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愛している!
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酒の場だというのに、ホース公爵の言葉は重く冨岡の心にのしかかった。
まるでその道を知っているかのような説得力。いや、ホース公爵は知っているのだ。
冨岡を相手にすると、公爵という地位の高さを忘れさせるほど砕けた雰囲気を出すが、ホース公爵はこの国の頂点で戦い続けている。現状と自分の目指す国。その違いを埋めるために、冨岡たちにはわからない苦労を続けているはずだ。
そしてこれから冨岡が踏み込むのは『理想を叶えるための道』である。
「俺が優しすぎる・・・・・・ですか?」
優しいことは限りなく『正しさ』に近い。多くの人がそれを求めているのだから、それは正しいとされてしまう。
冨岡自身、優しくありたいと願っている。
けれど誰かにとって優しい行動をとれば、他の誰かに不利益を与えかねない。
「トミオカ殿はその性分ゆえに、他人を見捨てられない。いや、見捨てたくないと願っている、と言った方が正しいかな。確かに表向きは、誰に対してでも良い顔をしておくべきだろう。本心は腹の中に隠しておく、それも立派な政治だ」
言いながらホース公爵は、机の上にあったプチトマトを一口で食べ切る。真っ赤な野菜を腹の中に収めた上で、彼は言葉を続けた。
「しかし、決断の場ではそうはいかない。わかるな?」
「はい。二つの意見が対立していて、俺が決断しなければならない時、どちらかの意見を潰してしまうことになる。そういうことですよね」
「ああ、そうだ。貴族たちはよく『立場が違えば考えも変わる』などと言うが、人間はそう簡単に分けられない、と私は考える。同じ立場でも人間によって考えは違うものだ。千の人間がいれば、千考えが。万の人間がいれば、万の考えが。そういうものだろう。つまり、トミオカ殿はこれから出会う人間の数、違う考え方に直面する。その度に決断が必要になるはずだ。そうだろ?」
なるほど、と冨岡は頷く。
違う考えの者と出会う度に、全ての意見を聞き入れていれば何も解決しない。しかし、今の冨岡は明らかな悪人でない限り、キッパリと切り捨てることはできないだろう。
ホース公爵はそう懸念していた。
冨岡は少し考えてから答える。
「・・・・・・確かに公爵様の言う通りです。そして俺は決断力がない」
「そうまでは言わぬよ。ここまで人を動かしてきたのは、トミオカ殿の決断だろう。決断力自体はあるはずだ。しかし、それはトミオカ殿に賛同できる者のみを相手にしていたからとも言える。私を含めてな」
「そうですね、確かに幸運でした。でもここからはそうはいかない。そういうことですよね」
「ふっ、飲み込みが早いと会話がスムーズで助かるよ。ここから先、トミオカ殿に必要なのは揺れ動くことのない芯だ」
真っ直ぐ伝えられた言葉を、冨岡は自分の中で反芻する。法治国家の法律のように、判断を下す基準を自分の中に持っていれば、一貫性のある決断ができるということだ。
「俺の中の芯・・・・・・」
「ははっ、そう難しく考えることはない。私にとって国民と家族がそうであるように、大切な者を守るという考えが芯となる。トミオカ殿にとって絶対に守らねばならぬ者は誰だ? そしてそれを有耶無耶にしていないか? 人とは弱いものでな、言葉にせねば貫くことは難しい」
ホース公爵はそう言うと、椅子から立ち上がった。
そのまま思い切り息を吸い込み、手のひらを拡声器のようにして叫ぶ。
「ローズ! 私はお前を愛している。そして、この国の全ての民を愛している!」
まるでその道を知っているかのような説得力。いや、ホース公爵は知っているのだ。
冨岡を相手にすると、公爵という地位の高さを忘れさせるほど砕けた雰囲気を出すが、ホース公爵はこの国の頂点で戦い続けている。現状と自分の目指す国。その違いを埋めるために、冨岡たちにはわからない苦労を続けているはずだ。
そしてこれから冨岡が踏み込むのは『理想を叶えるための道』である。
「俺が優しすぎる・・・・・・ですか?」
優しいことは限りなく『正しさ』に近い。多くの人がそれを求めているのだから、それは正しいとされてしまう。
冨岡自身、優しくありたいと願っている。
けれど誰かにとって優しい行動をとれば、他の誰かに不利益を与えかねない。
「トミオカ殿はその性分ゆえに、他人を見捨てられない。いや、見捨てたくないと願っている、と言った方が正しいかな。確かに表向きは、誰に対してでも良い顔をしておくべきだろう。本心は腹の中に隠しておく、それも立派な政治だ」
言いながらホース公爵は、机の上にあったプチトマトを一口で食べ切る。真っ赤な野菜を腹の中に収めた上で、彼は言葉を続けた。
「しかし、決断の場ではそうはいかない。わかるな?」
「はい。二つの意見が対立していて、俺が決断しなければならない時、どちらかの意見を潰してしまうことになる。そういうことですよね」
「ああ、そうだ。貴族たちはよく『立場が違えば考えも変わる』などと言うが、人間はそう簡単に分けられない、と私は考える。同じ立場でも人間によって考えは違うものだ。千の人間がいれば、千考えが。万の人間がいれば、万の考えが。そういうものだろう。つまり、トミオカ殿はこれから出会う人間の数、違う考え方に直面する。その度に決断が必要になるはずだ。そうだろ?」
なるほど、と冨岡は頷く。
違う考えの者と出会う度に、全ての意見を聞き入れていれば何も解決しない。しかし、今の冨岡は明らかな悪人でない限り、キッパリと切り捨てることはできないだろう。
ホース公爵はそう懸念していた。
冨岡は少し考えてから答える。
「・・・・・・確かに公爵様の言う通りです。そして俺は決断力がない」
「そうまでは言わぬよ。ここまで人を動かしてきたのは、トミオカ殿の決断だろう。決断力自体はあるはずだ。しかし、それはトミオカ殿に賛同できる者のみを相手にしていたからとも言える。私を含めてな」
「そうですね、確かに幸運でした。でもここからはそうはいかない。そういうことですよね」
「ふっ、飲み込みが早いと会話がスムーズで助かるよ。ここから先、トミオカ殿に必要なのは揺れ動くことのない芯だ」
真っ直ぐ伝えられた言葉を、冨岡は自分の中で反芻する。法治国家の法律のように、判断を下す基準を自分の中に持っていれば、一貫性のある決断ができるということだ。
「俺の中の芯・・・・・・」
「ははっ、そう難しく考えることはない。私にとって国民と家族がそうであるように、大切な者を守るという考えが芯となる。トミオカ殿にとって絶対に守らねばならぬ者は誰だ? そしてそれを有耶無耶にしていないか? 人とは弱いものでな、言葉にせねば貫くことは難しい」
ホース公爵はそう言うと、椅子から立ち上がった。
そのまま思い切り息を吸い込み、手のひらを拡声器のようにして叫ぶ。
「ローズ! 私はお前を愛している。そして、この国の全ての民を愛している!」
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