百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

文字の大きさ
上 下
143 / 498

今伝えるべきこと

しおりを挟む
「・・・・・・そうね。あなたの保証なら・・・・・・あなたの保証なら信じてもいいわ」

 真剣な眼差しで問いかける冨岡に対して、ローズは言いにくそうにしながらも素直に答えた。
 その様子に執事ダルクは驚きを隠せない。

「ローズお嬢様が素直に・・・・・?」

 これまで、他人を困らせるようなわがままを通してきたローズの言葉とは思えなかった。
 冨岡相手でも、ある意味いつも通りな態度だったローズ。そんな彼女が冨岡の保証を信じてもいい、だなんて信じがたい。
 しかし、冨岡にとってローズの答えは想定通りだった。

「ありがとうございます。それじゃあ、書いてみてください」

 冨岡はそう言ってからケチャップの絞りだし方を教える。
 ローズがオムライスに文字を書いている最中、冨岡はこっそりダルクに話しかけた。
 密命を受けたダルクは一人で厨房を出ていく。
 
「難しいものね・・・・・・これで文字を書くの」

 ケチャップ文字に苦戦しているローズは助言を求めるように冨岡の顔を見上げた。
 そこで彼女はダルクがいないことに気づく。

「あれ? ダルクがいないじゃない。どこへ行ったのかしら。執事だというのに」
「ああ、俺が頼み事をしたんです」
「あなたが? そう、それならいいんだけど。それよりもこの赤いソースで文字を書くのが思っていたよりも難しいわ」
「そうですね、意外と難しいものなんです。えっと、想像よりも弱く絞り出してください。あとは文字数に限りがあるので、できる限り短い言葉で書くのもコツです」
「弱く、短くね」

 助言にもならない助言を存外素直に受け入れたローズは『こちらの世界の文字』で父親ホース公爵と母親公爵夫人へのメッセージを書いた。

「できたわ!」

 その文字が読めないため出来栄えの判断はできない冨岡だったが、ローズの表情から満足そうなのはわかる。

「普段伝えられない思いを文字にすることはできましたか?」
「それはわからないけど・・・・・・楽しかったわ。思っていたよりも」
「それが一番ですね。じゃあ、さっそくホース公爵様にお届けしましょうか」
「今から!?」

 冨岡の言葉に驚きを隠せないローズ。たとえ娘のローズだとしても公爵である父には簡単に会うことはできない。
 それなのに、他人であり貴族でもないだろう冨岡が今から料理を届けるというのだ。
 ローズからするとありえない話だった。

「お父様は公爵よ? そんな簡単に・・・・・・」
「ホース公爵様は公爵様であると同時に、ローズお嬢様の御父上です。今この瞬間を逃すと後悔することはご理解いただけると思いますよ」
「後悔・・・・・・」
「伝えたいことを言わずにいると、だんだん言えなくなっていくものです。俺には両親がおらず、俺は祖父に育てられ生きてきました。感謝の気持ちはあったもののしっかりと言葉にすることができず、祖父が亡くなってから伝えておけばよかったと後悔しています。どうか、ローズお嬢様にも公爵様にもそんな後悔をしないでいただきたいのです」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...