百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

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抱きしめてくれませんか

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 それは冨岡がずっと感じていた『アメリアの遠慮』に対する言葉だった。
 どこか一歩引いたような姿勢。もちろん、自分を救ってくれた冨岡を立ててしまうのはわかる。しかし、人間にとって最も重要なのは自由であること。
 自分自身で言っているように、冨岡は自分のしたいことをしたいようにしている。同じようにアメリアにも主張をしてほしいと願っていたのだ。

「私のしたいこと」
「俺にとってフィーネちゃんやアレックスの未来が大切なように、アメリアさんの未来も大切なんです。なんて、急に言われてもしたいことを主張するのは難しいですよね」

 冨岡は乾いた笑いを浮かべる。
 するとアメリアは、胸の前で両手を合わせてモジモジと体を揺すってから、耳まで真っ赤になった顔を冨岡に寄せた。

「あの・・・・・・それじゃあ」
「それじゃあ?」
「一度だけ抱きしめてもらえませんか?」
「・・・・・・え?」

 突然の頼みが冨岡の思考力を奪い去る。
 抱きしめて、って何だ。両手で体を囲むアレのことか。
 コアラが木に捕まる感じのアレか。コアラっていいよね。見ていると癒される気がする。
 かろうじて残った思考力で、一切関係ないコアラのことを考えてしまう冨岡。
 その間、無言で硬直している冨岡に対し、アメリアは恥ずかしそうに言葉を付け足した。

「そ、その・・・・・・何か言ってもらえませんか? 凄く恥ずかしいので」
「うぇっと、何かって」
「嫌ですか?」
「い、嫌じゃないですよ! ただびっくりしただけで」

 冨岡がそう答えると、アメリアは黙って一歩前に出る。コアラで言えば、木の方が歩み寄ってきた状態だ。
 アメリアにそこまで言わせ、行動させて何もしないわけにはいかない。
 まだ戸惑いの中にいる冨岡だったが、緊張で震える手をアメリアの背後に回す。

「そ、それじゃあ」

 ゆっくりと腕の円周を減らすと、アメリアの肩が密着していく。彼女の体温が伝わり、意識するたびに心臓が張り裂けそうなほど鼓動していることがわかった。
 アメリアの体を引き寄せ、完全に密着した頃には緊張を通り越し、冨岡は心地よさを感じる。
 不思議な感覚だ。自分の鼓動の大きさに驚くのだが、もう一つ鼓動があるような気がする。ドクンドクン、その間にドクンドクン。ドドククンン。
 もう一つの鼓動がアメリアのものだと気づくのにそれほど時間は掛からなかった。
 アメリアもまた緊張しているのだろう。

「アメリアさん。その、これでいいんでしょうか?」
「ふふっ、温かいです」
「えっと寒かったんですか?」
「それは冗談ですか?」
「あ、すみません」
「こうして欲しかったからお願いしたんですよ。トミオカさんと二人になれることが少なくなってきたので」

 そこまで聞けば鈍感な冨岡にもわかる。
 当然、子どもを救う場所を作る喜びはある。だが激動の日々を支えてくれたアメリアにも不安はあり、寂しさを感じていたのだ。
 子どもを支える側でなければならないと思っているアメリアも、まだまだ若い。彼女にも支えが必要だった。
 誰も助けてくれないこの世界で、唯一助けてくれた冨岡に温かさを求めてしまうのは当然だろう。
 そんなアメリアに冨岡は優しく話し合けた。

「俺もアメリアさんと二人でいられる時間がほしいと思っていたんです。またこうして抱きしめさせてくれますか?」
「ふふっ、仕方ないですね。いつでもいいですよ」
「ははっ、ありがとうございます」

 逆になっていないか、と思わないでもないが嘘は言っていない。
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