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歴史の闇に消えた

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 現在と過去。そして新たな情報が入り混じり複雑になってしまった説明。
 繰り返しになるが、二百年ほど前までこの国では魔法は『神の祝福』とされており、魔法使いはその一部を顕現しているだけだと考えられていた。
 しかし、今では研究によって魔法の仕組みが分かり、魔法への理解とイメージこそが魔法自体の威力や範囲を大きくすることが常識となっている。
 それが認められるよりも前に、とある家庭教師がその事実に気づいた。だが、それはイコール神の祝福を否定することと捉えられ、大罪という認定を受けたのだった。

「そして、その家庭教師の一族は取り潰しになってしまった。これがダルクさんに聞いた話です」

 冨岡がそう締めくくると、アメリアは心を痛めたかのように口を固く噤む。自己犠牲すら厭わないような彼女の優しさに突き刺さる話だったのだろう。
 確かにおかしな話だ。誰よりも努力と研究を積み重ね、いち早く事実に辿り着いた者が不遇な扱いを受けている。その上、今ではその事実が常識にまで昇華された。
 名誉と立場を奪われ、歴史の闇に消されてしまったのである。

「もう亡くなっている人の話ですが、少なくとも俺はその人が罪人だったとは思えないんです。確かに世間から見れば、取り潰しはイメージが悪いでしょうけど」

 言葉を付け足す冨岡。
 するとアメリアは首を横に振った。

「そんなことはありません。いえ、恥ずかしながら、私も取り潰しという話だけで警戒してしまいましたが」
「アメリアさんの警戒は当然ですよ。子どもたちをを育てる場所なんですから、気にしすぎなんてことはないでしょう。でも、どうでしょうか。話を聞いた上でも気になることはありますか?」
「いいえ、心配はありません。ただ、気になることといえば、未だにその一族は研究を続けているのでしょうか? 取り潰されたのが二百年も前なんですよね」

 大罪に関する心配はなくなったアメリア。続いて気にしなければならないのは、現在も家庭教師足り得るのかという話である。
 冨岡はそんな彼女にニヤリと笑みを見せた。

「人の好奇心は止められないものですよ。特に研究者や学者といった方々は、どれだけ禁じられても研究を続けるんです。そうして人類は進歩していく。その一族についてもダルクさんから話を聞いています」

 その一族、と呼び続けているが正式には『ヴォロンタ家』と呼ばれている。
 ヴォロンタ家は取り潰し命令を受け、その名と全ての研究を捨てざるを得なかった。それと同時に屋敷や権限を全て没収される。
 選択肢として国外で研究を続けるという方法もあるのではないか、などと言われそうだが、取り潰しという不名誉を受けたヴォロンタ家を受け入れる国などない。
 この国の中、全てを失い不名誉だけを持ち生きていくしかなかった。
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