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記憶の欠片

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 慌てて布で魔石を包み込むアメリア。
 それによってどんな効果があるのか、頭では分かっていても冨岡に感じ取ることはできない。
 その作業中、突然リオが「あ!」と立ち上がった。
 声に驚いた冨岡が一瞬身を震わせて問いかける。

「どうしたの、リオくん」
「俺・・・・・・その布見たことある」

 幼い彼が自分の記憶を辿るように、目を閉じた。

「えっと、えっと」

 必死に考える彼の姿を見ていると、追加で何か言葉をかけるのが憚られる。
 黙って見守っていると、リオは自分を責めるように肩を落とした。

「ごめん、俺思い出せないかもしれない」
「仕方ない、リオくんのせいじゃないよ」

 冨岡が慰めるようにリオの肩を撫でる。
 するとリオは冨岡の手を眺め、その感触を確かめるように硬直した。
 記憶とは何かと紐づくことがある。主に匂いが記憶に直結すると言われているが、他の感覚でも大切な何かであれば思い出せる。
 リオにとっては人に触れられた温かみが、記憶を引き出す鍵だった。

「そうだ・・・・・・俺、これに包まれてたんだ・・・・・・雨と風で吹き飛ばされそうな夜に・・・・・・」

 その話を聞いた大人三人は、すぐに同じ答えに辿り着く。
 リオが布に包まれ、嵐の中にいた日。それはおそらく『魔王の終焉』のことだ。今よりももっと幼かったリオが隣街の教会で拾われた日である。
 当時の記憶が残っていることにも驚くのだが、魔力を完全に覆い隠す布の記憶が『魔王の終焉』と同日のものであることが衝撃的だった。
 リオと魔王との繋がりを匂わせるには充分である。
 思わず冨岡はレボルとアメリアに視線を送った。二人の表情を眺め、自分と同じ思考に至ったことを確認すると、恐る恐るリオに話しかけた。

「リオくん、もう少し何か思い出せない?」

 もしかすれば、布の正体がわかるかもしれない、と問いかける。布の正体がわかればおのずと、魔石を超えた魔石の正体、出どころもわかるはずだ。
 
「えっと、えっと」

 悩むリオ。当然だ。そんな頃の記憶が少しでも残っていたことが奇跡なくらいである。
 そんな彼に求めすぎるのはあまりにも酷だ。
 冨岡が諦めてリオに声をかけようとすると、アメリアが無言のまま魔石を包んでいた布を開き始める。

「アメリアさん、一体何を」
「もしかすると、こうすれば何かを思い出すかもしれません」

 そう言ってアメリアは布を持って、リオの肩にかけた。
 冨岡が優しく触れたことによって記憶の欠片が蘇ったのなら、布の感触も何かきっかけになるかもしれない。
 
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