404 / 498
憧れや恋ではない
しおりを挟む
ローズはすっきりした表情で言い放つと、椅子から立ち上がった。
まだ幼い彼女の身長は、当然低い。けれどアメリアには大きく見えた。本当にフィーネやリオと同じくらいの年頃なのだろうか、と疑うほどである。
話している内容も、妙に大人びており、頭の良さが感じられた。大人のように深く考えすぎないから、などという安易すぎる理由では説明がつかない。
もしかすると、公爵令嬢として高等な教育を受けた上に、他人の顔色を伺う生き方をしてきたローズは、子どもの純粋さを持ったまま精神が育ってしまったのかもしれない。偏食を装い、わがままを言っていたのは、『他人に迷惑をかける』という方法で精神の安定を図っていた可能性がある。
だがその答えは、ローズ自身にもわからない。それでも彼女の中の歪みであることには間違いないだろう。
確かにわかるのは、ローズが心から冨岡の幸せを願っているということ。
その相手として、アメリアが相応しいと感じたのだった。
アメリアはローズの背中に声をかける。
「ローズ様、ありがとうございます」
年齢など関係ない。自分に道を示してくれた幼い女の子に、心から感謝をしていた。
するとローズはくるっと振り返って、顎を上げる。
「勘違いしないで、アメリア。私が負けを認めたのは『今』の話よ。トミーはこれだけ頑張っているんだもの、誰かが支えないといけない時が来るわ。その相手が、今は私じゃないってだけ。何かあればすぐに奪うんだから。キュルケース公爵令嬢を甘く見ないでよね」
横柄に感じる言葉には、温かみが混じっていた。
アメリアは何故か可笑しくなって、笑みを漏らす。
「庶民のしぶとさも中々厄介かもしれませんよ、ローズ様。それに私は、結構執着がすごいんです。借金を背負ってまでこの場所を手放さなかったので」
「言ってなさい」
ローズも同じように口角をあげてから、自分の執事を呼んだ。
「ダルク、私もお肉が食べたいわ。一番良さそうなものを焼いて」
そう言いながら離れていくローズの背中に、アメリアは深く頭を下げる。
こじ開けられた心の扉から、新鮮な夜風が入っていった。随分前に捨てたと思っていたものが、心の奥で埃をかぶっている。風が埃を払い、光を放ち始めた。
アメリアはそっと、その光を抱き上げる。もう二度と無くさないように。
そんなアメリアの近くから離れたローズは、何かにすがるようダルクの服を掴んだ。
「ローズお嬢様」
ダルクは静かにローズの名前を呼ぶ。
「今は・・・・・・こうさせて」
ローズは自分の感情に負けないよう、噛み締めるような声を出した。
「聞くつもりはなかったのですが、このダルク、歳をとっても耳だけは衰えていません。お嬢様、本当にご立派でした」
「うるさいわよ」
「家族以外への愛をお知りになったのですね。憧れや恋ではない、愛を。愛だからこそ、身を引かれた。お嬢様にお仕えする身として、誇りに思います」
「・・・・・・お肉」
「ええ、一番美味しいお肉をお取りしましょう」
まだ幼い彼女の身長は、当然低い。けれどアメリアには大きく見えた。本当にフィーネやリオと同じくらいの年頃なのだろうか、と疑うほどである。
話している内容も、妙に大人びており、頭の良さが感じられた。大人のように深く考えすぎないから、などという安易すぎる理由では説明がつかない。
もしかすると、公爵令嬢として高等な教育を受けた上に、他人の顔色を伺う生き方をしてきたローズは、子どもの純粋さを持ったまま精神が育ってしまったのかもしれない。偏食を装い、わがままを言っていたのは、『他人に迷惑をかける』という方法で精神の安定を図っていた可能性がある。
だがその答えは、ローズ自身にもわからない。それでも彼女の中の歪みであることには間違いないだろう。
確かにわかるのは、ローズが心から冨岡の幸せを願っているということ。
その相手として、アメリアが相応しいと感じたのだった。
アメリアはローズの背中に声をかける。
「ローズ様、ありがとうございます」
年齢など関係ない。自分に道を示してくれた幼い女の子に、心から感謝をしていた。
するとローズはくるっと振り返って、顎を上げる。
「勘違いしないで、アメリア。私が負けを認めたのは『今』の話よ。トミーはこれだけ頑張っているんだもの、誰かが支えないといけない時が来るわ。その相手が、今は私じゃないってだけ。何かあればすぐに奪うんだから。キュルケース公爵令嬢を甘く見ないでよね」
横柄に感じる言葉には、温かみが混じっていた。
アメリアは何故か可笑しくなって、笑みを漏らす。
「庶民のしぶとさも中々厄介かもしれませんよ、ローズ様。それに私は、結構執着がすごいんです。借金を背負ってまでこの場所を手放さなかったので」
「言ってなさい」
ローズも同じように口角をあげてから、自分の執事を呼んだ。
「ダルク、私もお肉が食べたいわ。一番良さそうなものを焼いて」
そう言いながら離れていくローズの背中に、アメリアは深く頭を下げる。
こじ開けられた心の扉から、新鮮な夜風が入っていった。随分前に捨てたと思っていたものが、心の奥で埃をかぶっている。風が埃を払い、光を放ち始めた。
アメリアはそっと、その光を抱き上げる。もう二度と無くさないように。
そんなアメリアの近くから離れたローズは、何かにすがるようダルクの服を掴んだ。
「ローズお嬢様」
ダルクは静かにローズの名前を呼ぶ。
「今は・・・・・・こうさせて」
ローズは自分の感情に負けないよう、噛み締めるような声を出した。
「聞くつもりはなかったのですが、このダルク、歳をとっても耳だけは衰えていません。お嬢様、本当にご立派でした」
「うるさいわよ」
「家族以外への愛をお知りになったのですね。憧れや恋ではない、愛を。愛だからこそ、身を引かれた。お嬢様にお仕えする身として、誇りに思います」
「・・・・・・お肉」
「ええ、一番美味しいお肉をお取りしましょう」
0
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

文官たちの試練の日
田尾風香
ファンタジー
今日は、国王の決めた"貴族の子息令嬢が何でも言いたいことを本音で言っていい日"である。そして、文官たちにとっては、体力勝負を強いられる試練の日でもある。文官たちが貴族の子息令嬢の話の場に立ち会って、思うこととは。
**基本的に、一話につき一つのエピソードです。最初から最後まで出るのは宰相のみ。全七話です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる