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小さな花
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真っ直ぐに屋台の中に入るかと思えば、昼時が過ぎ客が少なくなったカウンターの前で足を止める。
「ドロフ・・・・・・どうしたんだろ」
冨岡が心配そうに呟く。調理組も一旦仕事が少なくなり、調理道具の洗浄を行っている途中。レボルだけがその呟きを聞いていた。
「何か深刻そうな顔をしていますね。どうしたんでしょう。迷子になって届けられなかったとか、途中でハンバーガーを食べてしまったとか」
茶化すようにレボルが言う。
冨岡はフライパンの洗剤を水で流しながら苦笑した。
「流石にそんなことはないでしょう。何か言いたげな顔って感じですよ」
「カウンターから少し離れた外・・・・・・ちょうどフィーネちゃんやリオくんがいる場所でしょうか」
レボルの言葉通り、行列を捌いていたフィーネたちが休憩している場所で立ち止まっている。
その様子を見ていたのは冨岡とレボルだけではない。アメリアの不安そうな横顔も視界に入った。
子どもたちを心から思っているからこその不安。ドロフの印象がそんな顔をさせているのだろう。
ドロフはその場で膝をついて、子どもたちに目線を合わせた。
「あ、あの!」
裏返りそうな声は、何かを決心した緊張を感じさせる。少なくとも何か『行動』に出ることは間違いない。
しかし、ドロフの異変など気にせず、いつも通り明るいフィーネの声が聞こえた。
「ドロフのおじちゃん! なぁに? フィーネに用事?」
「あ、ああ、ちょっといいかな?」
妙な緊張感が走る。アメリアはカウンターの中から、いつでも動けるように体に力を入れていた。
同じようにレボルは持っていた野菜を置いて、視線をドロフに固定させる。
冨岡はその空気を感じ取り、レボルに微笑みかけた。
「大丈夫ですよ、レボルさん。ほら、ドロフの右手」
そう言われたレボルは納得したように、表情を緩めた。
ドロフの右手に握られていたもの。それは一輪の花。薄紅色の小さな花である。
彼は慣れない様子でフィーネに花を差し出した。
「俺、こういうの慣れていないから、要らなかったら捨ててくれていい。配達からの帰り道、この花を見つけてフィーネちゃんみたいだな、と思ったんだ。小さくて可愛くて・・・・・・よかったら貰ってくれないかな」
「わぁ、かわいいお花! 貰っていいの?」
「あ、ああ、こんなものしかあげられなくてごめんね、だけど」
「フィーネ嬉しいよ! すごく嬉しい。ありがと、ドロフおじちゃん!」
フィーネの表情は一切の曇りがなく、言葉が本心からであることが充分に伝わってくる。
受け取ってもらったドロフは照れくさそうに俯いた。
「本当にいい子だな、フィーネちゃんは。俺・・・・・・ごめんな。俺が壊しかけたものは、こんなにも小さくて尊いものなんだって、この花を見てようやく気付いた。俺、どうしようもない馬鹿だ」
「どうしたの、ドロフおじちゃん。どこか痛いの? 苦しいの?」
「ドロフ・・・・・・どうしたんだろ」
冨岡が心配そうに呟く。調理組も一旦仕事が少なくなり、調理道具の洗浄を行っている途中。レボルだけがその呟きを聞いていた。
「何か深刻そうな顔をしていますね。どうしたんでしょう。迷子になって届けられなかったとか、途中でハンバーガーを食べてしまったとか」
茶化すようにレボルが言う。
冨岡はフライパンの洗剤を水で流しながら苦笑した。
「流石にそんなことはないでしょう。何か言いたげな顔って感じですよ」
「カウンターから少し離れた外・・・・・・ちょうどフィーネちゃんやリオくんがいる場所でしょうか」
レボルの言葉通り、行列を捌いていたフィーネたちが休憩している場所で立ち止まっている。
その様子を見ていたのは冨岡とレボルだけではない。アメリアの不安そうな横顔も視界に入った。
子どもたちを心から思っているからこその不安。ドロフの印象がそんな顔をさせているのだろう。
ドロフはその場で膝をついて、子どもたちに目線を合わせた。
「あ、あの!」
裏返りそうな声は、何かを決心した緊張を感じさせる。少なくとも何か『行動』に出ることは間違いない。
しかし、ドロフの異変など気にせず、いつも通り明るいフィーネの声が聞こえた。
「ドロフのおじちゃん! なぁに? フィーネに用事?」
「あ、ああ、ちょっといいかな?」
妙な緊張感が走る。アメリアはカウンターの中から、いつでも動けるように体に力を入れていた。
同じようにレボルは持っていた野菜を置いて、視線をドロフに固定させる。
冨岡はその空気を感じ取り、レボルに微笑みかけた。
「大丈夫ですよ、レボルさん。ほら、ドロフの右手」
そう言われたレボルは納得したように、表情を緩めた。
ドロフの右手に握られていたもの。それは一輪の花。薄紅色の小さな花である。
彼は慣れない様子でフィーネに花を差し出した。
「俺、こういうの慣れていないから、要らなかったら捨ててくれていい。配達からの帰り道、この花を見つけてフィーネちゃんみたいだな、と思ったんだ。小さくて可愛くて・・・・・・よかったら貰ってくれないかな」
「わぁ、かわいいお花! 貰っていいの?」
「あ、ああ、こんなものしかあげられなくてごめんね、だけど」
「フィーネ嬉しいよ! すごく嬉しい。ありがと、ドロフおじちゃん!」
フィーネの表情は一切の曇りがなく、言葉が本心からであることが充分に伝わってくる。
受け取ってもらったドロフは照れくさそうに俯いた。
「本当にいい子だな、フィーネちゃんは。俺・・・・・・ごめんな。俺が壊しかけたものは、こんなにも小さくて尊いものなんだって、この花を見てようやく気付いた。俺、どうしようもない馬鹿だ」
「どうしたの、ドロフおじちゃん。どこか痛いの? 苦しいの?」
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