256 / 498
悪くないです!
しおりを挟む
使い古された例えをするならば百カラットの輝きを持つ笑顔。
両親がいなくても、今が幸せだというフィーネの言葉。そこには一切の嘘はない。
純粋な問いに純粋な答え。それは大人がどれほど取り繕った言葉をかけるよりも、純粋な心を動かすものだ。
アレックスは自分に痛みと悲しみを植え付けている痣を触り、何かを決心したように冨岡とアメリアを見上げる。
「あの・・・・・・」
幼い男の子が勇気を振り絞ろうとしている瞬間。
今が好機だ、と踏み込みたくなるところだが、冨岡はグッと堪えて冷静に聞き返した。
「どうしたんだい?」
「あの・・・・・・あのね」
「ゆっくりでいいよ。大丈夫、俺たちはちゃんと聞いているよ」
「うん・・・・・・あのね、僕・・・・・・お父さんが大好きなんだ。大好きなんだよ・・・・・・」
必死に父親への愛を語るアレックスの姿に冨岡は、思わず涙ぐみそうになる。だが自分でもその感情を説明できない。しかし胸がつっかえたように苦しく、呼吸が止まりそうだった。
自分が必要以上に反応することでアレックスが話せなくなるのを防ぐため、冨岡は優しく相槌を打つ。
「そうなんだね」
「うん、お母さんがいた頃は本当に優しかったの。お父さんが抱きしめてくれた時の温かさを、まだ覚えてるくらい。お母さんはね、お父さんは弱い人だから仕方ないって言ってたんだけど、違うんだよ。お父さんは強いんだ・・・・・・誰よりも強くて・・・・・・でも・・・・・・」
アレックスの目から大粒の涙が溢れた。
考えてみれば、この小さな体で抱えきれないほどの悲しみを抱えていたのである。一度言葉にしてしまえば、涙も釣られて出てくるのも無理はない。
思わずアメリアは、ポケットのハンカチで彼の涙を拭う。
「ごめ、ごめんなさい。泣いてしまって、うぐっ、ごめんなさい」
泣くことすら謝罪してしまうアレックス。
アメリアは優しく首を横に振った。
「いいんですよ。泣きたい時は泣きましょう。悪いことでも恥ずかしいことでもありません」
アメリアの言葉を聞いたアレックスは、下唇を噛んで鼻水を啜る。
「ありがどう、ごべんね。ごべんなざい。こんなにお父さんのこと大好きなのに、嫌だって思う時があるの。僕が悪い子だから、お父さんは僕を怒ってくれるのに、僕は痛いのやだな、って思うの。苦しいのやだなって思うの」
「どうして悪い子なんですか?」
問いかけるアメリア。
するとアレックスは、止まり始めていた涙を再び流し始めた。
「僕が・・・・・・僕が、お父さんに『ギャンブルしないで』なんて言うから。お腹すいたなんて贅沢なこと言うから。僕が・・・・・・お母さんと一緒に暮らしたいなんて言うから。僕が悪いの」
「悪くないです!」
アレックスの言葉を聞いたアメリアは彼を強く抱きしめながら、これまでに聞いたことのないほどの声量で言い切る。
両親がいなくても、今が幸せだというフィーネの言葉。そこには一切の嘘はない。
純粋な問いに純粋な答え。それは大人がどれほど取り繕った言葉をかけるよりも、純粋な心を動かすものだ。
アレックスは自分に痛みと悲しみを植え付けている痣を触り、何かを決心したように冨岡とアメリアを見上げる。
「あの・・・・・・」
幼い男の子が勇気を振り絞ろうとしている瞬間。
今が好機だ、と踏み込みたくなるところだが、冨岡はグッと堪えて冷静に聞き返した。
「どうしたんだい?」
「あの・・・・・・あのね」
「ゆっくりでいいよ。大丈夫、俺たちはちゃんと聞いているよ」
「うん・・・・・・あのね、僕・・・・・・お父さんが大好きなんだ。大好きなんだよ・・・・・・」
必死に父親への愛を語るアレックスの姿に冨岡は、思わず涙ぐみそうになる。だが自分でもその感情を説明できない。しかし胸がつっかえたように苦しく、呼吸が止まりそうだった。
自分が必要以上に反応することでアレックスが話せなくなるのを防ぐため、冨岡は優しく相槌を打つ。
「そうなんだね」
「うん、お母さんがいた頃は本当に優しかったの。お父さんが抱きしめてくれた時の温かさを、まだ覚えてるくらい。お母さんはね、お父さんは弱い人だから仕方ないって言ってたんだけど、違うんだよ。お父さんは強いんだ・・・・・・誰よりも強くて・・・・・・でも・・・・・・」
アレックスの目から大粒の涙が溢れた。
考えてみれば、この小さな体で抱えきれないほどの悲しみを抱えていたのである。一度言葉にしてしまえば、涙も釣られて出てくるのも無理はない。
思わずアメリアは、ポケットのハンカチで彼の涙を拭う。
「ごめ、ごめんなさい。泣いてしまって、うぐっ、ごめんなさい」
泣くことすら謝罪してしまうアレックス。
アメリアは優しく首を横に振った。
「いいんですよ。泣きたい時は泣きましょう。悪いことでも恥ずかしいことでもありません」
アメリアの言葉を聞いたアレックスは、下唇を噛んで鼻水を啜る。
「ありがどう、ごべんね。ごべんなざい。こんなにお父さんのこと大好きなのに、嫌だって思う時があるの。僕が悪い子だから、お父さんは僕を怒ってくれるのに、僕は痛いのやだな、って思うの。苦しいのやだなって思うの」
「どうして悪い子なんですか?」
問いかけるアメリア。
するとアレックスは、止まり始めていた涙を再び流し始めた。
「僕が・・・・・・僕が、お父さんに『ギャンブルしないで』なんて言うから。お腹すいたなんて贅沢なこと言うから。僕が・・・・・・お母さんと一緒に暮らしたいなんて言うから。僕が悪いの」
「悪くないです!」
アレックスの言葉を聞いたアメリアは彼を強く抱きしめながら、これまでに聞いたことのないほどの声量で言い切る。
0
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。


転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる