百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

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幸せな朝

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 美作との邂逅を終えた冨岡は、手押し台車に荷物を載せ異世界へと戻った。
 既に時間は深夜も深夜。夜よりも朝の方が近いくらいである。
 鏡を通って異世界に辿り着き、教会に向かうで冨岡は疑問を抱く。

「そういえば、向こうの時間とこっちの時間はリンクしてるな。普通のことすぎて気づかなかったけど、昼に移動すればどちらも昼だし、夜に移動すればどちらもよるだ。異世界の方も一日二十四時間なのは間違いなさそうだな。じゃないと差が生まれるはずだしね」

 時間という概念に着目してみるが、特に意味はない。
 これは冨岡が異世界に対して『自分が住むもう一つの世界』だと認識し始めた証拠だろう。
 アメリアたちを起こさないよう静かに教会に戻ると食材を然るべき場所に片付け、用意された部屋でベッドに入った。
 体が泥に沈んでいくような眠気の中で、冨岡の頭の中には美作の言葉が繰り返される。
 美作は『見えているものが正しいとも限らないし、違っているものと同じものが混在している。惑わされんなよ。自分にとって変わりようのない正しさを持っておくことだ』と言っていた。
 それがどんな意味を持つのか、冨岡にはわからない。しかし、それが忘れられないのだ。
 美作の性格を考えれば、意味もなく意味深な言葉を放った可能性もある。むしろそう考えるのが自然なくらいだ。
 だが、その言葉が冨岡の胸の中にある何かを揺らす。
 解決しようのない疑問を解決できないまま冨岡は眠りに落ちた。
 
 誰かが部屋の外で慌ただしく動いている。パタパタとした軽い足音はおそらくフィーネのものだろう。
 それと同時に焼いたパンの香ばしさが冨岡の鼻腔を刺激した。
 幸せな朝食の香りである。
 微睡の中、うっすら瞼を開けると窓から差し込む朝日が目に染みた。

「うっ、眩し・・・・・・もう朝か」

 夜から朝までは誰かがこっそり時計の針を進めているとしか思えない。それ程あっという間だ。先ほど寝始めたばかりじゃないか、と感じながら冨岡は目を開ける。

「ふわぁ、眠い。今、何時だろう」

 ぼやけた思考の中、冨岡は感じる音や匂いが『既にアメリアとフィーネが働き始めている証拠』だと察し、慌てて部屋から出た。
 ちょうど廊下にはフィーネがおり、雑巾を持っている。彼女は小さな体で手の届く箇所を拭き掃除していた。

「あ、おはよートミオカさん」
「おはよう、フィーネちゃん。起きるの遅かったな、俺。動き始めるなら起こしてくれてもよかったんだよ」
「うーん、先生が『トミオカさんは疲れているだろうから、私たちだけで準備しましょう』って」
「アメリアさんが」

 二人の気遣いを感じ、冨岡は心が暖かくなる。
 自分は一人ではない。疲れ果てた時にはこうして支えてくれる人がいるのだ。それだけでなんでもできるような気になる。
 そんな幸せに包まれ、冨岡の一日が始まった。
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