百億円で異世界に学園作り〜祖父の遺産で勇者・聖女・魔王の子孫たちを育てます〜

澤檸檬

文字の大きさ
上 下
2 / 498

源次郎の遺書

しおりを挟む
『浩哉へ。これを読んでいる頃には私はもう死んでいるだろう。もしかすると死んでから日が開いているかもしれないな。お前は目の前のことで精一杯になってしまう性格だ。だが、それは悪いことではない。何事にも真摯に向き合っているという証拠だ』
「なんでわかるんだよ、爺ちゃん」

 自分の行動を予測されていた冨岡は少しの恥ずかしさを感じながら呟く。そしてまた遺書を読み始めた。

『私が筆を取ったのはお前に伝えなければならないことがあるからだ。もっと早くに伝えなければならなかったが、お前が可愛くてどうしても言えなかった。一度深呼吸をしてから読んでくれ。したか? 本当に深呼吸したか? 深呼吸とは深く息を吸い込んで吐き出すことだ。深呼吸をしてから読むんだぞ』
「しつこいよ爺ちゃん。したよ、もう十分なほど深呼吸したよ」

 そうコメントしてから冨岡は遺書の続きを読む。

『深呼吸したな。いいか最初に吐き出す動作が重要だ。吐き出さなければ吸い込むことはできない』
「なんで深呼吸に対してこんなに熱量あるんだよ。もうわかったよ」
『そろそろ深呼吸は終わった頃だろう。いいか、お前と私は血が繋がっていない。それだけだ。あと山ははお前にやる。売れば少しは金になるだろう』

 そこで遺書は終わっていた。
 全てを読み終えた冨岡は思わずこう叫ぶ。

「終わり!? 待って待って、深呼吸についての文字数の方が伝えたいことよりも多いのはどういうことだよ。ってか、サラッと流すな。え、血が繋がっていないってどういう」

 遺書の内容に驚いると冨岡は封筒の中に小さなメモが残っているのを発見した。

「ん、なんだこれ」

 そう言いながらメモを手に取るとこんなことが書いてある。

『続きは押入れにある』
「いや、謎解きゲームか。全部遺書に書いてよ!」

 源次郎の茶目っ気だろうか。そんなものに惑わされながら冨岡は押入れに向かう。
 埃っぽい押入れの中を探すと冨岡は『遺書第二章』と書かれた封筒を発見した。

「本当に遺書なのか、これは。死の間際に書いたはずだよな」

 言いながらも冨岡は封筒を開け、便箋を読む。

『よく見つけたな。こちらが本題だ。深呼吸してからよく読め』
「もういいよ、深呼吸は」
『深呼吸したか?』
「うるさいな。悲しみも吹き飛ぶぞ?」
『第一章についてを詳しく説明する第二章の始まりです』
「無いから、遺書に章なんて」
『心して読め。お前は私の友人夫婦の子どもだ。その夫婦は私の恩人でな、どうしようもない時に救われている。そんな友人たちが遺したお前を私は愛おしくてたまらなくない。そうして自分の孫として育てることにした。お前との生活は楽しく、お前の成長は私にとって人生の喜びだったよ。ありがとう。その上で私がお前に遺せるものはこの気持ちと山だけだ。誰かが成長していく喜び、それを教えてくれる出会い。それを知るために山を売れ。もう既に業者には連絡してある。連絡先のメモを入れておくから気づいた時に連絡するように。そしてこれが最後の言葉だ。私の家族でいてくれてありがとう、浩哉。お前は私の誇りだよ。どうか困っている人間を助けられる人間であってくれ。お前の両親のようにな。源次郎より』

 源次郎の遺書はそう締めくくられていた。
 途中、源次郎の茶目っ気に驚き笑っていた冨岡だが読み終えた瞬間に涙が溢れてくる。どうしても止められない涙。
 しかし、それは悲しみではなく源次郎からの愛情を感じて流した涙だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...