「公爵様がそんなことをおっしゃられるとはな!」
「公爵様も酔っ払うんだな」
自分たちよりも遙か上に立つキュルケース公爵が、国民に対して『愛している』なんて言葉を言うとは思ってなかった。
バーベキューの煙が舞う中、国民に届く公爵の声。
階級社会では、どうしたって下の者は上の者を疎ましく思うことが多い。自身よりも裕福な生活をしており、満たされているように感じてしまう。そして自分の生活に対する不満が、上の者のせいじゃないかと考えるようになるのだ。
そんな階級社会において、公爵ほどの立場にあるキュルケース・ホースが国民の心を掴む瞬間を見た冨岡は、妙に嬉しくなって微笑んだ。
「やっぱりすごいですね、ホース公爵様は」
「何もすごくはないさ。酔っ払いが声を張り上げれば、酔っ払いは同調するものだろう」
「たとえ酒で酔っていたとしても、普段から不満を持っている相手の言葉で盛り上がりませんよ。ホース公爵様が国民に愛されているのは間違いないんだと思います」
冨岡が知っているのは、自分と相対した時のホース公爵だけ。彼の雰囲気や考え方を知っているので、敵を作りにくいとは思っていたが、他の者から見た彼の印象を聞いたことはなかった。
ホース公爵は椅子に座ると、机の上にあったワインの瓶を手に取って冨岡のグラスに注ぐ。
「ははっ、貴族たちの間では『国民の機嫌を取るのが上手い』なんて言われているよ、私は。心からこの国の発展と安定を願っている、なんて綺麗事かもしれない。私にだって打算はある」
「打算ですか?」
「私はね、ローズに幸せな生き方をしてほしいんだ。そのためには国民の支えが必要なんだよ。国が安定していなければ、国民たちは飢え、苦しみ、そして剣を持ち始める。その鋒は必ず上を向くものだ。そうならないように、私は国民たちを守らなければならない。先の先の先を見て、国民たちの生活を守らなければならない」
言いながらホース公爵は自分のグラスにもワインを注いだ。
彼の言う『打算』とは、自分の愛娘を守るために国民を守るというもの。いずれくるかもしれない革命の日に、キュルケース公爵家だけは怒りの視界から外れるように。
「それが打算ですか?」
冨岡が問いかける。
するとホース公爵は自嘲気味に笑った。
「ああ、そうだよ」
「でも、さっきの言葉は嘘じゃなかったでしょう。国民を愛しているって。少なくとも俺は嘘だと思わなかった。だからこそみんなの心を打ったんです。自分たちのことを文字通り『娘のことのように』考える公爵様がいるなんて、国民からすれば幸せでしかないですよ」
それ以外の者にも声は届いており、酔っ払いたちは一気に盛り上がる。
「いいぞー、公爵様!」
「公爵様がそんなことをおっしゃられるとはな!」
「公爵様も酔っ払うんだな」
自分たちよりも遙か上に立つキュルケース公爵が、国民に対して『愛している』なんて言葉を言うとは思ってなかった。
バーベキューの煙が舞う中、国民に届く公爵の声。
階級社会では、どうしたって下の者は上の者を疎ましく思うことが多い。自身よりも裕福な生活をしており、満たされているように感じてしまう。そして自分の生活に対する不満が、上の者のせいじゃないかと考えるようになるのだ。
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「やっぱりすごいですね、ホース公爵様は」
「何もすごくはないさ。酔っ払いが声を張り上げれば、酔っ払いは同調するものだろう」
「たとえ酒で酔っていたとしても、普段から不満を持っている相手の言葉で盛り上がりませんよ。ホース公爵様が国民に愛されているのは間違いないんだと思います」
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ホース公爵は椅子に座ると、机の上にあったワインの瓶を手に取って冨岡のグラスに注ぐ。
「ははっ、貴族たちの間では『国民の機嫌を取るのが上手い』なんて言われているよ、私は。心からこの国の発展と安定を願っている、なんて綺麗事かもしれない。私にだって打算はある」
「打算ですか?」
「私はね、ローズに幸せな生き方をしてほしいんだ。そのためには国民の支えが必要なんだよ。国が安定していなければ、国民たちは飢え、苦しみ、そして剣を持ち始める。その鋒は必ず上を向くものだ。そうならないように、私は国民たちを守らなければならない。先の先の先を見て、国民たちの生活を守らなければならない」
言いながらホース公爵は自分のグラスにもワインを注いだ。
彼の言う『打算』とは、自分の愛娘を守るために国民を守るというもの。いずれくるかもしれない革命の日に、キュルケース公爵家だけは怒りの視界から外れるように。
「それが打算ですか?」
冨岡が問いかける。
するとホース公爵は自嘲気味に笑った。
「ああ、そうだよ」
「でも、さっきの言葉は嘘じゃなかったでしょう。国民を愛しているって。少なくとも俺は嘘だと思わなかった。だからこそみんなの心を打ったんです。自分たちのことを文字通り『娘のことのように』考える公爵様がいるなんて、国民からすれば幸せでしかないですよ」
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