百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

文字の大きさ
上 下
214 / 498

住処

しおりを挟む
「いや、工房を復帰させるのなら最初にしたい仕事がある。全ての契約が終わってから、どうしてもしたい仕事だ」

 誰がどう考えても、今のミルコに仕事を選ぶ権利などない。罪に問われないだけでも御の字、公爵家の名前を借りて仕事をできるなど大喝采ものである。
 だがミルコの表情はふざけているようにも、駄々を捏ねているようにも見えなかった。
 大工として、職人として、矜持を持った男の顔。
 それを感じた冨岡はミルコに問いかける。

「どうしたんですか? もしかして、やり残した仕事があるとか? 職人としてやり残しが許せない気持ちは想像できないわけではないけど、公爵家の名前を借りた上に無償なんです。まずは公爵家の仕事を」

 その言葉の途中、ミルコが右手を前に出して止めた。

「いや、やり残した仕事じゃない。だが、俺にとっては大工人生を懸けて挑まなきゃならない仕事なんだ。もちろん、それを終えたからって大工を辞めるわけじゃないが、その仕事だけは俺の意思で請け負わせてほしい」
「請け負わせてほしいって俺に言われても、俺は大工仕事なんか持って来れませんよ?」
「そんなことはないさ、アンタから受けなければならない仕事だ、オーナー」

 ミルコが何を言っているのか分からず、戸惑う冨岡。
 するとミルコは、口角を右側だけ上げて話を続ける。

「さっきの話・・・・・・アンタにとって大切な建物なんだろ?」
「さっきの話?」
「教会だよ、街の外れにある教会。今はこんなだが工房を持つ親方として大工をしてたんだ、話し振りで建物に対する思い入れくらい分かるさ。それに聞いたことがある。あの教会を買い取った女がいるってな。それがあの娘だろ? ここで働いてたあの娘が教会を買い取った。その為に借金をし、ジルホークから脅されてた・・・・・・違うかい?」

 おそらくミルコはバルメディ家の話をしている時、その考えに行き着いたのだろう。
 少し『知っていた』ことと、今『推測した』ことを複合させれば答えに辿り着くのは難しくない。
 ここまで知っている相手に隠すことなどできず、冨岡は肯定の意思を示す。

「よく分かりましたね。そうです、あの教会はアメリアさんが買い取ったものですよ。アメリアさんにとって大切な場所だから、俺にとっても大切な場所です」
「なら、俺にとっても大切にしなければならない場所だ。恩人の居場所だからな。それに大工工房のオーナーがいつ崩れるかも分からない建物に住んでるわけにはいかないだろう。施工の腕を疑われる」

 ミルコはそう言ってから「公爵家としても」とダルクに顔を向けた。

「懇意にしている人間がボロボロの建物に住んでいるのは気になるでしょう?」
「旦那様は気にしま・・・・・・いや、そういうことですか、なるほど。確かに世間体がよろしくありませんね」

 その言葉はダルクなりの優しさである。
 キュルケース家当主のホースは、住んでいる建物で冨岡に対する評価を変えないだろう。
 そんなことは分かっていた。これは冨岡が遠慮しないでいいように、というダルクの配慮。
 公爵家からの指示だ、とすれば断る理由はない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...