265 / 498
姫のその後
しおりを挟む
それに対してブルーノは、苛立った表情を浮かべていた。
「この世界の醜さも知らねぇで、善人ヅラしてるテメェには理解できないだろうよ。どうにもならない悲しみも、逃れられない苦しみもあるってことだ」
ブルーノは言いながら、地面に爪を立てる。
心から何かを悔やみ、何かを恨んでいる姿に冨岡は違和感を抱いた。
その言葉に嘘はない。もちろん、だからと言ってアレックスに対しての行為がなくなるわけではないが、ブルーノもまた苦しみ続けていたようだ。
緊張感から口の中がパサパサに乾いていく。
それでも冨岡は進むしかない。ここまで深く踏み込んでしまった以上、ここで退くわけにはいかないだろう。
「確かに俺は、この世界の苦しみなんて理解できるほど何かを経験してはない。けど、見て見ぬふりはしないです。ブルーノさんの苦しみを解消して、アレックスが幸せに暮らせるのなら俺は聞かなければならない」
「テメェに何ができるってんだよ」
「俺に何ができるか、ブルーノさんは知らないでしょう。俺がブルーノさんの苦しみを知らなかったように」
「・・・・・・口だけは達者な若造が一番嫌いだ」
そう話すブルーノ。もしも自分の家ではなければ、唾でも吐き捨てていただろう。そんな表情だった。
明らかに不服そうな態度だったが、思考を進めるうちに冨岡が諦めないと気づいたのだろう。
ブルーノはため息をついてから話し始めた。
「テメェが誰に何を聞いたのか知らねぇが、大方アイツは俺に愛想をつかして出ていったと聞いてるんだろ? アレックスの母親だ」
「え、ええ」
「そもそもそこから違う。いいか、ここから先の話はテメェが死んでもアレックスに話すな」
強く念を押すブルーノ。その語気から重要なことなのだと判断し、冨岡は頷いた。
「わかりました」
約束を交わしたところでブルーノは話し始める。
「・・・・・・数年前の話だ。俺は自分の工房を持ち、がむしゃらに働いていたよ。生まれたばかりのアレックスのために、アイツのためにな。徒弟も数人抱え、順風満帆と言って良かっただろう。そりゃあ裕福な生活とまではいかなかったが、食う寝るに困ることはなかった。それがテメェの言う幸せな生活ってやつだろうよ」
「そのつもりです」
「はっ・・・・・・おめでてぇなぁ。戯曲やおとぎ話で幸せを掴んだ登場人物が、死ぬまで幸せでいられると思ってやがんのか? 王子と結ばれた姫が他の男に靡かねぇ確証はないだろう。権力や見た目に惚れるような女だぞ、より条件のいい相手がいれば王子を捨てるとは思わねぇのか?」
「何の話ですか・・・・・・」
「なんだ、テメェ。見て見ぬふりしねぇって言葉は嘘か? わかってんだろ?」
「この世界の醜さも知らねぇで、善人ヅラしてるテメェには理解できないだろうよ。どうにもならない悲しみも、逃れられない苦しみもあるってことだ」
ブルーノは言いながら、地面に爪を立てる。
心から何かを悔やみ、何かを恨んでいる姿に冨岡は違和感を抱いた。
その言葉に嘘はない。もちろん、だからと言ってアレックスに対しての行為がなくなるわけではないが、ブルーノもまた苦しみ続けていたようだ。
緊張感から口の中がパサパサに乾いていく。
それでも冨岡は進むしかない。ここまで深く踏み込んでしまった以上、ここで退くわけにはいかないだろう。
「確かに俺は、この世界の苦しみなんて理解できるほど何かを経験してはない。けど、見て見ぬふりはしないです。ブルーノさんの苦しみを解消して、アレックスが幸せに暮らせるのなら俺は聞かなければならない」
「テメェに何ができるってんだよ」
「俺に何ができるか、ブルーノさんは知らないでしょう。俺がブルーノさんの苦しみを知らなかったように」
「・・・・・・口だけは達者な若造が一番嫌いだ」
そう話すブルーノ。もしも自分の家ではなければ、唾でも吐き捨てていただろう。そんな表情だった。
明らかに不服そうな態度だったが、思考を進めるうちに冨岡が諦めないと気づいたのだろう。
ブルーノはため息をついてから話し始めた。
「テメェが誰に何を聞いたのか知らねぇが、大方アイツは俺に愛想をつかして出ていったと聞いてるんだろ? アレックスの母親だ」
「え、ええ」
「そもそもそこから違う。いいか、ここから先の話はテメェが死んでもアレックスに話すな」
強く念を押すブルーノ。その語気から重要なことなのだと判断し、冨岡は頷いた。
「わかりました」
約束を交わしたところでブルーノは話し始める。
「・・・・・・数年前の話だ。俺は自分の工房を持ち、がむしゃらに働いていたよ。生まれたばかりのアレックスのために、アイツのためにな。徒弟も数人抱え、順風満帆と言って良かっただろう。そりゃあ裕福な生活とまではいかなかったが、食う寝るに困ることはなかった。それがテメェの言う幸せな生活ってやつだろうよ」
「そのつもりです」
「はっ・・・・・・おめでてぇなぁ。戯曲やおとぎ話で幸せを掴んだ登場人物が、死ぬまで幸せでいられると思ってやがんのか? 王子と結ばれた姫が他の男に靡かねぇ確証はないだろう。権力や見た目に惚れるような女だぞ、より条件のいい相手がいれば王子を捨てるとは思わねぇのか?」
「何の話ですか・・・・・・」
「なんだ、テメェ。見て見ぬふりしねぇって言葉は嘘か? わかってんだろ?」
0
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる