133 / 498
ローズ・キュルケース
しおりを挟む
疑問形の言葉ではあるものの、核心をつく彼女の言葉に冨岡は動揺を隠せなかった。
そこで確信したローズは冨岡を睨む。
「あなたは勝負と言ったわよね。勝負って手を抜くものなの? やるなら本気でやりなさいよ」
怒っているというよりも、ガッカリしたという表情を浮かべるローズ。
彼女はわかりやすく『子ども扱い』されたことで失望したのだった。
公爵家の一人娘として生まれたローズはまさにお姫様のように育てられた。生まれた時からほとんどの人間がローズに対して一定の距離を置き、敬語で接する。
唯一心を許せるはずの両親すら、公務や社交で忙しくローズとの時間が中々取れない。
そんなローズが感じ続けたのは、言葉にできないほどの孤独感。寂しさであった。
まるで高い塔の上に閉じ込められているかのように、膝を抱えて部屋の隅にいるかのように、自分は一人なのだと思い続けている。
全てではなくとも孤独の片鱗を感じ取った冨岡は、反省しつつも「やっぱり・・・・・・」と小さく呟いた。
「すみません、手を抜いたというよりもお嬢様にも楽しんでいただきたいとおもって・・・・・・いや、言い訳ですね」
冨岡が謝罪するとローズはため息をついて腕を組む。
「そういうことなら・・・・・・でも、私は手を抜かれるよりも惨敗した方がいいわ。むかつくけど」
「むかつくんじゃないですか。でも、わかりました。ここから先は失礼のないようしますね」
「そうよ。ほら、もう一回よ。ここからが本当の勝負なの。だからこれまでの負けはなかったことにするわ」
「めちゃくちゃ悔しいんじゃないですか」
「当たり前よ!」
妙な大人っぽさと、純粋な子どもらしさを兼ね備えた公爵家令嬢。それがローズ・キュルケースの本質である。
そう理解した途端、冨岡の中で彼女が偏食かつワガママであることの理由に確信が生まれた。漠然と持っていた予想を裏付ける彼女の性質。
しかし、それを正面から言い放ったところで受け入れられるわけがない。ただ彼女を辱めるだけだ。
大切なのは彼女の心に寄り添うこと。
冨岡はそう考え、容赦なく盤面を真っ白に染め続ける。
七回真っ白を見たところで、窓から橙色の光が差し込み、冨岡は夕方なのだと気づいた。
「おっと、もうこんな時間ですね。じゃあ、そろそろ・・・・・・」
冨岡がそう言うとローズは立ち上がり不満を言葉にする。
「何よ、もう帰るって言うの? 勝ち逃げは許さないわよ!」
手抜きも勝ち逃げも許されないのならずっと帰れないじゃないか、と冨岡は作り笑いを浮かべた。
「そろそろ夕食の時間ですからね」
「だから、帰るってこと?」
「まだ帰りませんよ。お嬢様の夕食を作るんです」
そこで確信したローズは冨岡を睨む。
「あなたは勝負と言ったわよね。勝負って手を抜くものなの? やるなら本気でやりなさいよ」
怒っているというよりも、ガッカリしたという表情を浮かべるローズ。
彼女はわかりやすく『子ども扱い』されたことで失望したのだった。
公爵家の一人娘として生まれたローズはまさにお姫様のように育てられた。生まれた時からほとんどの人間がローズに対して一定の距離を置き、敬語で接する。
唯一心を許せるはずの両親すら、公務や社交で忙しくローズとの時間が中々取れない。
そんなローズが感じ続けたのは、言葉にできないほどの孤独感。寂しさであった。
まるで高い塔の上に閉じ込められているかのように、膝を抱えて部屋の隅にいるかのように、自分は一人なのだと思い続けている。
全てではなくとも孤独の片鱗を感じ取った冨岡は、反省しつつも「やっぱり・・・・・・」と小さく呟いた。
「すみません、手を抜いたというよりもお嬢様にも楽しんでいただきたいとおもって・・・・・・いや、言い訳ですね」
冨岡が謝罪するとローズはため息をついて腕を組む。
「そういうことなら・・・・・・でも、私は手を抜かれるよりも惨敗した方がいいわ。むかつくけど」
「むかつくんじゃないですか。でも、わかりました。ここから先は失礼のないようしますね」
「そうよ。ほら、もう一回よ。ここからが本当の勝負なの。だからこれまでの負けはなかったことにするわ」
「めちゃくちゃ悔しいんじゃないですか」
「当たり前よ!」
妙な大人っぽさと、純粋な子どもらしさを兼ね備えた公爵家令嬢。それがローズ・キュルケースの本質である。
そう理解した途端、冨岡の中で彼女が偏食かつワガママであることの理由に確信が生まれた。漠然と持っていた予想を裏付ける彼女の性質。
しかし、それを正面から言い放ったところで受け入れられるわけがない。ただ彼女を辱めるだけだ。
大切なのは彼女の心に寄り添うこと。
冨岡はそう考え、容赦なく盤面を真っ白に染め続ける。
七回真っ白を見たところで、窓から橙色の光が差し込み、冨岡は夕方なのだと気づいた。
「おっと、もうこんな時間ですね。じゃあ、そろそろ・・・・・・」
冨岡がそう言うとローズは立ち上がり不満を言葉にする。
「何よ、もう帰るって言うの? 勝ち逃げは許さないわよ!」
手抜きも勝ち逃げも許されないのならずっと帰れないじゃないか、と冨岡は作り笑いを浮かべた。
「そろそろ夕食の時間ですからね」
「だから、帰るってこと?」
「まだ帰りませんよ。お嬢様の夕食を作るんです」
0
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる