188 / 498
幸せな朝
しおりを挟む
美作との邂逅を終えた冨岡は、手押し台車に荷物を載せ異世界へと戻った。
既に時間は深夜も深夜。夜よりも朝の方が近いくらいである。
鏡を通って異世界に辿り着き、教会に向かうで冨岡は疑問を抱く。
「そういえば、向こうの時間とこっちの時間はリンクしてるな。普通のことすぎて気づかなかったけど、昼に移動すればどちらも昼だし、夜に移動すればどちらもよるだ。異世界の方も一日二十四時間なのは間違いなさそうだな。じゃないと差が生まれるはずだしね」
時間という概念に着目してみるが、特に意味はない。
これは冨岡が異世界に対して『自分が住むもう一つの世界』だと認識し始めた証拠だろう。
アメリアたちを起こさないよう静かに教会に戻ると食材を然るべき場所に片付け、用意された部屋でベッドに入った。
体が泥に沈んでいくような眠気の中で、冨岡の頭の中には美作の言葉が繰り返される。
美作は『見えているものが正しいとも限らないし、違っているものと同じものが混在している。惑わされんなよ。自分にとって変わりようのない正しさを持っておくことだ』と言っていた。
それがどんな意味を持つのか、冨岡にはわからない。しかし、それが忘れられないのだ。
美作の性格を考えれば、意味もなく意味深な言葉を放った可能性もある。むしろそう考えるのが自然なくらいだ。
だが、その言葉が冨岡の胸の中にある何かを揺らす。
解決しようのない疑問を解決できないまま冨岡は眠りに落ちた。
誰かが部屋の外で慌ただしく動いている。パタパタとした軽い足音はおそらくフィーネのものだろう。
それと同時に焼いたパンの香ばしさが冨岡の鼻腔を刺激した。
幸せな朝食の香りである。
微睡の中、うっすら瞼を開けると窓から差し込む朝日が目に染みた。
「うっ、眩し・・・・・・もう朝か」
夜から朝までは誰かがこっそり時計の針を進めているとしか思えない。それ程あっという間だ。先ほど寝始めたばかりじゃないか、と感じながら冨岡は目を開ける。
「ふわぁ、眠い。今、何時だろう」
ぼやけた思考の中、冨岡は感じる音や匂いが『既にアメリアとフィーネが働き始めている証拠』だと察し、慌てて部屋から出た。
ちょうど廊下にはフィーネがおり、雑巾を持っている。彼女は小さな体で手の届く箇所を拭き掃除していた。
「あ、おはよートミオカさん」
「おはよう、フィーネちゃん。起きるの遅かったな、俺。動き始めるなら起こしてくれてもよかったんだよ」
「うーん、先生が『トミオカさんは疲れているだろうから、私たちだけで準備しましょう』って」
「アメリアさんが」
二人の気遣いを感じ、冨岡は心が暖かくなる。
自分は一人ではない。疲れ果てた時にはこうして支えてくれる人がいるのだ。それだけでなんでもできるような気になる。
そんな幸せに包まれ、冨岡の一日が始まった。
既に時間は深夜も深夜。夜よりも朝の方が近いくらいである。
鏡を通って異世界に辿り着き、教会に向かうで冨岡は疑問を抱く。
「そういえば、向こうの時間とこっちの時間はリンクしてるな。普通のことすぎて気づかなかったけど、昼に移動すればどちらも昼だし、夜に移動すればどちらもよるだ。異世界の方も一日二十四時間なのは間違いなさそうだな。じゃないと差が生まれるはずだしね」
時間という概念に着目してみるが、特に意味はない。
これは冨岡が異世界に対して『自分が住むもう一つの世界』だと認識し始めた証拠だろう。
アメリアたちを起こさないよう静かに教会に戻ると食材を然るべき場所に片付け、用意された部屋でベッドに入った。
体が泥に沈んでいくような眠気の中で、冨岡の頭の中には美作の言葉が繰り返される。
美作は『見えているものが正しいとも限らないし、違っているものと同じものが混在している。惑わされんなよ。自分にとって変わりようのない正しさを持っておくことだ』と言っていた。
それがどんな意味を持つのか、冨岡にはわからない。しかし、それが忘れられないのだ。
美作の性格を考えれば、意味もなく意味深な言葉を放った可能性もある。むしろそう考えるのが自然なくらいだ。
だが、その言葉が冨岡の胸の中にある何かを揺らす。
解決しようのない疑問を解決できないまま冨岡は眠りに落ちた。
誰かが部屋の外で慌ただしく動いている。パタパタとした軽い足音はおそらくフィーネのものだろう。
それと同時に焼いたパンの香ばしさが冨岡の鼻腔を刺激した。
幸せな朝食の香りである。
微睡の中、うっすら瞼を開けると窓から差し込む朝日が目に染みた。
「うっ、眩し・・・・・・もう朝か」
夜から朝までは誰かがこっそり時計の針を進めているとしか思えない。それ程あっという間だ。先ほど寝始めたばかりじゃないか、と感じながら冨岡は目を開ける。
「ふわぁ、眠い。今、何時だろう」
ぼやけた思考の中、冨岡は感じる音や匂いが『既にアメリアとフィーネが働き始めている証拠』だと察し、慌てて部屋から出た。
ちょうど廊下にはフィーネがおり、雑巾を持っている。彼女は小さな体で手の届く箇所を拭き掃除していた。
「あ、おはよートミオカさん」
「おはよう、フィーネちゃん。起きるの遅かったな、俺。動き始めるなら起こしてくれてもよかったんだよ」
「うーん、先生が『トミオカさんは疲れているだろうから、私たちだけで準備しましょう』って」
「アメリアさんが」
二人の気遣いを感じ、冨岡は心が暖かくなる。
自分は一人ではない。疲れ果てた時にはこうして支えてくれる人がいるのだ。それだけでなんでもできるような気になる。
そんな幸せに包まれ、冨岡の一日が始まった。
0
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる