192 / 498
好奇、好意、妬み
しおりを挟む
明らかに思いつきだとわかる冨岡の提案に、一瞬戸惑いながらもアメリアは概ね同調する。
「魔法ではなく食事で病を・・・・・・それが出来るのならぜひそうしたいですね」
そのアメリアの言葉から冨岡は、自分の培ってきた常識がこちらの世界では通用しないのだと気づいた。
元いた世界とこちらの世界の違いは挙げればキリが無い。しかし最大の違いを語るのであれば『魔法の有無』だろう。
人々の生活の中、当然のように存在する魔法。例えば、火を起こす魔法を全ての人が使用できるとしたら、ライターやマッチは生まれるだろうか。
病や傷を治す魔法があるとすれば、科学的な医療の発展は望めるだろうか。
少なくとも、アメリアの反応を見る限り食事によって病を防ぐという発想は、まだこの世界に無いらしい。
「じゃあ、次はシリアルを多めに仕入れておきますね」
冨岡の目標はこの世界に学園を作ることである。
しかし、それは手段でしかない。目的は困っていることを救うこと。源次郎の遺言を果たすことだ。
百億円を持っているとはいえ、冨岡はまだ若い。どのように使えばいいのか、少しずつ思案し、手探りで進むしかなかった。
これもまた手探りではあるが、貧民街の存在を知った冨岡は何かをせずにはいられない。それがたとえ、目先のことしか考えていない偽善的な行為だとしてもだ。
朝食を終えた冨岡たちはいつも通り屋台を動かして大広間に向かう。
そろそろ街の住民も屋台に慣れてきたのか、好奇の目で見られることは少なくなってきた。
むしろ好意的に声をかけてもらえるくらいである。
「今日も大広間かい?」
「ハンバーガーおいしかったよ」
「今日も屋台やってるのか?」
「あとで買いにいくから、俺の分は取っといてくれよ」
そんな声を受けながら冨岡は屋台を引く。
住民から声をかけられ、少し嬉しそうにしている冨岡を屋台の中から見ていたアメリアは優しく微笑んだ。
「嬉しそうですね、トミオカさん」
「そりゃあ嬉しいですよ。まだ始めたばかりなのに、こうも受け入れてもらえるなんて」
「ふふっ、トミオカさんが言っていた『三方よし』って、このことだったんですね。なんとなく、街に活気が出てきたような気がします」
いい商売は店と客だけではなく、周囲にもいい影響をもたらす。そんな理想が現実に近づきつつあり、冨岡は少し浮かれていた。
そう、浮かれていたのだ。
もしも浮かれていなければ、気づけたはずの視線に気づけなかったのである。
好奇でも好意でもない視線。
妬みの視線に。
「魔法ではなく食事で病を・・・・・・それが出来るのならぜひそうしたいですね」
そのアメリアの言葉から冨岡は、自分の培ってきた常識がこちらの世界では通用しないのだと気づいた。
元いた世界とこちらの世界の違いは挙げればキリが無い。しかし最大の違いを語るのであれば『魔法の有無』だろう。
人々の生活の中、当然のように存在する魔法。例えば、火を起こす魔法を全ての人が使用できるとしたら、ライターやマッチは生まれるだろうか。
病や傷を治す魔法があるとすれば、科学的な医療の発展は望めるだろうか。
少なくとも、アメリアの反応を見る限り食事によって病を防ぐという発想は、まだこの世界に無いらしい。
「じゃあ、次はシリアルを多めに仕入れておきますね」
冨岡の目標はこの世界に学園を作ることである。
しかし、それは手段でしかない。目的は困っていることを救うこと。源次郎の遺言を果たすことだ。
百億円を持っているとはいえ、冨岡はまだ若い。どのように使えばいいのか、少しずつ思案し、手探りで進むしかなかった。
これもまた手探りではあるが、貧民街の存在を知った冨岡は何かをせずにはいられない。それがたとえ、目先のことしか考えていない偽善的な行為だとしてもだ。
朝食を終えた冨岡たちはいつも通り屋台を動かして大広間に向かう。
そろそろ街の住民も屋台に慣れてきたのか、好奇の目で見られることは少なくなってきた。
むしろ好意的に声をかけてもらえるくらいである。
「今日も大広間かい?」
「ハンバーガーおいしかったよ」
「今日も屋台やってるのか?」
「あとで買いにいくから、俺の分は取っといてくれよ」
そんな声を受けながら冨岡は屋台を引く。
住民から声をかけられ、少し嬉しそうにしている冨岡を屋台の中から見ていたアメリアは優しく微笑んだ。
「嬉しそうですね、トミオカさん」
「そりゃあ嬉しいですよ。まだ始めたばかりなのに、こうも受け入れてもらえるなんて」
「ふふっ、トミオカさんが言っていた『三方よし』って、このことだったんですね。なんとなく、街に活気が出てきたような気がします」
いい商売は店と客だけではなく、周囲にもいい影響をもたらす。そんな理想が現実に近づきつつあり、冨岡は少し浮かれていた。
そう、浮かれていたのだ。
もしも浮かれていなければ、気づけたはずの視線に気づけなかったのである。
好奇でも好意でもない視線。
妬みの視線に。
0
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる