百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

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それだけ

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 ちょうどシチューを配り始めるタイミングで、職人たちの作業が終わったらしくミルコの号令が響いてきた。

「今日は終わりだー! 各自、キリのいいところで手を止めてくれ!」

 その声によって彼がどこにいるのかすぐにわかる。
 冨岡は一人分のシチューを持ってミルコの元に向かった。

「お疲れ様」

 冨岡が声をかけると、ミルコは腕で額の汗を拭いながら振り向く。

「ああ、トミオカさん。作業は順調だぜ。この分じゃあ、予定よりも早く上がりそうだ。キュルケース家が用意してくれた職人たちも、流石に腕がいい」

 ミルコの言葉を聞き、冨岡は安心したように微笑んだ。

「そうですか。上手くいってるなら良かったです。それより、これ。職人さんたちで食べて欲しくて作ったんですけど」
「おお、いつも悪いな。トミオカさんが食事を作ってくれるから、職人たちもやる気なんだ。この飯を食うために来てるって職人もいるくらいだよ。ありがたくいただこう」
「パンもあるので、全員屋台の前まで取りに来てください。俺にできるのはこれくらいなので」

 それ自虐的な言葉ではなかった。冨岡が職人たちに敬意を持っているが故に、そう言っただけである。
 するとミルコは軽く首を傾げて口角を上げた。

「これくらい、なんて言うもんじゃないぜ。そんなことを言ったら、俺たちなんて家を建てるくらいしかできねぇ。自分にとっては『それだけ』でも、誰かにとっては充分過ぎるほど役に立つ。そういうもんじゃねぇのかな。少なくとも俺は、この飯で明日も頑張ろうと思える。トミオカさんが作りたい学園も、それの繰り返しなんだろ? 自分にできることをして、誰かの明日を作る。まぁ、偉そうなことを言ってるけど、実のところ俺もわかってないんだがな。はっはっは」

 言いながらミルコはシチューを口に運ぶ。
 ふと冨岡は、財産だ、と思った。お金の話ではない。人との出会いが、である。
 ミルコとの出会いは、決して良いものではなかった。けれど、ミルコとの絆は良いものだと断言できる。
 学園づくり自体、自己満足でしかない。偽善なのかもしれない。それでも、肯定して協力し、背中を押してくれる彼の存在はありがたかった。
 真っ直ぐな性格と言葉だからこそ、伝わるものがある。

「ありがとう、ミルコ。じゃあ、職人さんたちに言っておいてください。俺はブルーノさんを探してきますね。アレックスが待ってますから」
「おお、そうか。ブルーノなら教室予定の場所で床を張ってるはずだ。元々クソ真面目な職人だったんだろう。手も早いし仕事も丁寧だ。ウチとしても良い職人を紹介してくれて感謝してるくらいだよ」

 ミルコと挨拶を交わした冨岡は、言われた通り教室予定の場所へ向かった。
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