百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

文字の大きさ
上 下
216 / 498

貧民街は宝の山

しおりを挟む
 待ち人来たり。
 足音が屋台に入ってくる前に、冨岡は自ら外に出た。

「お帰りなさい!」

 冨岡はアメリアとフィーネの姿を確認して嬉しそうに言う。さながら飼い主を待っていた犬のようである。
 二人は一瞬驚いたように顔を見合わせてから笑みを浮かべた。

「ただいま戻りました」
「ただいまー」

 二人の挨拶を聞いた冨岡は、今日も濃い一日だったなと薄く振り返りながら、緊張から解き放たれたのを感じる。
 そもそも異世界に足を踏み入れてから、濃度の低い日などほとんどなかった。
 おそらくこれからも様々なできることが起きるだろう。それでも、この二人がいれば乗り越えていける。そう思える安心感があった。
 アメリアたちと合流した冨岡は、ふと空を見上げる。もう既に暗くなっており、元々冒険者ギルドに行こう、と考えていた時間を過ぎていた。
 それでも新規雇用を後回しにすれば、結局自分の首を絞めることになる。

「こんな時間になってしまいましたが、冒険者ギルドには行こうと思います。そういえば貧民街の方はどうでしたか?」

 冨岡は貧民街でハンバーガーを配ってきたアメリアに問いかけた。
 するとアメリアは、心からの笑みを浮かべる。

「すごく喜んでもらえましたよ。前に食事を配りに行ってから時間が空き、最近の貧民街がどうなっているのかわからなかったのですが、喜んで受け入れてもらえました。ただ、私としては良かった、と言えるのですが・・・・・・」
「どうかしましたか?」
「元々、貧民街で支援活動をしていたのが『白の創世』だけだったので、それがなくなり生活は不安定だったそうです。もちろん、貧民街の方々も仕事をなさってはいます。しかし、生活できるほどの賃金が得られるような仕事は・・・・・・」

 そこで冨岡は先ほどミルコの言っていた『人手ではなく仕事が足りていない現状』を思い出した。
 仕事を求めている人が多く、仕事自体が少ない。そこで起きるのは雇用する側が雇用される側の足元を見る、ということだ。
 少しでも人件費のかからない相手を雇用する。そうすると、雇用される側は自分を安売りしなくてはならなくなる。紛れもない悪循環だ。
 その循環は社会全体にも大きく影響する。人々がお金を持っていなければ、売れるものも売れなくなり、店も職人も職を失いかねない。
 それによって、貴族と庶民の格差は大きくなっていくばかりだ。

「そうでしたか・・・・・・じゃあ、今の貧民街を支援している団体はない、ということですね」

 冨岡が問いかけるとアメリアは申し訳なさそうに頷く。

「そうです」
「でも考えようによっては、俺たちにとって好機かもしれませんよ」
「え?」

 貧民街の人々が生活苦の中、そのようなことを言うのは不謹慎かもしれない。それをわかっていながら冨岡は微笑む。

「だってそうでしょう。貧民街にどれほどの人がいるのかはわかりませんが、それぞれに何か得意なことがあるはずです。他の人はその埋もれた才能に気づくこともありませんからね。けれど俺たちは気づくことができる。そこに目を向けたから・・・・・・支援しようと考えたからです。その場所は宝の山ですよ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...