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今伝えるべきこと
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「・・・・・・そうね。あなたの保証なら・・・・・・あなたの保証なら信じてもいいわ」
真剣な眼差しで問いかける冨岡に対して、ローズは言いにくそうにしながらも素直に答えた。
その様子に執事ダルクは驚きを隠せない。
「ローズお嬢様が素直に・・・・・?」
これまで、他人を困らせるようなわがままを通してきたローズの言葉とは思えなかった。
冨岡相手でも、ある意味いつも通りな態度だったローズ。そんな彼女が冨岡の保証を信じてもいい、だなんて信じがたい。
しかし、冨岡にとってローズの答えは想定通りだった。
「ありがとうございます。それじゃあ、書いてみてください」
冨岡はそう言ってからケチャップの絞りだし方を教える。
ローズがオムライスに文字を書いている最中、冨岡はこっそりダルクに話しかけた。
密命を受けたダルクは一人で厨房を出ていく。
「難しいものね・・・・・・これで文字を書くの」
ケチャップ文字に苦戦しているローズは助言を求めるように冨岡の顔を見上げた。
そこで彼女はダルクがいないことに気づく。
「あれ? ダルクがいないじゃない。どこへ行ったのかしら。執事だというのに」
「ああ、俺が頼み事をしたんです」
「あなたが? そう、それならいいんだけど。それよりもこの赤いソースで文字を書くのが思っていたよりも難しいわ」
「そうですね、意外と難しいものなんです。えっと、想像よりも弱く絞り出してください。あとは文字数に限りがあるので、できる限り短い言葉で書くのもコツです」
「弱く、短くね」
助言にもならない助言を存外素直に受け入れたローズは『こちらの世界の文字』で父親ホース公爵と母親公爵夫人へのメッセージを書いた。
「できたわ!」
その文字が読めないため出来栄えの判断はできない冨岡だったが、ローズの表情から満足そうなのはわかる。
「普段伝えられない思いを文字にすることはできましたか?」
「それはわからないけど・・・・・・楽しかったわ。思っていたよりも」
「それが一番ですね。じゃあ、さっそくホース公爵様にお届けしましょうか」
「今から!?」
冨岡の言葉に驚きを隠せないローズ。たとえ娘のローズだとしても公爵である父には簡単に会うことはできない。
それなのに、他人であり貴族でもないだろう冨岡が今から料理を届けるというのだ。
ローズからするとありえない話だった。
「お父様は公爵よ? そんな簡単に・・・・・・」
「ホース公爵様は公爵様であると同時に、ローズお嬢様の御父上です。今この瞬間を逃すと後悔することはご理解いただけると思いますよ」
「後悔・・・・・・」
「伝えたいことを言わずにいると、だんだん言えなくなっていくものです。俺には両親がおらず、俺は祖父に育てられ生きてきました。感謝の気持ちはあったもののしっかりと言葉にすることができず、祖父が亡くなってから伝えておけばよかったと後悔しています。どうか、ローズお嬢様にも公爵様にもそんな後悔をしないでいただきたいのです」
真剣な眼差しで問いかける冨岡に対して、ローズは言いにくそうにしながらも素直に答えた。
その様子に執事ダルクは驚きを隠せない。
「ローズお嬢様が素直に・・・・・?」
これまで、他人を困らせるようなわがままを通してきたローズの言葉とは思えなかった。
冨岡相手でも、ある意味いつも通りな態度だったローズ。そんな彼女が冨岡の保証を信じてもいい、だなんて信じがたい。
しかし、冨岡にとってローズの答えは想定通りだった。
「ありがとうございます。それじゃあ、書いてみてください」
冨岡はそう言ってからケチャップの絞りだし方を教える。
ローズがオムライスに文字を書いている最中、冨岡はこっそりダルクに話しかけた。
密命を受けたダルクは一人で厨房を出ていく。
「難しいものね・・・・・・これで文字を書くの」
ケチャップ文字に苦戦しているローズは助言を求めるように冨岡の顔を見上げた。
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「弱く、短くね」
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「普段伝えられない思いを文字にすることはできましたか?」
「それはわからないけど・・・・・・楽しかったわ。思っていたよりも」
「それが一番ですね。じゃあ、さっそくホース公爵様にお届けしましょうか」
「今から!?」
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それなのに、他人であり貴族でもないだろう冨岡が今から料理を届けるというのだ。
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「お父様は公爵よ? そんな簡単に・・・・・・」
「ホース公爵様は公爵様であると同時に、ローズお嬢様の御父上です。今この瞬間を逃すと後悔することはご理解いただけると思いますよ」
「後悔・・・・・・」
「伝えたいことを言わずにいると、だんだん言えなくなっていくものです。俺には両親がおらず、俺は祖父に育てられ生きてきました。感謝の気持ちはあったもののしっかりと言葉にすることができず、祖父が亡くなってから伝えておけばよかったと後悔しています。どうか、ローズお嬢様にも公爵様にもそんな後悔をしないでいただきたいのです」
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