百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

文字の大きさ
上 下
357 / 498

魔法学教師

しおりを挟む
 ダルクが声をかけたのは、冨岡とヴェルヴェルディの話を一度整理させるため。またローズのためでもあった。
 賢い子とはいえ彼女はまだ子ども。大人が子どものために何かを考え、動いていることを知ってしまうと、自分の意思で行なっている全てが大人に誘導されているかもしれない、と感じる恐れがある。
 大人にそんなつもりがなくとも、善意の押し付けに感じるような発言を聴かせるべきではなかった。
 もちろん、ローズが聡いがゆえにそう考えつく可能性があるという程度の話だ。
 先にダルクの意図に気づいたのはヴェルヴェルディ。彼は即座に言葉を足す。

「ええ、そうですね。私たちにできるのは、子どもたちに多くの可能性を提示すること。本来、無限に存在する可能性を、何かしらの理由で狭めることがないようにすることです。その中でも特に、学びの有無が大きいと私は考えます」

 ヴェルヴェルディの言葉は、先ほどよりも具体性に欠け、それでいて感情が増していた。
 そこで冨岡はローズに無駄な誤解を与えないようにしているのだ、と気づき頷く。

「俺もそう思います。与えるなんて恩着せがましい言い方はしません。でも俺は子どもたちに用意したいんです。未来を変えられるだけの環境を」
「そのためならば毒をも喰らう。そう考えていいですか?」

 ヴォロンタ家は既に取り潰された家。今はキュルケース公爵家の庇護下にあり、名前を隠している限り安全だ。しかし、冨岡が雇うとなればその限りではない。
 二百年前の大罪は確かに存在するのだ。万が一、何か起きた時冨岡もヴォロンタ家と同じように非難されるだろう。彼はその覚悟はあるのか、と問いかけている。
 当然、何も起きない可能性の方が高い。二百年前の話など誰も蒸し返そうとはしないだろう。それも現在では罪にならない罪の話。ヴェルヴェルディが聞きたいのは、冨岡の覚悟だった。

「もちろんです。俺の国にはこんな言葉があります。毒を食らわば皿まで、と」

 冨岡がそう答えると、ヴェルヴェルディは柔らかな笑みを浮かべる。

「全身へと毒が回る前に、皿の欠片で大変なことになりそうですね。だが、物事の本質を理解したいい言葉です。先ほどお聞きした学園作り。これはある程度貴族の反感を買うものでしょう。知識の独占は、身分の上下を分けるのに適していますからね。学園はその体制に風穴を開ける針となってしまう。そのような毒を喰らっているのなら、追加の毒どころか皿を食おうと関係ない・・・・・・といったところでしょうか」

 そんなつもりはなかった。毒関係で頭の良さそうなことを考えた結果、冨岡の中にある語彙の限界がそれだっただけ。しかし、ヴェルヴェルディは独自で解釈し、何故か納得したのである。
 冨岡は『頭良さそう』な雰囲気を出したかっただけだ。幸運にも成功した冨岡は頷く。

「ええ、その通りです」

 こうして冨岡は魔法学の研究において、この国で最も進んでいるヴォロンタ家を教師として勧誘することに成功した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...