百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

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沸点ギリギリ

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 どう対応しようか考えつつ、冨岡は背中でアメリアやフィーネが怯えている気配を感じた。
 目の前にいる体の大きな男に恐怖は感じているものの、それを表に出すわけにはいかない。毅然とした態度で対応しなければ、余計に怖がらせてしまうだろう。
 そう考えた冨岡は心の震えを噛み殺し、冷静に頭を下げた。

「申し訳ございません。異物混入については細心の注意を払っているのですが・・・・・・すぐに新しい商品と取り替えさせていただきます」

 その対応が正しいのかはわからない。この男が自分で虫を入れた可能性を考えながらも、冨岡は謝罪する。
 客商売である以上、相手を疑ってかかるわけにはいかないと考えたのだ。
 だが、冨岡はもう少し考えるべきであった。自分の立場が上だと判断した途端に、態度が増長する人間がいるということを。
 そして、目の前にいる男はまさにその通りの人間だった。

「ああ? 取り替えるだと? 俺は虫を食わされたかもしれねぇって言ってんだ! 取り替えるくらいで納得すると思ってやがんのか」

 男は睨みを効かせ、カウンターから突入してくるような勢いである。
 その言葉から、流石に冨岡も男の目的を察知した。どう考えても金銭を要求しようとしているのだろう。
 わかった上で冨岡は冷静に返事をする。

「そう言われましても・・・・・・ではそちらの商品は返金させていただきましょう」
「はぁ? そういうことじゃねぇだろ! こっちは虫喰わされてんだよ! なんだ、この店は虫を食わせておいて、すみませんの一言で終わらせるつもりか!」

 再び男はカウンターを叩いた。
 男が大声をあげ、カウンターを叩く度に冨岡の背後で怯えている気配が増す。アメリアはともかく、幼いフィーネにとっては恐怖でしかないはずだ。
 自分が怒鳴られるだけならともかく、フィーネやアメリアに恐怖を与えられ、冨岡は沸々と苛立つ。
 こうなると虫の混入が店側の責任なのか、男の自作自演なのかは問題ではない。

「申し訳ないのですが、冷静に話していただけますか? 他のお客様もおられますし、中には小さな子もいるので」

 そう冨岡が頼むと、男は余計に声量を上げた。

「関係ねぇよ、こっちは被害者だぞ! 何ならそこのガキに虫を食わせてやろうか!」

 男が叫ぶ。
 頭の血管が切れ、奥歯は擦り減りそうだ、と思いながら冨岡は鼻で深い呼吸をする。直接フィーネを脅すような言葉を看過するわけにはいかない。
 威力業務妨害か何かで訴えられないものか。
 
「子ども相手に大声を出すのはやめてください。話なら俺とすればいいじゃないですか」
「テメェが生ぬるいことばっかり言ってやがるからだろうが!」
「生ぬるい? じゃあはっきり言ってくださいよ、何が目的なんですか?」

 冨岡がそう問いかけると、男はわかりやすく口角を上げる。
 どうやら、冨岡が脅しに屈して自分の言いなりになると判断したらしい。

「金だよ、金。慰謝料としてあるだけの金を出してもらおうか」

 もはや強盗だろう、と呆れながら冨岡は確信した。男は初めから金目的であり、虫の混入は自作自演である。
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