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手を広げて福音を
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読んで字の如く、とまでは言わないが冒険者は冒険する者。そもそも『冒険』の言葉の意味は危険を伴う行為をあえてすること、である。
食品販売にも当然、火傷などの怪我をする危険性はあるだろう。しかし、冒険者が想像する危険とは違うものだ。
「冒険者さんを移動販売『ピース』で雇う、ですか? それは、ちょっと思考の端にもありませんでした。どうなんでしょう、あまり冒険者さんのことを知らないので、何とも言い難いです」
アメリアが戸惑いを隠せずに言う。
すると冨岡は自分の顎に触れながら考えをそのまま言葉にした。
「確かに俺の中でも、冒険者は魔物退治やらを生業にしているイメージです。ただ、これはどんな職業にも言えることなんですけど、その職に就いてから自分と合わなかった、なんてことあるじゃないですか」
「それはそうですけど、生きていくためには仕方ないのかな、と」
これは生きてきた世界による価値観の相違だろう。
冨岡がいた世界の現代ならば自由に職業を選ぶことができるし、一度就いてみて合わなければ転職することも珍しくはない。
しかし、この世界ではまだ、それほど職業を自由に選ぶことができないのだろう。
アメリアの言葉から、そんな窮屈な価値観を植え付けられているように感じた冨岡は、それ自体を否定しないように言葉を選びながら話す。
「そうですね、生きていくためには働かなければならないですからね。ただ、もしかすると冒険者になってみたものの、冒険者以外の仕事をしたいと思っている人もいるかもしれません。そんな人を紹介してもらうのはいかがでしょうか?」
「確かに冒険者さんは危険な仕事ですし、辞めたいと思っている方はいらっしゃるかもしれませんね」
冨岡の柔軟な発想に対して思っていたよりも好感触のアメリア。頭になかっただけで、考えてみれば互いにとって利益のある話かもしれない、と気づく。
彼女が受け入れてくれたのを感じた冨岡は即座に話を進めた。
「じゃあ、明日にでも冒険者ギルドに行ってみましょう。移動販売『ピース』のピークは朝から昼過ぎにかけてですから、売る数を調節すれば夕方には売り切れるはずです。その後なら時間ありますよね」
「あれ、でももう仕込みは終わらせてるんですよね? メルルさんのところにパンの発注もしていますし」
「もちろん、食材を無駄にはしませんよ。ちょっと考えていたんですけど、残った分は困っている人に配りませんか? それでも十分利益は確保できますからね」
そう冨岡が提案する。
これはいきなりのアイデアではない。このまま順調に進めば、困っている子どもを助けることは叶うだろう。それは『明日』を救う行いだ。
しかし、親がいても食べることのできない子や大人もいるだろう。
残り物、といえば聞こえは悪いが営業時間を決めて、売れていない分を配れば『今日』を助けることができるはずだ。
目先のことばかり考えるのは、確かに賢いとは言えない。だが、目先のことで精一杯の人もいる。今日よりも明日という言葉は確かに素晴らしいものだ。それでも明日は今日の続きである。
明日のために今日を生きていかなければならない。
アメリアはそのことを身をもって知っていた。
「それはいいですね。素晴らしい考えだと思います」
食品販売にも当然、火傷などの怪我をする危険性はあるだろう。しかし、冒険者が想像する危険とは違うものだ。
「冒険者さんを移動販売『ピース』で雇う、ですか? それは、ちょっと思考の端にもありませんでした。どうなんでしょう、あまり冒険者さんのことを知らないので、何とも言い難いです」
アメリアが戸惑いを隠せずに言う。
すると冨岡は自分の顎に触れながら考えをそのまま言葉にした。
「確かに俺の中でも、冒険者は魔物退治やらを生業にしているイメージです。ただ、これはどんな職業にも言えることなんですけど、その職に就いてから自分と合わなかった、なんてことあるじゃないですか」
「それはそうですけど、生きていくためには仕方ないのかな、と」
これは生きてきた世界による価値観の相違だろう。
冨岡がいた世界の現代ならば自由に職業を選ぶことができるし、一度就いてみて合わなければ転職することも珍しくはない。
しかし、この世界ではまだ、それほど職業を自由に選ぶことができないのだろう。
アメリアの言葉から、そんな窮屈な価値観を植え付けられているように感じた冨岡は、それ自体を否定しないように言葉を選びながら話す。
「そうですね、生きていくためには働かなければならないですからね。ただ、もしかすると冒険者になってみたものの、冒険者以外の仕事をしたいと思っている人もいるかもしれません。そんな人を紹介してもらうのはいかがでしょうか?」
「確かに冒険者さんは危険な仕事ですし、辞めたいと思っている方はいらっしゃるかもしれませんね」
冨岡の柔軟な発想に対して思っていたよりも好感触のアメリア。頭になかっただけで、考えてみれば互いにとって利益のある話かもしれない、と気づく。
彼女が受け入れてくれたのを感じた冨岡は即座に話を進めた。
「じゃあ、明日にでも冒険者ギルドに行ってみましょう。移動販売『ピース』のピークは朝から昼過ぎにかけてですから、売る数を調節すれば夕方には売り切れるはずです。その後なら時間ありますよね」
「あれ、でももう仕込みは終わらせてるんですよね? メルルさんのところにパンの発注もしていますし」
「もちろん、食材を無駄にはしませんよ。ちょっと考えていたんですけど、残った分は困っている人に配りませんか? それでも十分利益は確保できますからね」
そう冨岡が提案する。
これはいきなりのアイデアではない。このまま順調に進めば、困っている子どもを助けることは叶うだろう。それは『明日』を救う行いだ。
しかし、親がいても食べることのできない子や大人もいるだろう。
残り物、といえば聞こえは悪いが営業時間を決めて、売れていない分を配れば『今日』を助けることができるはずだ。
目先のことばかり考えるのは、確かに賢いとは言えない。だが、目先のことで精一杯の人もいる。今日よりも明日という言葉は確かに素晴らしいものだ。それでも明日は今日の続きである。
明日のために今日を生きていかなければならない。
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「それはいいですね。素晴らしい考えだと思います」
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