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金と夢
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一度、全てを失ったレボルが料理人として生きていく為には元手が必要になる。
そのための冒険者、ということだ。
レボルの話を聞いた冨岡はまた疑問を持つ。大金を得るために冒険者をしている、というレボルだったが、これまで大きな依頼をこなしてはいない。それでは自分の店を持つまでかなり時間がかかるだろう。
冨岡がそんな疑問を口にしようとした瞬間、レボルは再び微笑んだ。
「ははっ、私が冒険者としてリスクのある依頼を受けないことに矛盾を感じていますね?」
「そ、そんなことないですよ」
「金は必要です。しかし、私にとって右手は包丁を握るもの。失うわけにはいかないんです。私が死んであの世に渡った時、妻やあの子に美味しいものを作る為にね。この腕は私に残された最後の資産ですから」
レボルの話を聞いた冨岡は、追い風を受けたように立ち上がる。
「それじゃあ、護衛の依頼はナシでいいのでウチに来てください。そんな思いを抱いているレボルさんに危険なことは頼めません。けど、俺はどうしてもレボルさんと一緒に働きたくなりました」
「それは同情ですか?」
「違います。これはビジネスであり投資です」
まるで英語の教科書のようなやり取りだな、と思いながら冨岡は言葉を続けた。
「リスクの少ない依頼を受けているとはいえ、冒険者を続けていれば怪我をする可能性はある。それにこのままでは、いつ店を出せるかわからない。それじゃあレボルさんの作るスープを飲めないじゃないですか、俺が」
「トミオカさんが?」
「俺が、です。飲んでみたいじゃないですか、そんな人のスープ。それに俺はこれからどんどん商売を広げていこうと思っています。その為にレボルさんの腕は絶対に必要なんだって、直感しちゃったんですよね。どうですか? ウチから冒険者ギルドを介して依頼を出せば、今の収入以下にするわけにはいかなくなります。それじゃあレボルさんに旨みがないですからね。今以上の収入は約束できますよ」
ダメ押しの勧誘。それを受けたレボルは、一瞬黙ってから冨岡にこう問いかける。
「一つだけ聞かせてください」
「はい?」
「トミオカさんが商売を広げていくのは金のためですか?」
「うーん、そうですね。簡単に言えば金のためです」
商売は金を稼ぐためのもの、それは事実だ。稼ぎが無く商売などできない。
冨岡の答えを聞いたレボルは少し残念そうに息を漏らす。
「そう、ですか」
「でも金のためだけに頑張れないですよね、仕事って」
事実とは時折、真実と別の顔を見せるものだ。
「え?」
「最近商売を始めたばかりなんですよ、俺。それまではずっと勤め人だったし、自分で商売をするなんて考えたこともなかったです。実際に初めてみたら結構大変なんですよ、これが。考えなきゃいけないことが多いし、勤め人の頃よりも働く時間は長いですし。けど、商売を始めて食べ物を売って、お客さんの美味しいって笑顔を見たら疲れなんて全て吹き飛びますよね。それに金のためって言いましたけど、今のままでも生きていくには十分な収入を得てます。ただ生きていくだけなら、商売を広げる必要がない。俺が商売を広げていきたいのは夢のためです」
「夢ですか?」
「ええ、誰もが誰もに優しい世界を作りたい。少なくとも子どもが飢えて苦しむような状況を打破したいんです」
そのための冒険者、ということだ。
レボルの話を聞いた冨岡はまた疑問を持つ。大金を得るために冒険者をしている、というレボルだったが、これまで大きな依頼をこなしてはいない。それでは自分の店を持つまでかなり時間がかかるだろう。
冨岡がそんな疑問を口にしようとした瞬間、レボルは再び微笑んだ。
「ははっ、私が冒険者としてリスクのある依頼を受けないことに矛盾を感じていますね?」
「そ、そんなことないですよ」
「金は必要です。しかし、私にとって右手は包丁を握るもの。失うわけにはいかないんです。私が死んであの世に渡った時、妻やあの子に美味しいものを作る為にね。この腕は私に残された最後の資産ですから」
レボルの話を聞いた冨岡は、追い風を受けたように立ち上がる。
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「それは同情ですか?」
「違います。これはビジネスであり投資です」
まるで英語の教科書のようなやり取りだな、と思いながら冨岡は言葉を続けた。
「リスクの少ない依頼を受けているとはいえ、冒険者を続けていれば怪我をする可能性はある。それにこのままでは、いつ店を出せるかわからない。それじゃあレボルさんの作るスープを飲めないじゃないですか、俺が」
「トミオカさんが?」
「俺が、です。飲んでみたいじゃないですか、そんな人のスープ。それに俺はこれからどんどん商売を広げていこうと思っています。その為にレボルさんの腕は絶対に必要なんだって、直感しちゃったんですよね。どうですか? ウチから冒険者ギルドを介して依頼を出せば、今の収入以下にするわけにはいかなくなります。それじゃあレボルさんに旨みがないですからね。今以上の収入は約束できますよ」
ダメ押しの勧誘。それを受けたレボルは、一瞬黙ってから冨岡にこう問いかける。
「一つだけ聞かせてください」
「はい?」
「トミオカさんが商売を広げていくのは金のためですか?」
「うーん、そうですね。簡単に言えば金のためです」
商売は金を稼ぐためのもの、それは事実だ。稼ぎが無く商売などできない。
冨岡の答えを聞いたレボルは少し残念そうに息を漏らす。
「そう、ですか」
「でも金のためだけに頑張れないですよね、仕事って」
事実とは時折、真実と別の顔を見せるものだ。
「え?」
「最近商売を始めたばかりなんですよ、俺。それまではずっと勤め人だったし、自分で商売をするなんて考えたこともなかったです。実際に初めてみたら結構大変なんですよ、これが。考えなきゃいけないことが多いし、勤め人の頃よりも働く時間は長いですし。けど、商売を始めて食べ物を売って、お客さんの美味しいって笑顔を見たら疲れなんて全て吹き飛びますよね。それに金のためって言いましたけど、今のままでも生きていくには十分な収入を得てます。ただ生きていくだけなら、商売を広げる必要がない。俺が商売を広げていきたいのは夢のためです」
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「ええ、誰もが誰もに優しい世界を作りたい。少なくとも子どもが飢えて苦しむような状況を打破したいんです」
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