百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

文字の大きさ
上 下
340 / 498

言葉の先はいつか

しおりを挟む
 冨岡は自分の勢いを殺すように、背もたれに体を預ける。
 椅子は『何してんだよ』と注意するようにギィと音を立てた。
 そもそも冨岡自身も戸惑っている。こんなタイミングで自分の感情を把握するとは思っていなかった。アメリアの問いかけに対して自然に、あまりにも自然に本心が溢れ出てしまったのである。
 多くの人を救いたい。祖父、源次郎の意思を継いで、誰かの人生を良い方向に。
 そんな思いで始めたはずなのに、気づけばアメリアに惹かれていた。人としてではなく、一人の女性として。
 自覚した途端に顔が熱くなる。冨岡が自分の頬に触れると、アメリアが首を傾げた。

「何を言おうとしたんですか?」
「本当になんでもないです。いや、なんでもないってことはないんですけど、今は控えておきます」

 冨岡が首を横に振ると、アメリアは少し唇を尖らせて問いかけを続ける。

「気になるじゃないですか。教えてください!」

 リオのことで混乱している最中にこんな話をして良いのか、と迷った挙句、冨岡は首を横に振った。

「ちょっと待ってて欲しいです。大切な気持ちなので、ちゃんと伝えたい」

 恋愛に慣れている人ならば、冨岡の表情と言葉である程度察するかもしれない。こんなもの『明日告白するから校舎裏に来てほしい』くらいバレバレである。
 しかし、これまでの人生で恋愛などしてこなかったアメリアは、察しの悪さを発揮し冨岡が何かを伝えたいけれども、今は言えないという形だけ捉え、渋々納得した。

「わかりました。言いたいことがあれば言ってくださいね? トミオカさんがここまで私によくしてくれる理由に関わるのなら、余計にです。私にできることならなんでもしますから」

 冨岡も健康な成人男子である。『なんでも』という言葉に反応しないでもなかったが、グッと堪えた。

「言うべき時になれば・・・・・・その時は聞いてほしいです」
「その時になれば」

 告白もしていないのに、緊張して心臓が強く跳ねるのを感じる冨岡。惜しいのはアメリアにその感情が伝わっていないこと。
 アメリアの察しがもう少しだけ良ければ、伝わっていただろう。
 二人は明日の準備を終えて、それぞれ部屋に戻った。
 冨岡は一人、ベッドで横になりながら、自分なりにどうにかできないものかと考える。アメリアへの告白ではない。リオの父親が魔王か否か、調べる方法だ。

「キュルケース家に依頼すれば、調べてくれるかな。いや、この国にとって伝承に残るほどの悪だった魔王の話をするわけにはいかないか」

 冨岡に対しては協力的だといっても、キュルケース家はこの国の公爵である。国の敵であった魔王に対して、良い感情を抱くわけがない。
 そんなことを考えていると次第に眠気に襲われ、冨岡は一日を終えた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...