267 / 498
二律背反
しおりを挟む
そう吐き捨てたブルーノは、世界中の全てを恨んでいるような目をしていた。
働こうにも働けない、働けたとしても生活できるほどの賃金ではない。冨岡はそんな生活を想像するが、現実味は感じられなかった。国の助成もなく、ないものはないという状況。
それがどれほど苦しく、辛いものなのか体験していない冨岡にわかるはずもない。
ここまでの話で十分なほど、ブルーノの辛い過去は聞いた。けれど、それがアレックスに対して辛く当たる免罪符になるとは思えない。
「俺には想像もできないほど辛い生活だったんでしょうね」
「なんだ、勝手にキレた次は同情か? 随分と自分勝手で上からだなぁ、テメェは」
「ええ、俺は何も知らず噂話に踊らされて、怒りを露わにしていた愚か者でしょう。けど、二つだけ確かなことがあります。一つはアレックスはブルーノさんを明確に恐れていること。二つ目は今のアレックスが栄養失調で、いつ倒れてもおかしくないこと。それについて、聞かせてもらえませんか。貴方の口から聞かないと、何が真実かわからないことがわかりましたから」
ブルーノに同情する気持ちはある。だが、何よりもまだ一人で生きていけないアレックスの現状を見過ごせない感情が強い。
それを怒りに昇華するためには、全てを知らなければならないと冨岡は判断したのだった。
「だから言ってんだろ。たまーにクソみてぇな賃金で働こうが、ガキを食わせていくには足りねぇよ。どうしようもねぇんだ」
「それじゃあ、その酒はどうしたんですか? アレックスの腕にある痣は何ですか?」
「酒ぐれぇ飲まないとやってられねぇんだよ! 俺がたまにでも仕事してねぇと、とっくにあのガキも死んでるんだ。酒くらい飲ませろって話だ。そんな中、腹が減った腹が減ったと泣き喚くんだ、黙らせるには力づくで教えるしかねぇだろ。金がねぇことを理解してねぇんだからよ」
その言葉を聞いた瞬間、冨岡は吐き気がするような違和感を覚えた。
アレックスを気遣う反面、横暴な権利と権力を主張するブルーノ。まるで二人の人間と交互に話しているようである。
とは言ったものの、どちらも明らかにブルーノの人格。乖離しているのは人格ではなく、言葉そのものなのだろう。
彼の中に二つの意見が存在しているような感覚だった。
「何ですか、それ・・・・・・そんな理由で・・・・・・俺は親になったことなんてないですけど、俺を育ててくれた人は多分、自分の食べる分を削ってでも食べさせてくれたはずです。それを押し付けるつもりはないですけど、少なくとも暴力は許されるものではないですよ。何がブルーノさんをそこまでさせるんですか? 愛情を見せたと思えば、恐怖を与えるほど凶暴性を見せる・・・・・・愛憎がどちらも存在している理由は何ですか?」
「何もわかんねぇくせに俺を語るんじゃねぇよ!」
冨岡の言葉に対して、答えようとはせずに弾き返すブルーノ。
どう切り崩そうか、と冨岡が思案し始めると勢いよく扉が開いた。
働こうにも働けない、働けたとしても生活できるほどの賃金ではない。冨岡はそんな生活を想像するが、現実味は感じられなかった。国の助成もなく、ないものはないという状況。
それがどれほど苦しく、辛いものなのか体験していない冨岡にわかるはずもない。
ここまでの話で十分なほど、ブルーノの辛い過去は聞いた。けれど、それがアレックスに対して辛く当たる免罪符になるとは思えない。
「俺には想像もできないほど辛い生活だったんでしょうね」
「なんだ、勝手にキレた次は同情か? 随分と自分勝手で上からだなぁ、テメェは」
「ええ、俺は何も知らず噂話に踊らされて、怒りを露わにしていた愚か者でしょう。けど、二つだけ確かなことがあります。一つはアレックスはブルーノさんを明確に恐れていること。二つ目は今のアレックスが栄養失調で、いつ倒れてもおかしくないこと。それについて、聞かせてもらえませんか。貴方の口から聞かないと、何が真実かわからないことがわかりましたから」
ブルーノに同情する気持ちはある。だが、何よりもまだ一人で生きていけないアレックスの現状を見過ごせない感情が強い。
それを怒りに昇華するためには、全てを知らなければならないと冨岡は判断したのだった。
「だから言ってんだろ。たまーにクソみてぇな賃金で働こうが、ガキを食わせていくには足りねぇよ。どうしようもねぇんだ」
「それじゃあ、その酒はどうしたんですか? アレックスの腕にある痣は何ですか?」
「酒ぐれぇ飲まないとやってられねぇんだよ! 俺がたまにでも仕事してねぇと、とっくにあのガキも死んでるんだ。酒くらい飲ませろって話だ。そんな中、腹が減った腹が減ったと泣き喚くんだ、黙らせるには力づくで教えるしかねぇだろ。金がねぇことを理解してねぇんだからよ」
その言葉を聞いた瞬間、冨岡は吐き気がするような違和感を覚えた。
アレックスを気遣う反面、横暴な権利と権力を主張するブルーノ。まるで二人の人間と交互に話しているようである。
とは言ったものの、どちらも明らかにブルーノの人格。乖離しているのは人格ではなく、言葉そのものなのだろう。
彼の中に二つの意見が存在しているような感覚だった。
「何ですか、それ・・・・・・そんな理由で・・・・・・俺は親になったことなんてないですけど、俺を育ててくれた人は多分、自分の食べる分を削ってでも食べさせてくれたはずです。それを押し付けるつもりはないですけど、少なくとも暴力は許されるものではないですよ。何がブルーノさんをそこまでさせるんですか? 愛情を見せたと思えば、恐怖を与えるほど凶暴性を見せる・・・・・・愛憎がどちらも存在している理由は何ですか?」
「何もわかんねぇくせに俺を語るんじゃねぇよ!」
冨岡の言葉に対して、答えようとはせずに弾き返すブルーノ。
どう切り崩そうか、と冨岡が思案し始めると勢いよく扉が開いた。
0
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる