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マナー
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貴族とは周囲の目を気にするもの。いつか嫁がせるだろう娘の偏食を治したいと思うのは見栄でもあり、親心でもあった。
そんな中、肉と野菜を使った『この世のものとは思えないほど美味しいもの』の話を聞いた男は自分でこの店まで足を運んだのである。娘が食べてくれると信じて。
そんな話を聞いたのでは断るわけにもいかない。冨岡はアメリアとフィーネに確認する。
「アメリアさん、フィーネちゃん。今日の晩御飯は他の料理でもいいかな?」
貴族に対して一定の抵抗感を抱いていたアメリアも、男の事情に心を動かされ頷いた。
「はい、私は大丈夫ですよ」
「フィーネも大丈夫! 他のものも食べてみたいから」
二人の許可を得た冨岡は貴族の男に微笑みかけ、冷蔵庫から残っていた材料を取り出す。
「少し待っていてもらえますか? すぐに準備します。娘さんに食べてもらえるかは分からないですけど、美味しいハンバーガーを作りますね」
「おお、本当かい。すまない、助かるよ」
男は一気に明るい表情を浮かべ、ゴソゴソと上着のポケットを探った。少し大きめの布袋を取り出す。その中から金色の硬貨を取り出すと冨岡に問いかけた。
「これで足りるかな?」
「い、いやいやいやいや」
大袈裟に否定すると男はもう一枚金貨を取り出す。
「そうか、じゃあこれで」
「違いますよ。多すぎますって、ハンバーガーに金貨を出さないでください」
この世界において金貨は一万円程度の価値として扱われている。どんな高級ハンバーガーなのか、と冨岡は苦笑いを浮かべた。
貴族の金銭感覚とはやはり庶民とは違うのだろうか。冨岡が焦っていると隣にいたアメリアが小声で話しかける。
「トミオカさん」
「はい?」
「どこのお店でも貴族様相手だと少し割高にするものなんですよ。儲けようという目的もありますが、貴族様相手だと接客の丁寧さも求められますし、高くすることで高級感を出すこともできます。ですから、貴族様は屋台の適正価格など知らないんですよ」
それがこの世界の商売らしい。貴族かどうかは服装や佇まいでわかる。とれるところからとる、というのは理解できなくもない。
しかし、冨岡は薄利多売な商売を考えている。たとえ相手が貴族だとわかっても価格を変えることはない。
「ハンバーガーは二つで銀貨一枚ですよ。金貨なんて必要ありません」
冨岡が優しい口調で値段を伝えると貴族の男は一瞬止まってから微笑む。
「ははっ、随分と実直な店主のようだ。私が貴族だとわかり、金貨を見ても値段を変えないとは」
「もしかして試してました?」
男の言葉から冨岡はそう気づいた。
「ああ、すまない。使用人から値段は聞いていたからね。だが、試したつもりはないよ、これが屋台のマナーだと認識している。貴族が多めに払うのは当然じゃないかな」
「それなら適正価格で販売するのが俺のマナーです。相手が誰であれ、お客様はお客様ですよ。身分は関係ありません。ですから、たとえ貴族様だとしても値段は守ってもらいます」
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「おお、本当かい。すまない、助かるよ」
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「ははっ、随分と実直な店主のようだ。私が貴族だとわかり、金貨を見ても値段を変えないとは」
「もしかして試してました?」
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「ああ、すまない。使用人から値段は聞いていたからね。だが、試したつもりはないよ、これが屋台のマナーだと認識している。貴族が多めに払うのは当然じゃないかな」
「それなら適正価格で販売するのが俺のマナーです。相手が誰であれ、お客様はお客様ですよ。身分は関係ありません。ですから、たとえ貴族様だとしても値段は守ってもらいます」
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