291 / 498
この師匠にして
しおりを挟む
工房を出た冨岡がキュルケース公爵邸に向かいながら考えるのは、ブルーノのことばかりだった。
都合上仕方なくいきなり置いてきてしまったが、昨日のような威勢の良さはなく、完全に借りてきた猫のようになってしまっていたブルーノ。
元々工房で働いていた職人だからこそ、工房に対してリスペクトを持っており気軽な態度を取れない、というのもあっただろう。
さらには、工房に到着するまではブルーノが半信半疑だったことも大きい。普通では考えられないほどの幸運。いや、奇跡と呼んでもいいほどの出来事である。
職人として歳を重ね、全てを失ったところからもう一度他の職人として生きていけるなんて話は、他にない。
ブルーノが戸惑い、萎縮してしまうのは当然だった。
最終的に「まぁ、いいか。ブルーノさんも大人だし、自分でなんとかするだろう」と冨岡が楽天的な答えに辿りついた頃、何日かぶりのキュルケース公爵邸が視界に入る。
「何度見ても、公爵様の屋敷ってのはこう・・・・・・惚れ惚れするな」
公爵邸の門の前で、見上げるようにして言うミルコ。
その恍惚とした表情からは、木材を愛でていたヘルツに近しいものを感じた。いや、この師匠にしてあの弟子あり。職人には変な奴が多い、と話したミルコの言葉にはミルコ自身も含まれるのだろう。
ヘルツにとっての木材が、ミルコにとっての建造物。
建物の美しさにうっとりしてしまう性質のようだった。
「建物フェチ? っていうんですかね。眺めるのは後にしてくださいよ、ミルコ。今日はこの後にも用事があるので」
冨岡が急かすように門に近づくと、先日訪れた時に顔を見た従者が慌てて門を開ける。
「トミオカ様、ですね。どうぞ、トミオカ様がお見えになった際には、お待たせすることなくお通しするよう命じられておりますので」
従者はスムーズに冨岡とミルコを屋敷の中に案内した。
公爵邸とはこれほど簡単に入ってもいいのか、などと思わなくもないが、話が早いに越したことはない。
従者にすんなりと着いていく冨岡と、背後で唖然とするミルコ。
「トミオカさん、やっぱりアンタはすごいな。公爵家を何の身分証もなく素通りとは・・・・・・それこそ同じ貴族様でも出来やしねぇぜ。公爵様ってのは他の貴族様とは大きく違う。それだけの存在に、これだけの信頼って」
ミルコの感想に相槌を打ちながら従者に着いていくと、廊下の先から甲高い声が響いてくる。
それは可愛らしく感情的な声だ。
「トミー!!」
都合上仕方なくいきなり置いてきてしまったが、昨日のような威勢の良さはなく、完全に借りてきた猫のようになってしまっていたブルーノ。
元々工房で働いていた職人だからこそ、工房に対してリスペクトを持っており気軽な態度を取れない、というのもあっただろう。
さらには、工房に到着するまではブルーノが半信半疑だったことも大きい。普通では考えられないほどの幸運。いや、奇跡と呼んでもいいほどの出来事である。
職人として歳を重ね、全てを失ったところからもう一度他の職人として生きていけるなんて話は、他にない。
ブルーノが戸惑い、萎縮してしまうのは当然だった。
最終的に「まぁ、いいか。ブルーノさんも大人だし、自分でなんとかするだろう」と冨岡が楽天的な答えに辿りついた頃、何日かぶりのキュルケース公爵邸が視界に入る。
「何度見ても、公爵様の屋敷ってのはこう・・・・・・惚れ惚れするな」
公爵邸の門の前で、見上げるようにして言うミルコ。
その恍惚とした表情からは、木材を愛でていたヘルツに近しいものを感じた。いや、この師匠にしてあの弟子あり。職人には変な奴が多い、と話したミルコの言葉にはミルコ自身も含まれるのだろう。
ヘルツにとっての木材が、ミルコにとっての建造物。
建物の美しさにうっとりしてしまう性質のようだった。
「建物フェチ? っていうんですかね。眺めるのは後にしてくださいよ、ミルコ。今日はこの後にも用事があるので」
冨岡が急かすように門に近づくと、先日訪れた時に顔を見た従者が慌てて門を開ける。
「トミオカ様、ですね。どうぞ、トミオカ様がお見えになった際には、お待たせすることなくお通しするよう命じられておりますので」
従者はスムーズに冨岡とミルコを屋敷の中に案内した。
公爵邸とはこれほど簡単に入ってもいいのか、などと思わなくもないが、話が早いに越したことはない。
従者にすんなりと着いていく冨岡と、背後で唖然とするミルコ。
「トミオカさん、やっぱりアンタはすごいな。公爵家を何の身分証もなく素通りとは・・・・・・それこそ同じ貴族様でも出来やしねぇぜ。公爵様ってのは他の貴族様とは大きく違う。それだけの存在に、これだけの信頼って」
ミルコの感想に相槌を打ちながら従者に着いていくと、廊下の先から甲高い声が響いてくる。
それは可愛らしく感情的な声だ。
「トミー!!」
0
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる