百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

文字の大きさ
上 下
183 / 498

借りと繋がり

しおりを挟む
 美作にそう頼まれた冨岡は二つの感情に挟み込まれた。
 一つ目は美作と関わり合いたくない、という感情。彼の話を聞き、先ほどまで抱いていた恐怖はある程度薄れたが、全てを信用したわけではない。
 結局、怪しくて胡散臭いことに変わりはなかった。
 もう一つの感情は、早くこの話を終わらせて買い物に行きたい、というものである。
 ただでさえ寝る時間を圧迫しているというのに、これ以上話を長引かせると睡眠時間が消え去ってしまう。

「家の周りですか・・・・・・」

 冨岡はどうしようか、と思案しながら呟いた。

「ああ、もちろん家の中までは入らない。ただ土を取らせてもらえればいいんだ。頼むよ」

 再び美作に懇願された面倒になり、ため息をつく。
 おそらく、きっぱり断っても美作は食い下がってくるだろう。それならば、と冨岡は首を縦に振った。

「わかりました。家の周りを掘ってもいいですよ」
「本当か?」
「ええ。でも、さっきも言いましたけど、俺は今から買い出しに行くんですよ。案内はできませんが、この道を進んだところに一軒だけ家があるので、勝手に掘ってください」

 そう言われた美作は、少年のように無垢な笑みを浮かべる。

「全然いいさ。ありがとう、助かるよ!」

 その笑顔によって冨岡はようやく気づいたのだが、髪や髭が手入れされていないだけで、美作顔はやけに整っていた。
 芸能人だと言われても驚かないくらいである。
 だが、そんなことはどうでもいい。今の冨岡には時間がないのだ。

「じゃあ、俺はこれで」

 冨岡が車を走らせようと前を向くと、美作が再び窓を叩いた。

「何ですか、まだ何か用が?」
「これを持っててくれ」

 美作は言いながら名刺を見せる。先ほど見せてもらったものと同じだ。
 それを欲しいとは思わなかったが、ここで断ればまた話が長引く。仕方なく冨岡は窓を開けた。

「特に仕事を頼むことはないと思いますが、一応」
「アンタには借りができたからな。仕事じゃなくて相談でも何でも聞くよ。商売人ってのは一度できた繋がりを大切にしなきゃなんねぇんだ。これは俺の恩人の言葉さ。困ったことがあったら言ってきな」
「あ、はい。ありがとうございます」

 意外にも美作はいい人なのかもしれない、と思いながら礼を言い、冨岡は頭を下げる。
 
「じゃあ、俺行きますね」
「ああ、止めてすまなかったな」

 そう言いながら美作が車から離れたのを確認し、冨岡はアクセルをゆっくりと踏んだ。
 自分から離れていく車を眺めながら美作はポケットを探る。
 くしゃくしゃに潰れた箱からタバコを取り出すと咥えて火をつけた。

「ふぅ、アンタの孫は思ってたより元気そうだったぜ、源次郎さん。受けた恩は孫に返せばいいんだよな?」

 煙と言葉を同時に吐き出しながら美作は星空を見上げる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...