百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

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その痣は

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 当然冨岡は、全ての人間が家族を大切にし、善行だけを積むとは思っていない。自分のために罪を犯したり、大切にすべきものを見誤ったり、進んで他人を傷つけたり、人間とは不完全な生き物だ。
 そう分かっていながらも、沸々と湧き上がる怒りを抑えられない。
 言って終えば、男の子は他人である。つい先ほどその存在を知ったくらいだ。そして目の前にあるのは他人の家庭の問題。
 首を突っ込む理由などなかった。
 一瞬、自分には何もできないと一歩踏み出すのを躊躇った冨岡だが、そんな時こそ源次郎の言葉が蘇る。
 他人に優しくあれ。
 男の子にとって何が幸せなのか、押し付けるつもりはない。けれど、少なくとも今の男の子が幸せだとは思わなかった。いや、思いたくない。認めたくない。
 冨岡はカウンターからレボルにオレンジジュースを求めると、それを持って男の子に話しかける。

「やあ、ハンバーガーは美味しかった?」

 男の子は声に反応して顔を上げると、カサカサに乾いた口角を上げた。

「うん! 美味しかった、ありがとう」
「そっか、良かった。あ、これ配るつもりだった分が余ってるんだけど飲む?」

 言いながら冨岡はオレンジジュースを手渡す。
 男の子はそれを両手で受け取ると、嬉しそうに飲み始めた。
 
「飲む!」
「ははっ、落ち着いて飲むんだよ。そうだ、まだお腹が空いているなら、一緒に晩御飯食べるかい?」
「あ・・・・・・家に帰らないとお父さんに怒られるから・・・・・・」

 男の子はそう答える。
 冨岡の問いかけは『空腹か否か』だ。それに対しての答えとしては正しくないと言えるだろう。自分の状態よりも先に『父親から怒られる』という答えが出てくるのは、それほど染み付いているということだ。
 
「そうか、いきなり誘ってごめんな。せっかくだからもっと美味しいものを食べて欲しくてさ」
「ううん、ありがとうお兄ちゃん。そろそろ僕、帰らなきゃ」
「また明日も来るから、食べにおいで」

 自分に何ができるだろう、と考えながら冨岡は男の子に微笑みかける。
 果たしてこのまま見送っていいのだろうか。後悔はしないだろうか。
 男の子が立ち上がり、その場を去ろうとした瞬間、冨岡は彼の手を握る。

「ちょっと」
「え?」
「あ、ごめん。一つだけ聞きたくて」

 冨岡の言葉を聞いた男の子は不安そうに首を傾げた。

「な、何?」
「その・・・・・・その痣はどうしたんだい? どこかで転んだとか?」

 問いかけられた男の子は慌てて痣を隠す。

「これは・・・・・・何でもないよ」

 幼いながらも、隠さなければならないという判断をした男の子。その姿は恐怖に押さえつけられているようにも見えた。
 そこで冨岡は確信する。

「俺は君の味方でいたい。だから、勇気を出して答えてほしいんだ。これさえ確認したら、俺は安心して帰ることができる。勘違いならそれでいいんだ。勘違いだったら俺を詰ってくれていい。その痣は、お父さんに殴られたわけじゃないよな?」
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